転倒リスクを増加させる薬剤を中止すれば転倒を予防できますか?
今回もアブストラクトのみしか読めないものの気になった論文を取り上げていきたいと思います。
「Effectiveness of medication withdrawal in older fallers: results from the Improving Medication Prescribing to reduce Risk Of FALLs (IMPROveFALL) trial.」
PMID:27614080
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27614080
【PECO】
P : 転倒が原因で救急受診した高齢者(620人)
E : FRIDs(転倒リスクを増加させる薬剤)の中止
C : 中止なし
O : 自己申告による初回転倒までの時間
【チェック項目】
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ITT解析が行われているか? : 行われている
・追跡期間 : 12ヶ月
【結果】
・転倒の発生はE群で37%、C群で34%
・新規の診断による薬剤の開始やコンプライアンス不良などが原因で介入群の35%が不成功であった
・初回転倒までの時間(一次アウトカム)→ハザード比1.17(95%信頼区間0.89~1.54)
・二回目の転倒(二次アウトカム)→ハザード比1.19(95%信頼区間0.78~1.82)
・転倒に関連した総合診療医の診察(二次アウトカム)→ハザード比0.66(95%信頼区間0.42~1.06)
・転倒に関連した初回救急受診までの時間(二次アウトカム)→ハザード比0.85(95%信頼区間0.43~1.68)
【感想】
FRIDsの中止による転倒リスク減少は見られなかったというなかなかショッキングな研究です。
そもそも対象患者は転倒リスクが高い患者である可能性はありますし、介入群の失敗も大きいためFRIDsの中止が転倒予防に効果がないとは言えない点には注意が必要です。
転倒・骨折について検討されている研究でこれまでに読んだものを少し振り返ってみたいと思います。
スウェーデンのコホート研究ではFRIDsに分類されている薬剤の中でも循環器系薬は股関節骨折と関連は見られず、精神系薬では股関節骨折との関連が見られています。
米国の後ろ向きコホート研究では介護付き施設に入居している高齢者において抗精神病薬の使用が骨折リスクを増加させることが示唆されています。
アイルランドのコホート研究では、ポリファーマシーや降圧薬の使用による転倒リスクの増加は見られていないもののベンゾジアゼピン系薬や抗うつ薬の使用が転倒リスクを増加させることが示唆されている。
症例対照研究において、ポリファーマシーは調整後に転倒との関連は見られず2剤以上のFRIDsの使用は転倒との関連が見られている。
とまあこれくらいなんですが、FRIDsに関する論文は沢山読んだつもりでいましたが案外そうでもなかったんですねえ。
FRIDsに分類されている薬剤の中でも降圧薬などの循環器系薬よりも精神系薬でより転倒・骨折リスクが高いのではないかと考えられますが、今回取り上げた研究に戻って考えるとやはりそういった薬剤を中止するのはなかなか難しいということが浮き彫りになった研究であるように感じます。
そういったものについていかに介入するかまたは介入しないのか今後模索していきたいと思います。
参考までにもう一つ関連記事を。