【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

DAPTの期間(まとめメモ)

【私的背景】

ステント留置後のDAPTについて、これまでの簡単なまとめを作りたいと思う。

 

①「Duration of dual antiplatelet therapy following drug-eluting stent implantation: A systemic review and meta-analysis of randomized controlled trials with longer follow up.」

PMID: 28557264 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28557264

→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析

 

【PECO】

: 薬剤溶出性ステント留置後の患者(平均年齢の範囲 62~68歳、男性 69~81%)

: 短期間のDAPT(3~6ヶ月)

: 長期間のDAPT(12~30ヶ月)

: ステント血栓症

 

【結果】

・ステント血栓症→オッズ比 1.59(95%信頼区間 0.77~3.27) 異質性:I2=63%

※二次アウトカム

・大出血→オッズ比 0.64(95%信頼区間 0.41~0.99) 異質性:I2=0%

・総死亡、心血管死亡、心筋梗塞、標的血管血行再建、脳卒中については有意な差は見られていない

 

【コメント

一次アウトカムであるステント血栓症については有意な差は見られず、二次アウトカムではあるが、短期間DAPTの方がやはり大出血リスクは低いことが示唆されている。

しかし、ステント血栓症については異質性が少し高く、ランダム化比較試験によっては有意にリスクが増加しているものもあるため注意。

やはりステント血栓症については長期間の方がリスクを減少させると考えたほうが自然なように思うが、それを加味してもリスク・ベネフィットについては不明確。

DAPT試験は後でチェック。

 

 

②「Outcomes of ≤6-month versus 12-month dual antiplatelet therapy after drug-eluting stent implantation: A meta-analysis and meta-regression.」

PMID: 28033306 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28033306

→ランダム化比較試験のメタ解析

 

【PECO】

: 薬剤溶出性ステント留置後の患者

: 6ヶ月以内のDAPT

: 12ヶ月のDAPT

: 虚血性エンドポイント→ステント血栓症、総死亡、心血管死亡、非心血管死亡、脳卒中心筋梗塞の再発、標的血管血行再建

安全性エンドポイント→全ての出血、大出血

 

【結果】

・総死亡→ オッズ比 0.87(95%信頼区間 0.69~1.11) 異質性:I2=0%

・心血管死亡→オッズ比 0.89(95%信頼区間 0.66~1.21) 異質性:I2=0%

・非心血管死亡→オッズ比 0.85(95%信頼区間 0.58~1.24) 異質性:I2=0%

心筋梗塞→オッズ比 1.10(95%信頼区間 0.89~1.37) 異質性:I2=0%

・ステント血栓症→オッズ比 1.37(95%信頼区間 0.89~2.10) 異質性:I2=0%

脳卒中→オッズ比 0.97(95%信頼区間 0.67~1.42) 異質性:I2=0%

・標的血管血行再建→オッズ比 0.95(95%信頼区間 0.77~1.16) 異質性:I2=0%

・全ての出血→オッズ比 0.76(95%信頼区間 0.59~0.96) 異質性:I2=0%

・大出血→オッズ比 0.72(95%信頼区間 0.49~1.05) 異質性:I2=0%

 

【コメント】

虚血性イベントについては有意な差は見られておらず、アウトカムが複数設定されており、仮説生成的ではあるもののやはり短期間の方が出血リスクについてはリスクが少ないことが示唆されている。

 

 

③「Dual Antiplatelet Therapy Continuation Beyond 1 Year After Drug-Eluting Stents: A Meta-Analysis of Randomized Trials.」

PMID: 28500135 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28500135

※抄録のみ

→ランダム化比較試験のメタ解析

 

【PECO】

: 薬剤溶出性ステント留置後の患者

: 1年以上のDAPT

: 1年間のDAPT

: 総死亡、心血管死亡、心筋梗塞、ステント血栓症脳卒中、大出血

 

【結果】

・総死亡→オッズ比 1.11(95%信頼区間 0.79~1.5)P=0.53

・心血管死亡→オッズ比 1.03(95%信頼区間 0.72~1.46)P=0.88

心筋梗塞→オッズ比 0.56(95%信頼区間 0.43~0.73)P<0.001

・ステント血栓症→オッズ比 0.46(95%信頼区間 0.16~1.27)P=0.13

脳卒中→オッズ比 0.91(95%信頼区間 0.65~1.26)P=0.56

・大出血→オッズ比 1.49(95%信頼区間 1.06~2.11)P=0.02

ベイズ・メタ解析

心筋梗塞→オッズ比 0.62(95%信頼区間 0.39~1.05)

・大出血→オッズ比 1.66(95%信頼区間 0.89~3.09)

 

【コメント】

抄録のみしか読めないため批判的吟味は出来ず。

やはり長期間のDAPTでは心筋梗塞のリスクは減少させる傾向にあるが、大出血についてはリスクを増加させる傾向にある。

しかし、これまで総死亡や心血管死亡については有意な差は見られておらず、長期間のDAPTについてリスク・ベネフィットはやはり不明確。

 

 

以下はこれまでにブログで取り上げたものを。

 

 

PMID: 25399658

・薬剤溶出ステントまたはベアメタルステント留置後の患者において、12カ月後以降のDAPTはステント血栓症と死亡・心筋梗塞脳卒中の複合アウトカムについてリスクを有意に減少させるものの、中等度または重度の出血リスクを増加させ、死亡リスクについては増加することが示唆されている。

・中等度または重度の出血について検討されている非劣性試験であるが、非劣性は示されなかった。

 

PMID: 25467565

・6ヶ月以下のDAPTとそれ以降も継続では、総死亡・心血管死亡・非血管死亡について有意な差は見られていない。

 

 

 

PMID: 25883067

・薬剤溶出ステント留置後の患者を対象としたメタ解析

・12ヶ月未満のDAPTは12ヶ月のDAPTと比較して、心血管死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・全死亡について有意な差は見られず、大出血のリスクは低い。

・13ヶ月以上のDAPTは心血管死亡については有意な差は見られず、心筋梗塞・ステント血栓症のリスクは減少させるが、大出血・全死亡のリスクは増加させる。

 

 

 

PMID: 25777667

・薬剤溶出ステント留置後の患者を対象としたネットワークメタ解析

・6ヶ月以下または1年間のDAPTは1年以上のDAPTと比較して、総死亡リスクが低い。

 

 

 

PMID: 28641840

・薬剤溶出ステント留置後のアスピリン非抵抗性である患者を対象としたランダム化比較試験

・6ヶ月間のDAPTは24ヶ月間のDAPTと比較して、死亡・心筋梗塞・血行再建術・脳卒中・出血の複合エンドポイントについて有意な差は見られていない。

 

 

 

PMID: 28198091

PCI後である中等度~重度のCKD患者を対象としたランダム化比較試験のサブ解析

・24ヶ月間のDAPTは6ヶ月間のDAPTと比較して、死亡・心筋梗塞・脳血管障害の複合エンドポイントについては有意な差は見られず、出血リスクは増加することが示唆されている。

 

 

感想

DAPTに関する論文は割と読んできたつもりでしたが、案外そうでもなかったですね。

有名な論文でもまだ読んでいないものがあるので、そちらも今後読む必要があります。

 

現時点では正直なところ、ステント留置後のDAPTの期間とリスク・ベネフィットについては明確ではない印象です。

当然ながら、個々の血栓症または出血リスクを加味して考えるべきなので、一律にいつまでという事は言えませんが、13ヶ月以上のDAPTで出血のみならず死亡リスクについても増加する可能性が示唆されていることは軽視できず、一般的な目安としては12ヶ月程度と考えるのが妥当なところかもしれません。

もし、長期間漫然と投与されているのであれば、それは見直すべきであると考えますが、仮に中止するとしても、2剤同時に中止しても良いのか、1剤だけ中止するならどちらの薬剤を中止するのか(多くは低用量アスピリン+クロピドグレルでしょうか)、その辺りも今後調べてみたいと思います。

デグルデグ vs グラルギン!

【私的背景】

抄録は目にしてはいたものの、しばらく放置していた論文を読んでみたいと思う。

 

「Efficacy and Safety of Degludec versus Glargine in Type 2 Diabetes.」

PMID: 28605603 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28605603

 

PECO

: 1剤以上の経口または注射の血糖降下薬による治療が行われている、心血管イベントリスクの高い2型糖尿病患者(20ヶ国438施設、7637例、心血管疾患の既往ありまたは中等度のCKD 85.2%、平均年齢 65.0歳、平均糖尿病期間 16.4年、平均HbA1c 8.4±1.7%)

: 通常ケアにインスリンデグルデグ1日1回を夕食後から寝る前の間に追加(3818例)

: 通常ケアのインスリングラルギン1日1回を夕食後から寝る前の間に追加(3819例)

: 心血管死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合アウトカム

 

・心血管イベントリスクが高い

①50歳以上でいずれかの心血管疾患および腎疾患を合併している→心筋梗塞の既往あり、脳卒中またはTIAの既往あり、冠動脈・頸動脈または末梢動脈の再建術が行われている、冠動脈・頸動脈または下肢動脈に50%以上の狭窄が見られる、症候性冠動脈疾患を有する、無症候性の心血管虚血を有する、慢性心不全を有する、eGFR 30~59のCKD

②60歳以上で①のほかに以下のいずれかのうち1つ以上に該当する→微小アルブミン尿症またはタンパク尿、左室肥大のある高血圧症、左室収縮期または拡張期機能不全、足関節上腕血圧比 <0.9

 

チェック項目

・研究デザイン : ランダム化比較試験(非劣性試験)

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・ランダム化されているか? : されている

・盲検化されているか? : 二重盲検が行われている

・解析方法は? : ITT解析が行われている

・追跡率 : 98.1%

・サンプルサイズ : 7500例(パワー91%)

・追跡期間中央値 : 観察期間→1.99年間、暴露期間→1.83年間

・患者背景 : ほぼ同等

 

結果

〇非劣性マージンは95%信頼区間の上限が1.3

E群(8.5%) vs C群(9.3%)→ハザード比 0.91(95%信頼区間 0.78~1.06)P<0.001

 

※複合アウトカムの各項目

・心血管死亡

E群(3.6%) vs C群(3.7%)→ハザード比 0.96(95%信頼区間 0.76~1.11)P=0.71

・非致死的心筋梗塞

E群(3.8%) vs C群(4.4%)→ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.68~1.06)P=0.15

・非致死的脳卒中

E群(1.9%) vs C群(2.1%)→ハザード比 0.90(95%信頼区間 0.65~1.23)P=0.50

 

※二次アウトカム

・平均空腹時血糖(24ヶ月時点)

E群 : 128±56mg/dl、C群 : 136±57mg/dl

・重症低血糖

E群(4.9%) vs C群(6.6%)→ハザード比 0.60(95%信頼区間 0.48~0.76)P<0.001

・夜間の重症低血糖

E群(1.0%) vs C群(1.9%)→ハザード比 0.47(95%信頼区間 0.31~0.73)P<0.001

 

感想

デグルデグのグラルギンに対する非劣性が証明され、更にグラルギンと比較して重症低血糖のリスクが低い事が示されています。

しかし、サンプルサイズの項に7500例を5年間追跡と記載されておりますが、実際の観察期間は中央値で1.99年間であり、今回の一次アウトカムを見るには期間が短い印象があります。

グラルギンとプラセボとの比較を見てみると(PMID:22686416 Basal insulin and cardiovascular and other outcomes in dysglycemia. - PubMed - NCBI )、追跡期間の中央値が6.2年間であり、それと比較しても期間が非常に短く、少なくとも現時点では長期的な使用についてグラルギンと比較して、心血管系に対する安全性について問題ないとは言えないのではないかと思います。

また、結果に大きな影響はないようには思いますが、per-protcol解析等ではなく、差が出にくいITT解析が行われている点も気になるところではあります。

しかし、二次アウトカムではありますが、重症低血糖のリスクが低いというのはなかなか魅力的なようにも思います。今後、使い分けのポイントになるのかもしれません。

 

ちなみに、前述のグラルギンとプラセボとの比較では、心血管系の複合アウトカムについて有意な差は見られていないようです...。

勿論、細小血管障害の予防や高血糖昏睡などが問題となる場合は意義があるかもしれませんが、改めてインスリンを導入することの意義を考える必要があるようにも思います。

グラルギン vs プラセボについてはまた後程詳しく読んでみたいと思います。

 

関連記事