高齢者はどれくらい血圧を下げれば良いですか?
【私的背景】
高齢者に対する降圧治療の効果は未だ不明確であるが、先日、高齢者の降圧治療について検討されたメタ解析の論文が発表されたため、今回はそちらを読んでみたいと思う。
「Benefits and Harms of Intensive Blood Pressure Treatment in Adults Aged 60 Years or Older: A Systematic Review and Meta-analysis」
Published: Ann Intern Med. 2017.
DOI: 10.7326/M16-1754
PECO
P : 高血圧症と診断されている60歳以上の患者
E : 厳格な降圧治療
C : 厳格ではない降圧治療
O : 総死亡、脳卒中、心イベント(心筋梗塞・突然の心死亡)
チェック項目
・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・評価者バイアス : 2人のレビューワーが独立してレビューしている。
・出版バイアス : Funnel plotを用いた検討は行われていない。個々の研究者に連絡を取ったか、出版されていない研究も探したか等については記載は見当たらない。
・元論文バイアス : APPENDIX C.を見ると大きな問題はないように思われる。
・異質性バイアス : フォレストプロットを見ると、方向性はある程度一致しているように見える。
結果
【150/90mmHg未満の血圧コントロール】
〇総死亡
・ベースライン時の収縮期血圧が≧160mmHg→相対リスク 0.90(95%信頼区間 0.83~0.98)、I2=0.0%
・ベースライン時の収縮期血圧が<160mmHg→相対リスク 0.85(95%信頼区間 0.72~0.99)、I2=53.1%
〇脳卒中
・ベースライン時の収縮期血圧が≧160mmHg→相対リスク 0.75(95%信頼区間 0.65~0.84)、I2=0.0%
・ベースライン時の収縮期血圧が<160mmHg→相対リスク 0.80(95%信頼区間 0.62~1.01)、I2=66.8%
〇心イベント
・ベースライン時の収縮期血圧が≧160mmHg→相対リスク 0.77(95%信頼区間 0.68~0.89)、I2=3.2%
・ベースライン時の収縮期血圧が<160mmHg→相対リスク 0.86(95%信頼区間0.72~0.96)、I2=40.6%
【収縮期血圧140mmHg未満または拡張期血圧85mmHg以下にコントロール】
〇総死亡→相対リスク 0.86(95%信頼区間 0.69~1.06)、I2=13.3%
〇脳卒中→相対リスク 0.79(95%信頼区間 0.59~0.99)、I2=16.2%
〇心イベント→相対リスク 0.82(95%信頼区間 0.64~1.00)、I2=15.5%
感想
メタ解析としてはあまり質の高いものではない印象であるため、参考程度にしておきたいです。
収縮期血圧150mmHg未満の血圧コントロールについては一定のベネフィットを得られるように思いますが、収縮期血圧140mmHg未満の血圧コントロールについては総死亡について見てみると減少傾向にはあるものの有意な差は見られておらず、ベネフィットついては不明確である印象です。
降圧治療が行われている高齢者について血圧が150/90mmHg以上まで上がってしまった場合は治療の強化について考慮されるべきかなと思いますが、「高齢者」と一口に言ってもその年齢の幅は広く、年齢に伴い降圧治療により得られるベネフィットには違いがあるため、、超高齢者を対象とした降圧治療について検討されているHYVET試験をまた後日読んでみたいと思います。