【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

リバスチグミンパッチってどうですか?

個人的な事情もありまして今回はリバスチグミンパッチの効果や副作用についてさらっと見ていきたいと思います。



①「A 24-week, randomized, double-blind, placebo-controlled study to evaluate the efficacy, safety and tolerability of the rivastigmine patch in Japanese patients with Alzheimer's disease.」
PMID: 22163242

[PECO]
P : アルツハイマー認知症と診断された50~84歳の外来患者(日本、859人)
E : リバスチグミンパッチ10cm2(18mg)又は5cm2(9mg)を1日1回貼付(287人・284人)
C : プラセボを貼付(288人)
O : ADAS-J cog(アルツハイマー評価尺度、0~70点で点数が高いほど重度)又はCIBIC plus-J(認知症変化印象尺度、1=大幅な改善~7=大幅な悪化)による評価

[チェック項目]
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 代用のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化が行われているか? : 行われている
・盲検化が行われているか? : 二重盲検が行われており、解析者もブラインドされている
・ITT解析が行われているか? : 行われている
・脱落者 : 19.7%
・追跡期間 : 24週間
・サンプルサイズ : 774例(パワー76%)
・患者背景 : ほぼ同等、平均年齢74.6±7.22歳・女性68.3%・平均体重50.7±9.3kg・平均MMSEスコア16.6±2.96点

[結果]
①ADAS-J cog
・リバスチグミンパッチ10cm2(平均変化0.1±5.04)vs プラセボ(平均変化1.3±5.07)→最小二乗平均変化–0.8点(95%信頼区間–1.7~0.0)P=0.063
・リバスチグミンパッチ5cm2(平均変化0.5±4.96) vs プラセボ(平均変化1.3±5.07)→最小二乗平均変化–1.2点(95%信頼区間–2.1~–0.4)P=0.005

②CIBIC plus-J
・リバスチグミンパッチ10cm2(平均4.2±0.96) vs プラセボ(平均4.4±0.94)→オッズ比1.33(95%信頼区間0.98~1.82)P=0.067
・リバスチグミンパッチ5cm2(平均4.2±0.96) vs プラセボ(平均4.4±0.94)→オッズ比1.34(95%信頼区間0.98~1.83)P=0.063

③有害事象
・紅斑→プラセボ(19.2%)・5cm2(37.6%)・10cm2(39.4%)
・そう痒→プラセボ(21.3%)・5cm2(32.6%)・10cm2(34.8%)
・浮腫→プラセボ(2.4%)・5cm2(12.4%)・10cm2(10.8%)
・接触性皮膚炎→プラセボ(14.0%)・5cm2(24.5%)・10cm2(23.7%)
・吐き気→プラセボ(3.1%)・5cm2(1.1%)・10cm2(7.0%)
・嘔吐→プラセボ(3.8%)・5cm2(3.9%)・10cm2(8.0%)

[コメント]
いつもの事ながらスコアの変化がどれだけ実際の生活等へ影響があるかはいまいちわかりかねますが、有意差がついているものもあるもののその差はごく僅かで臨床的に意義のあるほどの差とは言えないように思います。



②「Rivastigmine for Alzheimer's disease.」
PMID: 26393402

こちらは抄録のみしか読めませんがリバスチグミンカプセル又はパッチの効果・安全性をプラセボと比較したシステマティックレビュー&メタ解析で、軽度~中等度のアルツハイマー認知症患者(平均年齢75歳)を対象とした13のRCTが統合解析されています。
結果は以下に。

・ADAS-Cogスコア(6試験)→平均差-1.79(95%信頼区間-2.21~-1.37)
・MMSEスコア(6試験)→平均差0.74(95%信頼区間0.52~0.97)
日常生活動作(6試験)→標準偏差0.20(95%信頼区間0.13~0.27)
CGIの変化なし又は悪化(7試験)→オッズ比0.68(95%信頼区間0.58~0.80)
・行動の変化(3試験)→標準偏差-0.04(95%信頼区間-0.14~0.06)
・NPI-Dスケール(1試験)→平均差0.10(95%信頼区間-0.91~1.11)
・有害事象(7試験)→オッズ比2.16(95%信頼区間1.82~2.57)

[コメント]
やはりスコアに有意差があるものの例えばADAS-cogスコアは0~70点の範囲で1.79点の差であり、現実的にはそれほど大きな差ではないように思われます。
認知症の悪化についてはリスク低下との関連が示唆されていますが、アウトカムが多い点に注意が必要かと思います。



最後におまけです。

③「A 24-Week, Randomized, Controlled Study to Evaluate the Tolerability, Safety and Efficacy of 2 Different Titration Schemes of the Rivastigmine Patch in Japanese Patients with Mild to Moderate Alzheimer's Disease.」 
PMID: 26557135

こちらはリバスチグミンパッチを5cm2から開始し4週後に10cm2に増量する群(1-step)と、2.5cm2から開始し4週毎に増量しその後10cm2で継続する群(3-step)で有害事象による薬剤の中止が検討されているランダム化比較で結果は、

1-step群(15.0%) vs 3-step群(18.5%)→差−3.6(95%症状−17.0~9.6)

有意な差は見られていないものの徐々に増量する群で僅かに中止に至る割合が多い結果になっております。

感想

そもそもそれほど効果がありそうだとは思っていませんでしたし、代用のアウトカムでありスコアについても良く理解できているわけではありませんが数字として見るとアルツハイマー認知症患者の認知機能改善という点ではやはりあまり期待はできないかなという印象です。
他のChE阻害薬についても改めて調べてみる必要はありますが、あまり大きな差はないのではないかと思います。

今回読んだ論文の有害事象は比較的軽度なものでしたが、ChE阻害薬の使用が失神による受診や徐脈による受診のリスクであることが示唆されている観察研究もあるため(Arch Intern Med.2009 May 11;169(9):867-73 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=19433698 )、リスクベネフィットを考えると個人的にはリバスチグミンパッチを使用する意義はあまりないのかなと思いました。



ただ、アルツハイマー認知症だと診断された際の患者又は家族の精神的なショックはやはり大きなものだと想像され、期待できる効果はほんの僅かなものだとしてもそれを使いたいという方もいらっしゃるでしょうしそういった点を考えるとこういった薬はなかなか難しい薬だなと感じました。