【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

PPIの使用は死亡リスクを増加させますか?

【私的背景】

PPIの使用と死亡リスクについて検討されている興味深い論文を見つけたので読んでみたいと思う。

 

「Risk of death among users of Proton Pump Inhibitors: a longitudinal observational cohort study of United States veterans.」

PMID: 28676480 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28676480

 

PECO

: 米国の退役軍人(349312例、平均年齢61.00歳、男性93.51%)

: PPIの新規使用

: H2RAの新規使用

: 死亡

 

チェック項目

・研究デザイン : 縦断的コホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 退役軍人が対象であり、一般化はできないかもしれない

・交絡因子の調整は? : 年齢、人種、性別、eGFR、血清クレアチニンの測定回数、入院の回数、糖尿病、高血圧、心血管疾患、末梢動脈疾患、脳血管疾患、慢性肺疾患、癌、C型肝炎HIV認知症、GERD、上部消化管出血、潰瘍疾患、ピロリ菌感染、バレット食道、アカラシア、狭窄および食道腺癌について調整されている

・追跡期間中央値 : 5.71年間

 

結果

PPI群(4.74/100人年) vs H2RA群(3.32/100人年)→調整ハザード比 1.25(95%信頼区間 1.23~1.28)、NNH=71人/年

 

※二次コホート

PPI群 vs PPIなし群→調整ハザード比 1.15(95%信頼区間 1.14~1.15)

PPI群 vs PPIまたはH2RAなし群→調整ハザード比 1.23(95%信頼区間 1.22~1.24)

 

PPIに暴露期間による比較

・31~90日 vs ≦30日→ハザード比 1.05(95%信頼区間 1.02~1.08)

・91~180日 vs ≧30日→ハザード比 1.17(95%信頼区間 1.13~1.20)

・181~360日 vs ≧30日→ハザード比 1.31(95%信頼区間 1.27~1.34)

・361~720 vs ≧30日→ハザード比 1.51(95%信頼区間 1.47~1.56)

 

感想

PPIの使用は死亡リスクを増加させることが示唆されております。

しかし、この研究では交絡因子として併用薬については調整されておらず、例えば抗凝固薬と低用量アスピリンが併用されており、消化管出血リスク・死亡リスクが共に高い例では、H2RAと比べてよりPPIの方が使われている等の交絡の可能性も考えられるのではないかと思います。

また処方された期間も、H2RAは120日(中央値)、PPIでは450日(中央値)と差がある点も気になるところです。

また、一般化が可能であるかという点にも注意が必要ですが、少なくともこの研究のみではPPIが死亡リスクを増加させるとは言い難い印象です。