心房細動患者での抗凝固薬の中止(メモ)
【私的背景】
例えば、数回の脳梗塞の既往がある心房細動患者において、ワルファリンによる管理が不良というような場合、中止すべきか継続すべきかについて考えるためのメモを。
①「Cessation of oral anticoagulation is an important risk factor for stroke and mortality in atrial fibrillation patients.」
PMID: 28331926
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28331926
※抄録のみ
→コホート研究
臨床的に安定している非弁膜性心房細動患者(1361例、男性 48.7%、年齢中央値 76歳)が対象。追跡期間中央値 6.5年間。
【抗凝固薬の中止】
・心血管イベント→ハザード比 1.45(95%信頼区間 1.01~2.08)
・脳卒中/TIA→ハザード比 1.85(95%信頼区間 1.17~2.94)
・総死亡→ハザード比 1.30(95%信頼区間 1.02~1.67)
【抗凝固薬中止の予測因子】
・≧80歳→ハザード比 2.29(95%信頼区間 1.60~3.29)
・冠動脈疾患の既往→ハザード比 0.32(95%信頼区間 0.15~0.71)
・大出血→ハザード比 5.00(95%信頼区間 3.49~7.15)
・心不全→ハザード比 2.38(95%信頼区間 1.26~4.47)
・癌→ハザード比 5.24(95%信頼区間 3.25~8.44)
・腎機能障害→ハザード比 2.70(95%信頼区間 1.26~5.75)
「Cessation of oral anticoagulation in relation to mortality and the risk of thrombotic events in patients with atrial fibrillation.」
PMID: 24096615
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24096615
※抄録のみ
→コホート研究
VKAが開始された非弁膜性心房細動患者(529例、男性 49%、年齢中央値 76歳、平均TTR 54%)が対象。
追跡期間中央値 835日間。
【VKAの中止】
・死亡→ハザード比 3.43、P<0.001
・脳卒中→ハザード比 4.21、P=0.001
・血栓/心血管イベント→ハザード比 2.72、P<0.001
③「Non-major bleeding with apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation」
http://dx.doi.org/10.1136/heartjnl-2016-309901
→ARISTOTLE試験のサブ解析
心房細動/粗動を有し、脳卒中危険因子のうち一つ以上を有する患者(18201例、年齢中央値 70歳、女性 35.3%、CHADS2スコアの平均 2.1)が対象。
【非大出血発生後の抗凝固薬の中止】
・30日以内の死亡 : 中止群(10.2%) vs 継続(4.9%)→ハザード比 2.1(95%信頼区間 1.4~3.1)
過去記事
④「Use of Oral Anticoagulants for Stroke Prevention in Patients With Atrial Fibrillation Who Have a History of Intracranial Hemorrhage.」
PMID: 26969761
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26969761
→コホート研究
頭蓋内出血の既往があり、CHA2DS2-VAScスコアが2点以上の心房細動患者(12917例)が対象。
【CHA2DS2-VAScスコアが6点以上でのワルファリンの使用】
虚血性脳卒中に対するNNT=37、頭蓋内出血に対するNNH=56
【CHA2DS2-VAScスコアが6点未満でのワルファリンの使用】
虚血性脳卒中に対するNNT=63、頭蓋内出血に対するNNH=53
※CHAD2DS2-VAScスコア6点以上の場合、頭蓋内出血のリスクに対して虚血性脳卒中のベネフィットが上回る。
過去記事
⑤「Reasons for and consequences of vitamin K antagonist discontinuation in very elderly patients with non-valvular atrial fibrillation.」
PMID: 27471198
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27471198
※抄録のみ
→コホート研究
80歳以上で、非弁膜性心房細動と診断後、ワルファリンが開始された患者(798例)が対象。追跡期間 5年間。
【ワルファリン中止群】
・血栓および大出血イベントは有意に高かった(P=0.01およびP=0.001)
・TTRは有意に低かった(P<0.001)
【ワルファリン中止のリスク因子】
・血管疾患→ハザード比 2.5、P<0.001
・85歳以上→ハザード比 1.4、P=0.04
・TTR<60%→ハザード比 1.8、P=0.001
・出血イベント→ハザード比 2.3、P<0.001
【ワルファリン中止の理由】
フレイルまたは寿命が短い(45.9%)、出血合併症(19.6%)、洞調律の改善(16.9%)
感想
①②では、抗凝固薬を中止することで、総死亡や心血管イベントのリスクが増加することが示唆されておりますが、観察研究であり、中止の予測因子を見てみると、そもそも死亡リスクが高い人が中止になっている可能性が高い点には注意が必要ではありますが、やはり少なくとも安易に中止すべきではない事が示唆されているように思います。
個別で考える必要はあるものの、傾向としては非大出血後や超高齢者においても極力継続した方が良く、頭蓋内出血後では脳卒中リスクが高い場合は継続するベネフィットが大きい事が示唆されている点は非常に参考になります。
さて、上記の例ではやはり抗凝固薬は継続した方が良いように思いますが、ワルファリンの管理が非常に悪いということであれば、NOACへの変更を検討した方がベターかなと思います。
メトホルミンに追加するなら、ピオグリタゾンとSU薬のどちらが良いですか?
【私的背景】
今回は時間がないので、アブストラクトしか読めないけど気になった論文を一報だけ。
「Effects on the incidence of cardiovascular events of the addition of pioglitazone versus sulfonylureas in patients with type 2 diabetes inadequately controlled with metformin (TOSCA.IT): a randomised, multicentre trial」
Published: 13 September 2017
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S2213-8587(17)30317-0
PECO
P : メトホルミン(2~3g/日)単独で治療が行われている、50~75歳の2型糖尿病患者(イタリア、3028例)
E : ピオグリタゾン(15~45mg)を追加(1535例)
C : SU薬(グリベンクラミド 5~15mg、グリメピリド 2~6mg、グリクラジド 30~120mg)を追加(1493例)
O : 総死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中・冠動脈再建術の複合アウトカム
チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化されているか? : ブロックランダム化が行われている
・盲検化されているか? : PROBE法が行われている
・ITT解析されているか? : mITT解析が行われている
・追跡期間中央値 : 57.3ヶ月(早期中止)
結果
ピオグリタゾン群(1.5/100人年) vs SU薬群(1.5/100人年)→ハザード比 0.96(95%信頼区間 0.74~1.26)P=0.79
※低血糖
ピオグリタゾン群(10%) vs SU薬群(34%)→P<0.0001
※両群で中等度の体重増加が見られた(2kg未満)
※心不全、膀胱がん、骨折については有意な差が見られなかった
感想
正直なところ、どっちもどっちかという印象です。
ピオグリタゾン群で有意に低血糖のリスクは低いことが示唆されておりますが、それが選択する根拠になるかと言えば微妙...
現時点では、メトホルミンに追加するならまずはDPP-4阻害薬が妥当なところかなと考えております。
SGLT-2阻害薬も今後選択肢には入ってくるかとは思いますが。
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