拡張期血圧を下げすぎると心血管イベントリスクは増加しますか?
今回は以前読んだメタ解析で大きなウェイトを占めていたHOT試験を読んでみたいと思います。
「Effects of intensive blood-pressure lowering and low-dose aspirin in patients with hypertension: principal results of the Hypertension Optimal Treatment (HOT) randomised trial. HOT Study Group.」
PMID:9635947
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9635947
PECO
P : 高血圧症を有しかつ拡張期血圧が100~115mmHgである50~80歳の患者(26ヶ国、18790人、平均年齢61.5歳、平均BMI28.4、平均血圧170/105mmHg、男性53%)
E・C : 目標とする拡張期血圧≦90mmHg(6264人)・≦85mmHg(6264人)・≦80mmHg(6262人)で比較
※更に各群でランダムにアセチルサリチル酸(75mg/日)・プラセボに割り付けている
O : 重大な心血管イベント(致死的または非致死的な心筋梗塞・致死的または非致死的な脳卒中・心血管死亡)
降圧治療→Step1:フェロジピン5mg/日を投与、Step2:目標とする拡張期血圧に達しない場合にはACE阻害薬/β遮断薬を投与、Step3:フェロジピンを10mg/日に増量、Step4:ACE阻害薬/β遮断薬を倍量に増量、Step5:利尿薬を追加
チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確であるが、複合アウトカムであるため注意
・ランダム化が行われているか? : 行われている
・盲検化が行われているか? : PROBEが行われている
・ITT解析が行われているか? : 行われていない。PP解析?
・追跡率 : 94.2%
・平均追跡期間 : 3.8年間
・患者背景 : ほぼ同等
結果
[重大な心血管イベント]
・≦90mmHg(9.9/1000人年) vs ≦85mmHg(10.0/1000人年)→相対リスク0.99(95%信頼区間0.83~1.19)
・≦85mmHg(10.0/1000人年) vs ≦80mmHg(9.3/1000人年)→相対リスク1.08(95%信頼区間0.89~1.29)
・≦90mmHg(9.9/1000人年) vs ≦80mmHg(9.3/1000人年)→相対リスク1.07(95%信頼区間0.89~1.28)
※複合アウトカムの各要素でも有意な差は見られていない。
感想
対象の9割程度は一次予防であったようです。
過度の降圧による心血管イベント増加のJカーブ現象について検証することが目的であった試験のようですが、恐らくITT解析よりも差が出やすいと思われる解析が行われている状況でJカーブ現象は見られず心血管イベントや死亡について大きな差は見られておらず、少なくとも一次予防においては厳格なコントロールをする意義もあまりないように感じます。
糖尿病患者では≦90mmHg群は≦80mmHgと比較すると心血管イベントリスクの増加が示唆されておりますが[相対リスク2.06(95%信頼区間1.24~3.44)]、サブグループ解析であるため注意が必要です。
肝心のCKD患者については特にサブグループ解析なども見当たらず不明という結果でした...
ちなみにアセチルサリチル酸群とプラセボ群の比較ではアセチルサリチル酸群では重大な心血管イベントと複合アウトカムに含まれている心筋梗塞いついて有意にリスクを低下させておりますが[相対リスク0.85(95%信頼区間0.73~0.99)、NNT=625/年][相対リスク0.64(95%信頼区間0.49~0.85)、NNT=770/年]、その他脳卒中や死亡については有意な差は見られていないという結果になっております。