腎機能とワルファリン/起立性低血圧のリスク因子/喫煙とCKD
【私的背景】
今回は抄録しか読めないけど気になった論文を。
①「Warfarin Initiation, Atrial Fibrillation, and Kidney Function: Comparative Effectiveness and Safety of Warfarin in Older Adults With Newly Diagnosed Atrial Fibrillation.」
PMID:27998624
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27998624
【PECO】
P : 腎機能を測定している、新規に心房細動と診断された66歳以上の患者(カナダ、14892例)
E : ワルファリンの開始あり
C : 開始なし
O : 総死亡・虚血性脳卒中・一過性脳虚血発作の複合アウトカム、大出血による入院または救急受診
【チェック項目】
・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
【結果】
[総死亡・虚血性脳卒中・一過性脳虚血発作]
・eGFR>90→調整ハザード比 0.59(95%信頼区間 0.35~1.01)
・60~89→調整ハザード比 0.61(95%信頼区間 0.54~0.70)
・45~59→調整ハザード比 0.55(95%信頼区間 0.47~0.65)
・30~44→調整ハザード比 0.54(95%信頼区間 0.44~0.67)
・<30→調整ハザード比 0.64(95%信頼区間 0.47~0.87)
[大出血による入院または救急受診]
・eGFR 60~89→調整ハザード比 1.36(95%信頼区間 1.13~1.64)
・その他では有意な差は見られていない
【コメント】
大出血について有意なリスク増加が見られているものもあるものの、腎機能低下例でも大出血についてほぼ差は見られていない。
ワルファリン開始から1年以内の追跡であるため長期使用による影響については不明。
腎機能と抗凝固薬に関しては今後調べていきたい。
②「Alcohol and psychotropic drugs: risk factors for orthostatic hypotension in elderly fallers.」
PMID:24048292
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24048292
→転倒した過去がある、または転倒リスクが高い高齢者を対象とした前向き観察研究。平均年齢80.4±7.4歳。アウトカムは起立性低血圧。
・SSRI→オッズ比 2.42(95%信頼区間 1.56~3.75)
・SNRI→オッズ比 5.37(95%信頼区間 1.93~14.97)
・パーキンソン病→オッズ比 2.54(95%信頼区間 1.54~4.19)
・飲酒→オッズ比 2.17(95%信頼区間 1.32~3.56)
・メプロバメート→オッズ比 2.65(95%信頼区間 1.12~6.25)
・Ca拮抗薬→オッズ比 1.79(95%信頼区間 1.16~2.76)
・ARB→オッズ比 0.52(95%信頼区間 0.30~0.91)
【コメント】
単施設のデータを用いた観察研究と思われ、一般化は難しいかもしれないが、薬剤に関してはFRIDsとして注意したいものであり、転倒・骨折予防のために投薬時に十分に注意を促す必要があることを再確認した。
③「Cigarette smoking and chronic kidney disease in the general population: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies」
Nephrol Dial Transplant gfw452. DOI: https://doi.org/10.1093/ndt/gfw452
Published: 27 February 2017
【PECO】
P : 15のコホート研究に登録された患者(65064例)
E : 喫煙あり
C : 喫煙なし
O : CKDの発症、末期腎不全の発症
【チェック項目】
・研究デザイン : 観察研究のメタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
【結果】
[CKD]
・喫煙あり→相対リスク1.27(95%信頼区間 1.19~1.35)
※
・喫煙を続けている→相対リスク 1.34(95%信頼区間 1.23~1.47)
・以前喫煙していた→相対リスク 1.15(95%信頼区間 1.08~1.23)
[末期腎不全]
喫煙あり→相対リスク 1.51(95%信頼区間 1.24~1.84)
※
・喫煙を続けている→相対リスク 1.91(95%信頼区間 1.39~2.64)
・以前喫煙していた→相対リスク 1.44(95%信頼区間 1.00~2.09)
【コメント】
喫煙者は非喫煙者と比較するとそもそも健康に対する意識が高くないと考えられ、交絡の可能性は高いのではないかと思われますが、いずれにしろタバコを吸うべきではありませんね、ええ。
妊娠中の女性はノイラミニダーゼ阻害薬を使用しても大丈夫ですか?
【私的背景】
某クリニックから問い合わせのあったテーマについてまとめてみたい。
「Neuraminidase inhibitors during pregnancy and risk of adverse neonatal outcomes and congenital malformations: population based European register study.」
PMID:28246106
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28246106
PECO
P : 一人の乳児を産んだ女性(スカンジナビア、フランス)
E : 妊娠中にノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル・ザナミビル)の処方あり(5824例)
C : 処方なし(692232例)
E : 低出生体重、低アプガースコア(仮死の程度)、早産、胎児発育遅延、死産、新生児死亡、新生児疾病率、先天性奇形
チェック項目
・研究デザイン : 4ヶ国における人口ベースのコホート研究とそのメタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : スカンジナビアおよびフランス全域のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる
・交絡因子の調整は? : 生まれた年、母親の年齢、母親の併存疾患、喫煙について調整されている
結果
【低出生体重(<2500g)】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.77(95%信頼区間 0.65~0.91)
・フランス→調整オッズ比 0.76(95%信頼区間 0.42~1.41)
【低アプガースコア(≦6点)】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.87(95%信頼区間 0.67~1.14)
・フランス→調整オッズ比 0(95%信頼区間 0~1.55)
【早産(<37週)】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.97(95%信頼区間 0.86~1.11)
・フランス→調整オッズ比 0.97(95%信頼区間 0.56~1.68)
【胎児発育遅延】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.73(95%信頼区間 0.59~0.88)
・フランス→調整オッズ比 0.60(95%信頼区間 0.22~1.62)
【死産】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.73(95%信頼区間 0.41~1.29)
・フランス→調整オッズ比 1.02(95%信頼区間 0.45~2.31)
【新生児死亡】
・スカンジナビア→調整オッズ比 1.13(95%信頼区間 0.56~2.28)
・フランス→調整オッズ比 0(95%信頼区間 0~67.49)
【新生児疾病率】
・スカンジナビアのみ→調整オッズ比 0.92(95%信頼区間 0.86~1.00)
【先天性奇形】
・スカンジナビアのみ→調整オッズ比 1.06(95%信頼区間 0.77~1.48)
感想
ノイラミニダーゼ阻害薬の使用によりリスク減少との関連が見られているアウトカムがあるものの、現時点ではリスクを下げるとは考えづらく、調整されている因子が少ないため、医療を受けられる状態などの交絡の可能性は高いのではないかと思います。
いずれにせよ、有害なアウトカム増加との関連は見られておりません。
この研究のみで安全だとは言い切れませんが、これまでも妊娠中のノイラミニダーゼ阻害薬の使用と有害なアウトカムとの関連が見られなかった報告や妊娠中のインフルエンザ感染そのものが胎児にも影響を与える事が示唆されている報告を加味して考えると、妊娠中のインフルエンザ患者に対してはノイラミニダーゼ阻害薬による治療を行うという選択肢は十分に考慮できるものと思います。
ただし、ラミナニビルはいずれの研究にも含まれていないという点は注意すべきかもしれません。
・PMID: 23333544 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23333544
・PMID:24512604 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24512604
・PMID:24602087 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24602087
→ノイラミニダーゼ阻害薬の使用と有害なアウトカムとの関連は見られない
・PMID:24205364 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24205364
→妊娠中の influenza A(H1N1) 感染が有害アウトカムと関連