【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

心房細動患者に対するVK拮抗薬 vs ASA/CKD患者に対する厳格な血圧管理/高齢者に一次予防に対するスタチン使用

【私的背景】

今回は抄録しか読めないけど、気になった論文を。

 

①「Antithrombotic Therapy and First Myocardial Infarction in Patients With Atrial Fibrillation」

DOI: 10.1016/j.jacc.2017.04.033

http://www.onlinejacc.org/content/69/24/2901

 

【PECO】

: 冠動脈疾患のない既往のない、心房細動と診断された患者(デンマーク、71959例、年齢中央値75歳、女性47%)

: アスピリン単独またはVK拮抗薬+アスピリン(二重療法)

: VK拮抗薬単独

: 心筋梗塞脳卒中、出血

 

【チェック項目】

・研究デザイン : コホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

 

【結果】

心筋梗塞

アスピリン単独 vs VK拮抗薬単独→発生率比 1.54(95%信頼区間 1.40~1.68)

・二重療法 vs VK拮抗薬→発生率比 1.22(95%信頼区間 1.06~1.40)

〇出血

・二重療法 vs VK拮抗薬→発生率比 1.93(95%信頼区間 1.81~2.07)

脳卒中

アスピリン単独 vs VK拮抗薬→発生率比 2.00(95%信頼区間 1.88~2.12)

・二重療法 vs VK拮抗薬→発生率比 1.30(95%信頼区間 1.18~1.43)

 

【感想】

冠動脈疾患の既往のない心房細動患者では、アスピリン単独も二重療法も推奨されず、VK拮抗薬単独で治療を行うべきという、まあ当たり前の結果。

心筋梗塞の既往がある場合はどうなのかというところが問題になることもあるため、それについてはまた後程調べてみたいと思う。

 

 

②「Association of Intensive Blood Pressure Control and Kidney Disease Progression in Nondiabetic Patients With Chronic Kidney Disease: A Systematic Review and Meta-analysis.」

PMID: 28288249

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28288249

 

【PECO】

: 糖尿病のないCKD患者(RCT9試験、8127例)

: 厳格な血圧管理(< 130/80mmHg)

: 標準的な血圧管理(< 140/90mmHg)

: 血清クレアチニン値倍化またはeGFRの50%減少、末期腎疾患、複合腎アウトカム、総死亡

 

【チェック項目】

・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 複数設定されているため注意

・追跡期間中央値 : 3.3年間

 

【結果】

・血清クレアチニン値の倍化またはeGFRの50%減少→リスク比 0.99(95%信頼区間 0.76~1.29)

・末期腎疾患→リスク比 0.96(95%信頼区間 0.78~1.18)

・複合腎アウトカム→リスク比 0.99(95%信頼区間 0.81~1.21)

・総死亡→リスク比 0.95(95%信頼区間 0.66~1.37)

 

【感想】

腎機能の程度がどれくらいだったのか患者背景やサブグループ解析も見たいところではあるが、追跡期間中央値3.3年間において、CKD患者に対する厳格な血圧管理を行う意義は不明。

 

 

③「Effect of Statin Treatment vs Usual Care on Primary Cardiovascular Prevention Among Older Adults: The ALLHAT-LLT Randomized Clinical Trial.」

PMID:28531241

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28531241

 

【PECO】

: アテローム動脈硬化性心血管疾患の既往のない65歳以上の患者(2867例、平均年齢71.3歳)

: プラバスタチン 40mg/日の使用

: 通常ケア

: 総死亡

 

【チェック項目】

・研究デザイン : ランダム化比較試験(ALLHAT-LLT試験)のポストホック解析 

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・追跡期間 : 6年間

 

【結果】

〇総死亡

・65歳以上→ハザード比 1.18(95%信頼区間 0.97~1.42)P=0.09

・65~74歳→ハザード比 1.08(95%信頼区間 0.85~1.37)P=0.55

・75歳以上→ハザード比 1.34(95%信頼区間 0.98~1.84)P=0.07

※冠動脈疾患の発生については有意な差はみられなかった

 

【感想】

あくまでもランダム化比較試験のポストホック解析であるため、検出力の不足などで注意すべきではありますが、高齢者の一次予防に対するスタチン使用の意義は不明という結果。

高齢者にフィブラートを開始すると入院リスクは増加しますか?

【私的背景】

今回は実際に仕事上で悩んでいる問題であるが、高齢者に対するフィブラート開始による腎機能低下リスクに関する論文を読んでみたいと思う。

 

「New fibrate use and acute renal outcomes in elderly adults: a population-based study.」

PMID:22508733

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22508733

 

PECO

: 新規でフィブラートまたはエゼチミブが処方された66歳以上の外来患者(カナダ、80903例、平均年齢73歳)

: フィブラートの使用

: エゼチミブの使用

: 開始後、90日以内の血清クレアチニン値の上昇による入院

 

チェック項目

・研究デザイン : コホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 医療保険のデータベース等が使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、発症日、社会的地位、薬剤数、NSAIDs、ACE阻害薬またはARB、Ca拮抗薬、利尿薬、スタチン、冠動脈疾患、糖尿病、高血圧症、末梢動脈疾患、うっ血性心不全、CKDについて調整されている

 

結果

・90日以内の血清クレアチニン値上昇による入院

E群(0.4%) vs C群(0.2%)→調整オッズ比 2.4(95%信頼区間 1.7~3.3)、NNH=500人

 

※二次アウトカム

・腎臓科医によるコンサルテーション→調整オッズ比 1.3(95%信頼区間 1.0~1.6)

・深刻な急性腎傷害による透析→調整オッズ比 0.9(95%信頼区間 0.5~1.5)

・総死亡→調整オッズ比 1.1(95%信頼区間 0.8~1.5)

 

感想

エゼチミブとの比較において、高齢者フィブラートを開始することで血清クレアチニン値上昇による入院リスクが増加することが示唆されており、腎機能の変化には十分に注意すべきであると考えます。

ただ、患者背景を見るとスタチンの併用がフィブラート群で59.3%、エゼチミブ群で84.8%と半数以上を占めており、単独同士での比較でないような印象である点には注意が必要かもしれません。

ベースライン時の腎機能を見ると、eGFRが60~89ml/min/1.73㎡と正常値または軽度の低下がみられる患者が半数以上を占めており、中等度以上の低下がみられる患者ではより注意が必要であるという見方もできるかもしれません。

 

ある程度余命の限られた高齢者ではフィブラートを開始する意義はいまいち不明である点を考慮すると、フィブラート単独でもリスクがベネフィットを上回る可能性があるのではないかと考えております。

 

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