【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

5α還元酵素阻害薬は自殺リスクを増加させますか?

【私的背景】

5α還元酵素阻害薬を服用していた患者からめまいを訴えられるケースが数件あったため、転倒・骨折との関連が検討されている研究を探したが見つけられなかった。

しかし、たまたま精神神経系リスクについて検討されている研究を見つけたので、今回はそちらを読んでみたいと思う。

 

 

「Association of Suicidality and Depression With 5α-Reductase Inhibitors」

JAMA Intern Med. Published online March 20, 2017. doi:10.1001/jamainternmed.2017.0089

http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2610105?resultClick=1

 

PECO

: 66歳以上の男性(カナダ、年齢中央値75歳)

: 5α還元酵素阻害薬(デュタステリド52.0%、フィナステリド48.0%)の新規使用あり(93197例)

: 使用なし(93197例)

: 自殺

 

チェック項目

・研究デザイン : 人口ベースの後ろ向きコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : トロント州での行政データが使用されており、大きな問題はないように思われる

・交絡因子の調整は? : 傾向スコアマッチングが行われている(因子についてはeTable 2A~Cおよび3参照)

 

結果

【自殺による死亡】

E群(0.04%) vs C群(0.04%)→ハザード比 0.88(95%信頼区間 0.53~1.45)

 

※二次アウトカム

【自傷行為】E群:0.18% C群:0.14%

・0~1.5年間の使用→ハザード比 1.88(95%信頼区間 1.34~2.64)

・1.5~3年間の使用→ハザード比 0.63(95%信頼区間 0.36~1.09)

・>3年間の使用→ハザード比 1.07(95%信頼区間 0.64~1.77)

 

【うつ病の発症】E群:1.95% C群:1.37%

・0~1.5年間の使用→ハザード比 1.94(95%信頼区間 1.73~2.16)

・1.5~3年間の使用→ハザード比 1.22(95%信頼区間 1.08~1.37)

・>3年間の使用→ハザード比 1.22(95%信頼区間 1.08~1.37)

 

感想

5α還元酵素阻害薬の使用は使用なしと比較して自殺について有意な差は見られていないものの、二次アウトカムではありますが特に早期で自傷行為・うつ病発症のリスクについて有意な増加がみられております。

NNHを計算してみると、およそ1年半ちょっとで自傷行為が2500人、うつ病発症が173人と大きなリスクではないような印象ではありますが、5α還元酵素阻害薬が開始された患者では抑うつの症状などに注意していきたいと思います。

インクレチン関連薬はどれくらい効果や副作用がありますか?

【私的背景】

最近、疲れ果てておりましてPECOをたてる余裕もなく、ブログの更新も滞っておりますが、頑張って論文を読んでいきたいと思います。論文読まないと不安になるね。

 

 

「Incretin-based agents in type 2 diabetic patients at cardiovascular risk: compare the effect of GLP-1 agonists and DPP-4 inhibitors on cardiovascular and pancreatic outcomes.」

PMID:28249585

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28249585

 

PECO

: 6つのランダム化比較試験に参加した2型糖尿病患者(55248例)

: インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬またはGLP-1受容体作動薬)の使用

: プラセボの使用

: 総死亡、心血管死亡、主要心血管イベント、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院、急性膵炎、膵癌、全ての低血糖、重度の低血糖

 

チェック項目

・研究デザイン : メタ解析

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 複数設定されているため注意

・評価者バイアス : 「Relevant data for analysis were extracted independently by two authors (ZZ and XC) using a standardized format. 」と記載されている。

・出版バイアス : 「Visual inspection of funnel plots asymmetry revealed no evidence of substantial publication bias for any outcome we studied, which was further confirmed by Begg’s and Egger’s tests」と記載されている。英語の論文のみ検索されている。

・元論文バイアス : 本文中に記載は見当たらないが、ランダム化比較試験を読んだ限りでは、内的妥当性に問題はないように思う。

・異質性バイアス : フォレストプロットの方向性は一致していないように思われる。

・追跡期間 : 平均2.6年間

 

結果

【総死亡】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.97(95%信頼区間 0.89~1.06) 異質性:P=0.097、I2=46.4%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.02(95%信頼区間 0.91~1.13) 

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.90(95%信頼区間 0.82~0.98)

【心血管死亡】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.96(95%信頼区間 0.86~1.07) 異質性:P=0.187、I2=33.3%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.03(95%信頼区間 0.93~1.14)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.84(95%信頼区間 0.73~0.97)

【主要心血管イベント】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.95(95%信頼区間 0.88~1.01) 異質性:P=0.102、I2=45.6%

・DPP-4阻害薬→リスク比 0.99(95%信頼区間 0.93~1.05)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.89(95%信頼区間 0.77~1.04)

【非致死的心筋梗塞】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.96(95%信頼区間 0.89~1.03)

・DPP-4阻害薬→リスク比 0.99(95%信頼区間 0.89~1.09)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.92(95%信頼区間 0.79~1.08)

【非致死的脳卒中】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.95(95%信頼区間 0.84~1.08) 異質性:P=0.290、I2=19.0%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.00(95%信頼区間 0.86~1.16)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.89(95%信頼区間 0.68~1.16)

【心不全による入院】

・インクレチン関連薬→リスク比 1.03(95%信頼区間 0.91~1.16) 異質性:P=0.547、I2=0.0%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.11(95%信頼区間 0.95~1.30)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.93(95%信頼区間 0.81~1.16)

【急性膵炎】

・インクレチン関連薬→リスク比 1.16(95%信頼区間 0.85~1.59) 異質性:P=0.188、I2=33.1%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.76(95%信頼区間 1.14~2.72)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.75(95%信頼区間 0.47~1.17)

【膵癌】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.71(95%信頼区間0.45~1.11) 異質性:P=0.038、I2=60.5%

・DPP-4阻害薬→リスク比 0.55(95%信頼区間 0.29~1.02)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.94(95%信頼区間 0.49~1.83)

【全ての低血糖】

・インクレチン関連薬→リスク比 1.05(95%信頼区間 0.96~1.15) 異質性:P=0.002、I2=77.2%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.12(95%信頼区間 1.05~1.20)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 1.02(95%信頼区間 0.93~1.12)

【重度の低血糖】

・インクレチン関連薬→リスク比 0.97(95%信頼区間 0.74~1.26) 異質性:P=0.009、I2=70.4%

・DPP-4阻害薬→リスク比 1.18(95%信頼区間 1.02~1.38)

・GLP-1受容体作動薬→リスク比 0.72(95%信頼区間 0.58~0.91)

 

感想

実質的にこれまでの非劣性試験を集めた仮説生成的なメタ解析で、真剣に読む必要はなかったかもしれませんが、インクレチン関連薬としては死亡や大血管障害に対する効果は不明であるという結果になっております。

GLP-1受容体作動薬のみを見ると総死亡・心血管死亡について有意な減少が見られておりますが、NNTはそれぞれ334人と125人。

DPP-4阻害薬では急性膵炎と全ての低血糖・重度の低血糖について有意な増加が見られておりますが、NNHはそれぞれ1000人・72人・334人。

 

いずれも追跡期間が短いため、長期的な効果や副作用については不明でありますが、現時点では2型糖尿病患者に対してインクレチン関連薬を積極的に使用する理由は特に見当たらないというような印象です。