【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

フレイルのある高齢者も血圧は低いほうが良いですか?

 私的背景】

80歳以上の高齢者に対する降圧治療のベネフィットは不明な部分が多いが、今回興味深い論文を見つけたので読んでみたいと思う。

 

「Systolic Blood Pressure Trajectory, Frailty and All-Cause Mortality Over 80 Years of Age. Cohort Study Using Electronic Health Records.」

PMID:28432148

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28432148

 

PECO

: 80歳以上の高齢者(英国、144403例)

: ①収縮期血圧 <110mmHg、②110~119mmHg、③140~159mmHg、④≧160mmHg

: 120~139mmHg

: 総死亡

 

チェック項目

・研究デザイン : コホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

対象集団の代表性は? : 一般診療のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢、併存疾患(CHD、脳卒中、癌、COPD、筋骨格障害、消化管疾患、神経系疾患、認知症)、総コレステロール、喫煙歴、降圧薬の数、降圧薬の種類

・追跡期間 : 5年間

 

結果

【降圧薬による治療なし】

〇男性

・健常

①→調整ハザード比 1.71(95%信頼区間 1.42~2.05)P<0.001

②→調整ハザード比 1.29(95%信頼区間 1.13~1.47)P<0.001

③→調整ハザード比 0.83(95%信頼区間 0.76~0.90)P<0.001

④→調整ハザード比 0.87(95%信頼区間 0.76~0.99)P=0.029

 

・軽度のフレイル

①→調整ハザード比 1.96(95%信頼区間 1.66~2.30)P<0.001

②→調整ハザード比 1.47(95%信頼区間 1.31~1.65)P<0.001

③→調整ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.78~0.92)P<0.001

④→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.87~1.17)P=0.876

 

・中等度のフレイル

①→調整ハザード比 2.05(95%信頼区間 1.69~2.47)P<0.001

②→調整ハザード比 1.58(95%信頼区間 1.36~1.84)P<0.001

③→調整ハザード比 0.88(95%信頼区間 0.77~1.00)P=0.052

④→調整ハザード比 1.15(95%信頼区間 0.91~1.46)P=0.239

 

・重度のフレイル

①→調整ハザード比 1.78(95%信頼区間 1.21~2.64)P=0.004

②→調整ハザード比 1.39(95%信頼区間 1.06~1.82)P=0.015

③→調整ハザード比 1.28(95%信頼区間 1.01~1.61)P=0.039

④→調整ハザード比 2.32(95%信頼区間 1.57~3.45)P<0.001

 

〇女性

・健常

①→調整ハザード比 1.63(95%信頼区間 1.35~1.95)P<0.001

②→調整ハザード比 1.26(95%信頼区間 1.10~1.44)P=0.001

③→調整ハザード比 0.78(95%信頼区間 0.67~0.80)P<0.001

④→調整ハザード比 0.82(95%信頼区間 0.72~0.92)P=0.001

 

・ 軽度のフレイル

①→調整ハザード比 1.61(95%信頼区間 1.38~1.88)P<0.001

②→調整ハザード比 1.24(95%信頼区間 1.12~1.39)P<0.001

③→調整ハザード比 0.80(95%信頼区間 0.74~0.87)P<0.001

④→調整ハザード比 0.81(95%信頼区間 0.72~0.92)P=0.001

 

・中等度のフレイル

①→調整ハザード比 2.11(95%信頼区間 1.77~2.53)P<0.001

②→調整ハザード比 1.43(95%信頼区間 1.25~1.64)P<0.001

③→調整ハザード比 0.90(95%信頼区間 0.82~0.99)P=0.039

④→調整ハザード比 0.93(95%信頼区間 0.79~1.11)P=0.423

 

・重度のフレイル

①→調整ハザード比 2.00(95%信頼区間 1.55~2.58)P<0.001

②→調整ハザード比 1.47(95%信頼区間 1.20~1.82)P<0.001

③→調整ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.72~1.01)P=0.062

④→調整ハザード比 0.79(95%信頼区間 0.56~1.11)P=0.176

 

【降圧薬による治療あり】

〇男性

・健常

①→調整ハザード比 2.02(95%信頼区間 1.54~2.66)P<0.001

②→調整ハザード比 1.54(95%信頼区間 1.30~1.83)P<0.001

③→調整ハザード比 0.78(95%信頼区間 0.71~0.85)P<0.001

④→調整ハザード比 0.98(95%信頼区間 0.85~1.13)P=0.748

 

・軽度のフレイル

①→調整ハザード比 2.51(95%信頼区間 2.16~2.91)P<0.001

②→調整ハザード比 1.45(95%信頼区間 1.32~1.60)P<0.001

③→調整ハザード比 0.83(95%信頼区間 0.78~0.88)P<0.0001

④→調整ハザード比 1.04(95%信頼区間 0.94~1.16)P=0.436

 

・中等度のフレイル

①→調整ハザード比 2.00(95%信頼区間 1.71~2.33)P<0.001

②→調整ハザード比 1.44(95%信頼区間 1.29~1.61)P<0.001

③→調整ハザード比 0.89(95%信頼区間 0.82~0.96)P=0.004

④→調整ハザード比 1.18(95%信頼区間 1.01~1.37)P=0.028

 

・重度のフレイル

①→調整ハザード比 1.62(95%信頼区間 1.25~2.09)P<0.001

②→調整ハザード比 1.31(95%信頼区間 1.11~1.53)P=0.001

③→調整ハザード比 0.89(95%信頼区間 0.77~1.03)P=0.112

④→調整ハザード比 1.21(95%信頼区間 0.90~1.63)P=0.212

 

〇女性

・健常

①→調整ハザード比 1.86(95%信頼区間 1.39~2.47)P<0.001

②→調整ハザード比 1.48(95%信頼区間 1.23~1.79)P<0.001

③→調整ハザード比 0.76(95%信頼区間 0.70~0.84)P<0.001

④→調整ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.75~0.96)P=0.011

 

・軽度のフレイル

①→調整ハザード比 1.98(95%信頼区間 1.67~2.35)P<0.001

②→調整ハザード比 1.46(95%信頼区間 1.30~1.63)P<0.001

③→調整ハザード比 0.79(95%信頼区間 0.74~0.84)P<0.001

④→調整ハザード比 0.91(95%信頼区間 0.83~1.00)P=0.068

 

・中等度のフレイル

①→調整ハザード比 2.34(95%信頼区間 1.98~2.77)P<0.001

②→調整ハザード比 1.55(95%信頼区間 1.38~1.75)P<0.001

③→調整ハザード比 0.81(95%信頼区間 0.75~0.87)P<0.001

④→調整ハザード比 0.95(95%信頼区間 0.86~1.06)P=0.401

 

・重度のフレイル

①→調整ハザード比 1.98(95%信頼区間 1.53~2.56)P<0.001

②→調整ハザード比 1.44(95%信頼区間 1.24~1.70)P<0.001

③→調整ハザード比 0.80(95%信頼区間 0.72~0.89)P<0.004

④→調整ハザード比 0.97(95%信頼区間 0.82~1.15)P=0.733

 

感想

全体的に収縮期血圧120~139mmHgと比較して、それよりも低ければ死亡リスクが増加し、それよりも高ければ死亡リスクが低下することが示唆されています。

併用薬など、交絡因子の調整は十分に行われておらず注意が必要ではありますが、80歳以上の高齢者では積極的に血圧を下げるような治療を行う意義は不明であるように思います。

 

SPRINT試験のサブ解析などとは矛盾する結果ではありますが、少なくともフレイルのある高齢者では厳格な血圧管理は行うべきではない印象です。

 

それにしても、SPRINT試験では主に利尿薬が使用され、このコホート研究では死亡リスクの低い収縮期血圧≧140mmHgの約半数で利尿薬が使用されているため(他では使用されている割合が低い)、高齢者と利尿薬についてもまた後程調べてみたいと思います。

 

 

蛇足かもしれませんが、これまでの高齢者に対する降圧治療について検討されている研究を踏まえると、世の中ではやや過剰な治療が行われていることが多いのではないかと感じます。それはなにも降圧治療に限ったことではありませんが。

医療費の面からポリファーマシーについて語られることもありますが、常識的に行われている過剰な医療にアプローチしていくことも重要ではないかと私個人は考えています。

とは言え、私自身、エビデンスをまとめて医師へ情報提供を行ったりしておりますが、現状はなかなかうまくいっておりません。

この辺りの方法論も今後考えていきたいと思います。

 

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