TG値が高くなると死亡リスクは高くなりますか?
【私的背景】
今回は高齢者に対するフィブラート使用に関する論文を読む予定であったが、アブストラクトまでしか読めないものであったため、ひとまず中性脂肪と臨床アウトカムについて検討されている論文をさらっと読んでみたいと思う。
「Effects of blood triglycerides on cardiovascular and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of 61 prospective studies.」
PMID:24164719
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24164719
PECO
P : 61の観察研究に登録された患者(年齢中央値48.0歳)
E : TG値 90~150mg/dl
C : < 90mg/dl、150~200mg/dl、>200mg/dl
O : 心血管死亡、総死亡
チェック項目
・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・評価者バイアス : 「Two epidemiologists (JL and FFZ) independently assessed
the eligible studies, collected information, and assessed the quality of the data.」と記載されている。
・出版バイアス : 「The Begg’s and Egger’s regression tests」が行われており、「 no obvious publication biases were observed (P = 0.150 to 1.00) 」と記載されている。言語の制約はない。
・元論文バイアス : 「 we used the Newcastle-Ottawa Scale to evaluate the quality of studies and most of the studies (50 studies) included in this meta-analysis were high-quality (score >6, full score = 9).」と記載されており、大きな問題はないものと思われる。
・異質性バイアス : フォレストプロットの方向性は概ね一致しているように見える
・追跡期間中央値 : 12.0年間
結果
【心血管死亡】
①< 90mg/dl→相対リスク 0.83(95%信頼区間 0.75~0.93)P=0.001 異質性:I2=21.6%、P=0.244
②150~200mg/dl→相対リスク 1.15(95%信頼区間 1.03~1.29)P=0.015 異質性:I2=22.5%、P=0.222
③> 200mg/dl→相対リスク 1.25(95%信頼区間 1.05~1.50)P=0.013 異質性:I2=66.2%、P=0.004
【総死亡】
①< 90mg/dl→相対リスク 0.94(95%信頼区間 0.85~1.03)P=0.150 異質性:I2=71.1%、P=0.000
②150~200mg/dl→相対リスク 1.09(95%信頼区間 1.02~1.17)P=0.011 異質性:I2=33.3%、P=0.108
③> 200mg/dl→相対リスク 1.20(95%信頼区間 1.04~1.38)P=0.011 異質性:I2=75.4%、P=0.000
感想
TG値は低ければ低い方が良いというような結果になっております。
しかし、あくまでも追跡期間が12年(中央値)での結果であり、サブグループ解析では50歳以上の群については、TG値高値でも心血管死亡・総死亡について有意な差はみられていない点を考えると、高齢者である程度余命が限られているような患者では、治療を行う意義があるかどうかはやや不明であるような印象です。
カナグリフロジンは糖尿病の治療に効果がありますか?
【私的背景】
個人的にメトホルミン以外の選択肢としてSGLT-2阻害薬には期待しているが、今回カナグリフロジンの非劣性試験の論文が発表されているのを見つけたため読んでみたいと思う。
「Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes」
June 12, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1611925
http://www.nejm.org/doi/abs/10.1056/NEJMoa1611925
PECO
P : 30歳以上で症候性アテローム硬化性心血管疾患のある2型糖尿病患者(HbA1c≧7.0%~≦10.5%)または50歳以上で心血管疾患リスク因子のうち2つ以上を有する2型糖尿病患者(30ヶ国、10142例、平均年齢63.3歳、女性35.8%、平均糖尿病罹患期間13.5年間)
E : カナグリフロジン 300mg/日または 100mg/日(5795例)
C : プラセボ(4347例)
O : 心血管疾患死亡・非致死的脳卒中・非致死的心筋梗塞の複合アウトカム
※心血管疾患リスク因子→糖尿病罹患期間10年以上、収縮期血圧 140mmHg以上で1剤以上の降圧薬による治療が行われている、喫煙している、微量アルブミン尿またはマクロアルブミン尿、HDLコレステロール値が38.7mg/dl以下
チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験(非劣性試験)
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化されているか? : されている
・隠蔽化されているか? : 中央割付が行われており、問題ないと思われる
・盲検化されているか? : されていない
・ITT解析されているか? : されている
・脱落率 : 4%
・平均追跡期間 : 188.2週(中央値126.1週)
・サンプルサイズ : 心血管イベント発症688例(パワー90%)
・患者背景 : ほぼ同等
結果
・心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞(※非劣性マージン→95%信頼区間の上限が1.3)
E群(26.9/1000人年) vs C群(31.5/1000人年)→ハザード比 0.86(95%信頼区間 0.75~0.97)P<0.001、NNT=218人/年
※二次アウトカム
・総死亡→ハザード比 0.87(95%信頼区間 0.74~1.01)P=0.5675
・心血管死亡→ハザード比 0.87(95%信頼区間 0.72~1.06)P=0.9387
・心血管死亡または心不全による入院→ハザード比 0.78(95%信頼区間 0.67~0.91)P=0.4584
・非致死的心筋梗塞→ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.69~1.05)P=0.9777
・非致死的脳卒中→ハザード比 0.90(95%信頼区間 0.71~1.15)P=0.4978
・心不全による入院→ハザード比 0.67(95%信頼区間 0.52~0.87)P=0.2359
※安全性アウトカム
・下肢切断 : E群(6.3/1000人年) vs C群(3.4/1000人年)→ハザード比 1.97(95%信頼区間 1.41~2.75)、NNH=345人/年
・全ての骨折 : E群(15.4/1000人年) vs C群(11.9/1000人年)→ハザード比 1.26(95%信頼区間 1.04~1.52)、NNH=286人/年
感想
あくまでも非劣性試験ではありますが、一次アウトカムについて有意なリスク減少がみられております。
また、下肢切断と骨折については有意にリスクを増加させておりますが、こちらはあくまでも仮説生成である点は意識しておくべきかと思います。
しかし、研究デザインについてランダム化比較試験と記載しましたが、CANVAS試験とCANVAS-R試験の2つのランダム化比較試験を統合解析されているもので、その妥当性という部分には疑問が残り、各試験では一次アウトカムについて有意な差は見られていない点には注意が必要かもしれません。
統合解析された結果も、NNTを見ると効果はわずかなものである点と、仮説生成的ではありますが下肢切断というのは非常に重大なアウトカムである点を考えると、リスク・ベネフィットの点では非常に微妙なものであり、やや言い過ぎかもしれませんが、現時点では使用すべき薬剤ではないことが示されているような印象です。
また、対象患者のBMIは平均で32.0程度であり、肥満のない2型糖尿病患者では一次アウトカムについてそのまま適用できない可能性がある点にも注意が必要かもしれません。
個人的にはSGLT-2阻害薬には期待していたんですが、ちょっと残念な結果でした。。。
改めてエンパグリフロジンの論文も読んで考えてみる必要があるかもしれませんね、また後日。
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