【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

LAMA+LABAの併用で脳卒中リスクは増加しますか?

 

「Long-acting Inhaled Bronchodilator and Risk of Vascular Events in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease in Taiwan Population.」

PMID:26705214

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26705214

 

PECO

: 18歳以上でCOPDと診断された患者(596人、台湾、平均年齢70歳、男性86%)

: LAMA+LABAおよびLABA+ICS(82人)またはLAMA単独(196人)

: LABA単独(318人)

: 脳卒中・心不全・心室性不整脈・心筋梗塞・狭心症による入院

※除外→喘息・肺高血圧症・睡眠時無呼吸症候群・肺炎・18歳以下の時点でCOPDと診断された患者は除外。登録日以前に脳卒中・心不全・心室性不整脈・心筋梗塞・狭心症と診断された患者も除外。

 

チェック項目

・研究デザイン : 人口ベースの後ろ向きコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・集団の代表性は? : 全民健康保険のデータベースが使用されており大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢・性別・併存疾患・併用薬について調整されている

・追跡期間 : 11年間

 

結果

[併用群 vs LABA単独群]

・脳卒中 : E群(8.53%) vs C群(1.26%)→調整ハザード比1.04(95%信頼区間1.06~2.99)、NNH=14

・その他のアウトカムについては有意な差は見られていない

 

※二次アウトカム

・心血管イベント(心不全・心室性不整脈・心筋梗塞・狭心症)→調整ハザード比1.53(95%信頼区間1.03~2.89)

・心血管-脳血管疾患(一次アウトカムを全て複合したもの)→調整ハザード比1.18(95%信頼区間1.04~2.93)

 

[LAMA単独群 vs LABA単独群]

・全てのアウトカムについて有意な差は見られていない

 

感想

小規模の観察研究であり発症数が少なかったためか95%信頼区間の幅が広いアウトカムも多いので有意な差が見られなかったものについても注意が必要ではありますが、ひとまずCOPD患者ではLAMA+LABAまたはLABA+ICSの併用を行うことにより脳卒中リスクが増加することが示唆されております。総死亡については検討されていないようで少し残念です。

交絡因子の調整が十分には行われていない印象でありますが、そもそもCOPD患者では虚血性脳卒中や出血性脳卒中のリスクが高いことが示唆されている研究もあり(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26414484 PMID:26414484)、単剤ではコントロールが難しい患者ではそもそもの脳卒中リスクが高いという可能性も考えられます。

 

今回はその他の研究も見てみましょう。

PMID:19633090 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19633090

→システマティックレビュー。

LABA+ICSはLABA単独と比較してCOPD急性憎悪・総死亡・心血管死亡について有意な差は見られていない。

中等度の急性憎悪のリスクは減少[相対リスク0.84(95%信頼区間0.74~0.96)I2=50%]。

肺炎のリスクは増加[相対リスク1.63(95%信頼区間1.35~1.98)I2=20%]。

 

PMID:24952426 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24952426

→後ろ向きコホート研究。

LAMA+ICSは長時間型気管支拡張薬単独と比較して総死亡リスクが減少[調整ハザード比0.62(95%信頼区間0.62(95%信頼区間0.45~0.85)]、LABA+ICSでは有意な差が見られていない。

心血管死亡についてはどちらの併用療法も単剤と比較して有意な差は見られていない。

LABA+LAMA+ICSのトリプル療法は総死亡・心血管死亡のリスクを減少[調整ハザード比0.51(95%信頼区間0.41~0.64)][調整ハザード比0.56(95%信頼区間0.35~0.90)]。

 

PMID:21799028 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21799028

→後ろ向きコホート研究。

ICS+LABA+チオトロピウムはICS+LABAと比較して総死亡・入院・経口ステロイドによる治療のリスクを減少[調整ハザード比0.65(95%信頼区間0.57~0.75)][調整ハザード比0.85(95%信頼区間0.73~0.99)][調整ハザード比0.71(95%信頼区間0.63~0.80)]

 

PMID:26799347 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26799347

→コホート研究。

LABA単独とLAMA単独の比較では心血管疾患(急性心筋梗塞・うっ血性心不全)・脳血管疾患に有意な差は見られていない。

LAMA+LABAはLAMA単独およびLABA単独と比較して心血管疾患・脳血管疾患に有意な差は見られていない。

 

3剤併用による総死亡リスクの減少が示唆されているあたりが非常に印象的です。

ただやはり今回の研究の結果や単剤でも死亡リスクを増加させる事が示唆されている点を考慮すると特に脳卒中の既往があるなどのリスクの高い患者での2剤併用は警戒すべきであり、LAMA+LABAの合剤から開始されることもしばしばありますが極力単剤から開始するべきではないかと思います。

 

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