高齢者へのAEC阻害薬/リアルワールドでのSGLT-2阻害薬/SGLT-2阻害薬と癌
【私的背景】
今回は、抄録しか読めないものの気になった論文を。
①「Meta-Analysis of Randomized Trials on the Efficacy and Safety of Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors in Patients ≥65 Years of Age.」
PMID: 27692594
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27692594
【PECO】
P : 65歳以上の患者
E : ACE阻害薬の使用
C : プラセボまたはその他の降圧薬の使用
【チェック項目】
・研究デザイン : ランダム化比較試験のメタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・平均追跡期間 : 2.9年間
【結果】
〇プラセボとの比較
・脳卒中以外の全てのアウトカムを有意に減少させた
〇その他の降圧薬との比較
・総死亡→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.95~1.03)
・心血管死亡→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.93~1.04)
・心不全→相対リスク 0.97(95%信頼区間 0.91~1.03)
・心筋梗塞→相対リスク 0.94(95%信頼区間 0.88~1.00)
・脳卒中→相対リスク 1.07(95%信頼区間 0.99~1.15)
・血管浮腫→相対リスク 2.79(95%信頼区間 1.05~7.42)
【コメント】
降圧薬としての有効性については、他の薬剤との有意な差は見られていない。
血管浮腫については見逃している例があるかもしれない、注意していきたい。
②「Cardiovascular mortality and morbidity in patients with type 2 diabetes following initiation of sodium-glucose co-transporter-2 inhibitors versus other glucose-lowering drugs (CVD-REAL Nordic): a multinational observational analysis」
DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S2213-8587(17)30258-9
【PECO】
P : 2型糖尿病患者(平均年齢 61歳、女性 40%、心血管疾患の既往 25%)
E : SGLT2阻害薬の新規開始(ダパグリフロジン 94%、エンパグリフロジン 5%、カナグリフロジン 1%)
C : その他の血糖降下薬の開始
O : 心血管死亡、重大な有害心血管イベント(心血管死亡、心筋梗塞、虚血性または出血性脳卒中)、心不全による入院、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心房細動
【チェック項目】
・研究デザイン : コホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・交絡因子の調整は? : 傾向スコアマッチングが行われている
・平均追跡期間 : 0.9年間
【結果】
・心血管死亡→ハザード比 0.53(95%信頼区間 0.40~0.71)
・重大な有害心血管イベント→ハザード比 0.78(95%信頼区間 0.69~0.87)
・心不全による入院→ハザード比 0.70(95%信頼区間 0.61~0.81)
・非致死的心筋梗、非致死的脳卒中、心房細動については有意な差は見られなかった
・重症低血糖→ハザード比 0.76(95%信頼区間 0.65~0.90)
【感想】
これまでのSGLT-2阻害薬の非劣性試験と同様の結果であるように思う。
しかし、短期間でこれほど差が出るものなのだろうか。やや出来すぎなような気がしないでもない。
患者背景を詳しく見たいところだが、これまでの非劣性試験を加味して考えると、血糖コントロールの悪い肥満の患者などでは使用が検討されるべきではないかと考える。
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③「SGLT2 inhibitors and risk of cancer in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.」
PMID: 28725912
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28725912
【PECO】
P : 2型糖尿病患者
E : SGLT-2阻害薬の使用有り
C : プラセボまたはその他の血糖降下薬の使用
O : 癌の発生
【チェック項目】
・研究デザイン : ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&ネットワークメタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
【結果】
・全ての癌→オッズ比 1.14(95%信頼区間 0.96~1.36)
・膀胱癌→オッズ比 3.87(95%信頼区間 1.48~10.08)
※エンパグリフロジン→オッズ比 4.49(95%信頼区間 1.21~16.73)
・消化管癌(カナグリフロジンのみ)→オッズ比 0.15(95%信頼区間 0.04~0.60)
【コメント】
「使用が検討されるべき」と書いた次がこれである。
膀胱癌との関連が示唆されているが、一次アウトカムではないようなのでこれのみで結論できるものではないが、今後の研究を追っていきたい。
糖尿病患者ではACE阻害薬とARBではどちらが良いですか?
【私的背景】
処方提案を行う際に、糖尿病患者への降圧薬の選択について悩むことが多い。今回は興味深い論文を見つけたため読んでみたいと思う。
「Comparative effectiveness of angiotensin-converting enzyme inhibitors versus angiotensin II receptor blockers for major renal outcomes in patients with diabetes: A 15-year cohort study.」
PMID: 28505194
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28505194
PECO
P : 18歳以上の糖尿病患者(34043例、平均年齢60.1歳、女性43.8%)
E : ACE阻害薬の使用
C : ARBの使用
O : 長期間の透析
チェック項目
・研究デザイン : コホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 全民健康保険のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる
・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、心血管疾患、CKD、肝疾患、癌、収入、職業、地域、チャールソン併存疾患指数、発症年について調整されている
結果
・長期間の透析
E群(3.45/1000人年) vs C群(3.26/1000人年)→調整ハザード比 0.93(95%信頼区間 0.83~1.03)
※二次アウトカム
・急性腎傷害→調整ハザード比 1.07(95%信頼区間 0.85~1.35)
・高カリウム血症→調整ハザード比 1.02(95%信頼区間 0.92~1.14)
・総死亡→ハザード比 1.17(95%信頼区間 0.98~1.40)
・心血管死亡→ハザード比 1.04(95%信頼区間 0.80~1.34)
・非心血管死亡→ハザード比 1.28(95%信頼区間 0.99~1.65)
〇追跡期間毎の比較
・長期間の透析
①0~5年→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.87~1.18)
②5~10年→調整ハザード比 0.89(95%信頼区間 0.74~1.07)
③>10年→調整ハザード比 0.70(95%信頼区間 0.51~0.95)
・急性腎傷害
①0~5年→調整ハザード比 0.82(95%信頼区間 0.57~1.20)
②5~10年→調整ハザード比 1.10(95%信頼区間 0.76~1.58)
③>10年→調整ハザード比 1.51(95%信頼区間 0.90~2.51)
・高カリウム血症
①0~5年→調整ハザード比 0.96(95%信頼区間 0.81~1.14)
②5~10年→調整ハザード比 1.07(95%信頼区間 0.90~1.26)
③>10年→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.78~1.29)
・総死亡
①0~5年→調整ハザード比 0.99(95%信頼区間 0.75~1.30)
②5~10年→調整ハザード比 1.48(95%信頼区間 1.11~1.97)
③>10年→調整ハザード比 1.06(95%信頼区間 0.67~1.68)
・心血管死亡
①0~5年→調整ハザード比 0.94(95%信頼区間 0.64~1.38)
②5~10年→調整ハザード比 1.05(95%信頼区間 0.70~1.56)
③>10年→調整ハザード比 1.33(95%信頼区間 0.69~2.54)
・非心血管死亡
①0~5年→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.69~1.49)
②5~10年→調整ハザード比 2.00(95%信頼区間 1.32~3.03)
③>10年→調整ハザード比 0.75(95%信頼区間 0.38~1.48)
感想
糖尿病患者において、ACE阻害薬とARBではどちらも有効性としては大きな差はないような印象です。
10年以上の使用で、ACE阻害薬はARBと比較して透析に至るリスクを減少させることが示唆されていますが、10年以上ですか...。
5~10年の期間ではACE阻害薬の方が死亡リスクが増加することが示唆されている点は興味深いですが、10年以上になると差が見られず、非血管死亡でリスク増加が示唆されている点から、交絡または偶然の可能性が高いのではないかと思います。
糖尿病患者において降圧治療を行う際は、ACE阻害薬とARBでは、どちらでも良いのではないかというのが正直な感想です。