【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

起立性低血圧は認知機能を低下させますか?

今回はご質問をいただいたので低血圧と認知症の関連について見ていきたいと思います。

 

「Orthostatic Hypotension and the Long-Term Risk of Dementia: A Population-Based Study.」

PMID:27727284

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27727284

 

PECO

: ロッテルダムのオンモールトに住む55歳以上の成人(6204人、平均年齢68.5±8.6歳、女性59.7%、平均血圧139±22/74±11mmHg、降圧薬による治療30.7%、平均BMI26.3±3.6kg/㎡)

: 起立性低血圧あり(起立後3分以内に収縮期血圧20mmHg以上または拡張期血圧10mmHg以上の低下があるもの)

: なし

: 認知症の発症(MMSEなどでスクリーニングされる)

 

チェック項目

・研究デザイン : 人口ベースのコホート研究

・対象集団の代表性は? : ロッテルダムの一部地域のみの住民を対象としたものなので、そのまま日本人に適応できるかは疑問の余地はある

・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、喫煙、飲酒、血圧、降圧薬、総コレステロール/HDLコレステロール比、脂質降下薬、糖尿病、BMI、抗コリン薬、アポリポ蛋白質E

・追跡期間中央値 : 15.3年間

 

結果

【起立性低血圧あり】

・全ての認知症→調整ハザード比1.15(95%信頼区間1.00~1.34)P=0.05

・アルツハイマー病→調整ハザード比1.17(95%信頼区間0.99~1.37)P=0.07

・血管性認知症→調整ハザード比1.20(95%信頼区間0.73~1.96)P=0.48

 

【起立時に収縮期血圧の変動が見られる】

・全ての認知症→調整ハザード比1.08(95%信頼区間1.01~1.16)P=0.02

・アルツハイマー病→調整ハザード比1.11(95%信頼区間1.04~1.20)P=0.003

・血管性認知症→調整ハザード比0.92(95%信頼区間0.76~1.13)P=0.43

 

感想

起立性低血圧が認知症リスクをわずかに増加させることが示唆されていますが、Fig1を見るとそもそも高齢になるほど起立性高血圧の割合が高くなる傾向にあるようなので原因と因果の関係については判断しかねるところではあります。

 

その他に、認知症または軽度認知障害のある高齢者において降圧薬の使用による血圧の低下(≦128mmHg)が認知機能をわずかに低下させることが示唆されている研究も発表されており(PMID:25730775 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25730775 )、転倒・骨折リスク等も含めて考えると特に高齢者への過度の降圧には注意が必要であり、症候性低血圧について注意深く観察する必要があると考えます。

 

他にもいくつかの研究を見つけましたがそちらはまた次回に。