糖尿病患者ではACE阻害薬とARBではどちらが良いですか?
【私的背景】
処方提案を行う際に、糖尿病患者への降圧薬の選択について悩むことが多い。今回は興味深い論文を見つけたため読んでみたいと思う。
「Comparative effectiveness of angiotensin-converting enzyme inhibitors versus angiotensin II receptor blockers for major renal outcomes in patients with diabetes: A 15-year cohort study.」
PMID: 28505194
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28505194
PECO
P : 18歳以上の糖尿病患者(34043例、平均年齢60.1歳、女性43.8%)
E : ACE阻害薬の使用
C : ARBの使用
O : 長期間の透析
チェック項目
・研究デザイン : コホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 全民健康保険のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる
・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、心血管疾患、CKD、肝疾患、癌、収入、職業、地域、チャールソン併存疾患指数、発症年について調整されている
結果
・長期間の透析
E群(3.45/1000人年) vs C群(3.26/1000人年)→調整ハザード比 0.93(95%信頼区間 0.83~1.03)
※二次アウトカム
・急性腎傷害→調整ハザード比 1.07(95%信頼区間 0.85~1.35)
・高カリウム血症→調整ハザード比 1.02(95%信頼区間 0.92~1.14)
・総死亡→ハザード比 1.17(95%信頼区間 0.98~1.40)
・心血管死亡→ハザード比 1.04(95%信頼区間 0.80~1.34)
・非心血管死亡→ハザード比 1.28(95%信頼区間 0.99~1.65)
〇追跡期間毎の比較
・長期間の透析
①0~5年→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.87~1.18)
②5~10年→調整ハザード比 0.89(95%信頼区間 0.74~1.07)
③>10年→調整ハザード比 0.70(95%信頼区間 0.51~0.95)
・急性腎傷害
①0~5年→調整ハザード比 0.82(95%信頼区間 0.57~1.20)
②5~10年→調整ハザード比 1.10(95%信頼区間 0.76~1.58)
③>10年→調整ハザード比 1.51(95%信頼区間 0.90~2.51)
・高カリウム血症
①0~5年→調整ハザード比 0.96(95%信頼区間 0.81~1.14)
②5~10年→調整ハザード比 1.07(95%信頼区間 0.90~1.26)
③>10年→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.78~1.29)
・総死亡
①0~5年→調整ハザード比 0.99(95%信頼区間 0.75~1.30)
②5~10年→調整ハザード比 1.48(95%信頼区間 1.11~1.97)
③>10年→調整ハザード比 1.06(95%信頼区間 0.67~1.68)
・心血管死亡
①0~5年→調整ハザード比 0.94(95%信頼区間 0.64~1.38)
②5~10年→調整ハザード比 1.05(95%信頼区間 0.70~1.56)
③>10年→調整ハザード比 1.33(95%信頼区間 0.69~2.54)
・非心血管死亡
①0~5年→調整ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.69~1.49)
②5~10年→調整ハザード比 2.00(95%信頼区間 1.32~3.03)
③>10年→調整ハザード比 0.75(95%信頼区間 0.38~1.48)
感想
糖尿病患者において、ACE阻害薬とARBではどちらも有効性としては大きな差はないような印象です。
10年以上の使用で、ACE阻害薬はARBと比較して透析に至るリスクを減少させることが示唆されていますが、10年以上ですか...。
5~10年の期間ではACE阻害薬の方が死亡リスクが増加することが示唆されている点は興味深いですが、10年以上になると差が見られず、非血管死亡でリスク増加が示唆されている点から、交絡または偶然の可能性が高いのではないかと思います。
糖尿病患者において降圧治療を行う際は、ACE阻害薬とARBでは、どちらでも良いのではないかというのが正直な感想です。
腎機能が低下した患者へのスタチンの使用【メモ】
【私的背景】
以前、高度に腎機能が低下するほど、スタチンの効果は減弱することが示唆されているメタ解析の論文を読んだが、今回は他の論文をいくつか読んでメモしておきたい。
①「Benefits and harms of statin therapy for persons with chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis.」
PMID: 22910937
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22910937
→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析、追跡期間中央値は6ヶ月
【PECO】
P : CKDの成人
E : スタチン
C : プラセボまたは治療なし
O : 総死亡および心血管死亡、心血管イベント、心筋梗塞、脳卒中、有害事象
【結果】
〇総死亡および心血管死亡
①総死亡
・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.81(95%信頼区間 0.74~0.88)
・透析患者→相対リスク 0.96(95%信頼区間 0.88~1.04)
・腎移植患者→相対リスク 1.05(95%信頼区間 0.84~1.31)
②心血管死亡
・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.78(95%信頼区間 0.68~0.89)
・透析患者→相対リスク 0.94(95%信頼区間 0.82~1.07)
・腎移植患者→相対リスク 0.68(95%信頼区間 0.45~1.02)
〇心血管イベント
・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.76(95%信頼区間 0.73~0.80)
・透析患者→相対リスク 0.95(95%信頼区間 0.87~1.03)
・腎移植患者→相対リスク 0.84(95%信頼区間 0.66~1.06)
①心筋梗塞
・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.55(95%信頼区間 0.42~0.72)
・透析患者→相対リスク 0.87(95%信頼区間 0.71~1.07)
・腎移植患者→相対リスク 0.70(95%信頼区間 0.48~1.01)
②脳卒中
・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.61(95%信頼区間 0.38~0.98)
・透析患者→相対リスク 1.30(95%信頼区間 0.79~2.11)
・腎移植患者→相対リスク 0.86(95%信頼区間 0.62~1.20)
〇有害事象
・癌の発症→相対リスク 0.96(95%信頼区間 0.89~1.04)
・筋肉痛→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.94~1.04)
・クレアチニンキナーゼ上昇→相対リスク 1.11(95%信頼区間 0.80~1.56)
・肝機能異常→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.70~1.40)
・治療の中断→相対リスク 1.07(95%信頼区間 0.91~1.26)
【コメント】
腎機能低下が高度になるほどスタチンのベネフィットは相対的に小さくなる印象がある。
しかし、中央値で見ると追跡期間は非常に短く、透析患者・腎移植患者では有意な差は見られていなくても、効果がないとは言えない点には注意が必要。
出版バイアスや異質性については不明であり、仮説生成的なメタ解析である点も注意が必要である。
有害事象に大きな差がみられていない点は興味深い。
②「Statins and Cardiovascular Primary Prevention in CKD: A Meta-Analysis.」
PMID: 25833405
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25833405
→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析、追跡期間中央値46.4ヶ月
【PECO】
P : 一次予防で脂質降下治療が行われているCKD患者
E : スタチン
C : プラセボ
O : 心血管疾患
【結果】
〇心血管疾患
・CKD stage1~3→リスク比 0.59(95%信頼区間 0.48~0.72)P<0.0001、I²=0%、NNT=32人/年
・CKD stage3のみ→リスク比 0.56(95%信頼区間 0.45~0.69)P<0.0001、I²=0%、NNT=30人/年
※二次アウトカム
〇総死亡
・stage1~3→リスク比 0.66(95%信頼区間 0.49~0.88)P=0.005、I²=22%、NNT=65人/年
・stage3のみ→リスク比 0.62(95%信頼区間 0.47~0.82)P<0.0001、I²=10%、NNT=58人/年
〇冠動脈疾患
・stage1~3→リスク比 0.55(95%信頼区間 0.42~0.72)P<0.0001、I²=0%、NNT=50人/年
・stage3のみ→リスク比 0.55(95%信頼区間 0.42~0.73)P<0.0001、I²=0%、NNT=49人/年
〇脳卒中
・stage1~3→リスク比 0.56(95%信頼区間 0.28~1.13)P=0.11、I²=57%、NNT=110人/年
・stage3のみ→リスク比 0.43(95%信頼区間 0.25~0.75)P=0.003、I²=0.27、NNT=73人/年
【コメント】
NNTを見てみると(Table 3)、CKDのない患者よりも大きな効果があることが示唆されている点が興味深い。
このメタ解析の結果からは、GFR <30ml/分/1.73㎡の場合については不明であり、MEGA studyなどの各ランダム化比較試験のNNTとは大きな差があるため、このまま受け止めて良いものかどうか疑問が残るが、一次予防においてもベネフィットはありそうである。
出版バイアスについては不明。
③「Effect of Statins on Kidney Disease Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis.」
PMID: 26905361
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26905361
→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析
【PECO】
P : 透析導入のないCKD患者
E : スタチン
C : プラセボ、通常ケア
O : 腎不全イベント(eGFRが20%以上または50%低下、血清クレアチニン値倍化、末期腎障害)
【結果】
・腎不全イベント→オッズ比 0.98(95%信頼区間 0.87~1.10)P=0.07、I²=50%
・末期腎障害→オッズ比 0.98(95%信頼区間 0.90~1.07)P=0.07、I²=0%
※二次アウトカム
・eGFRの変化率→平均差 0.41(95%信頼区間 0.11~0.70)
・タンパク尿またはアルブミン尿の変化→標準偏差 -0.65(95%信頼区間 -0.94~-0.37)
・心血管イベント(致死的または非致死的心筋梗塞、致死的または非致死的脳卒中、冠血行再建、心血管死亡、心不全)→オッズ比 0.69(95%信頼区間 0.61~0.79)P<0.001、I²=33%
【コメント】
CKD患者に対するスタチンの使用による腎不全イベントとの関連はみられず、わずかながら腎機能を保持する効果があることが示唆されている。
しかし、統合されているメタ解析の多くは追跡期間が半年程度と短期間のものであるため、長期的な影響については不明であると考えた方が良いように思う。
出版バイアスへの配慮は見られるものの、検討はされてはいない。
まとめ
・腎機能が低下した患者において、一次予防であっても冠動脈疾患予防や死亡の延長効果はみられ、NNTを見るとその効果は決して小さくはないものである印象だが、そのまま適用すべきものではないように思う。
・高度な腎機能低下が見られる患者や透析患者においては、その効果は不明。
・副作用の増加は示唆されていない。
・長期的な使用による腎機能への影響は不明。
中等度の腎機能低下がみられる、患者についてスタチンの中止を考慮するといった例を経験しましたが、現時点では特に問題が起こっているわけでなければ、継続という選択で良いのかなと考えます。