高齢者が禁煙することで余命は延びますか?QOLに影響はありますか? ~WS編②
今回もワークショップで挙がった臨床疑問に関連した論文を読んでみたいと思います。
今回紹介させていただくPECOはこちら、
P : 高齢者(70歳以上)
E : 禁煙
C : 喫煙継続
O : QOL、死亡、幸せか?
これはまた興味深い疑問ですね。
高齢者において禁煙を行うことの意義は、確かによくわかりません。
実は以前、このテーマに関連する論文を読んで記事にしておりました。
メタ解析としては質の高いものとは言い難い印象ではありますが、喫煙を継続している群と以前喫煙していたが現在は喫煙していない群を比較すると、平均余命についておよそ3年の違いがあり、高齢者でも禁煙することで余命が延びる可能性があることが示唆されております。
ただ、60歳以上の高齢者が対象となっているため、70歳以上の高齢者にそのまま適用できるものではないことに注意が必要です。
フォレストプロット(Fig 1)を見てみると、70歳以上の高齢者が多く含まれる研究においても喫煙継続群と喫煙中止群では心血管死亡について差が見られるように思いますが、このメタ解析で統合されている個々の研究の中(Table 1)から、70歳以上の高齢者が対象となっている研究を探して読んでみると良いと思います。
次はQOLについて検討されている論文を見つけたので、そちらを紹介したいと思います。
「Smoking cessation and quality of life: changes in life satisfaction over 3 years following a quit attempt.」
PMID:22160762
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22160762
→ランダム化比較試験参加者を対象とした縦断研究。
禁煙した患者と喫煙を継続した患者について比較されており、1年後および3年後では禁煙した患者においてglobal QOL・健康関連QOLの改善がみられ、3年後ではストレス要因の減少がみられた。
ランダム化比較試験に参加した患者が対象となっているため、禁煙に対する意欲が強い集団であると思われ、禁煙することを望んでいない患者についてはなかなか適用しづらい点には注意が必要ですが、禁煙しても案外幸せに生きられることが示唆されている貴重な報告であると思います。
それでは今回はこの辺で。
改めて原著を読んで自分で考える事で、薬剤師としての自分の意見を持つことができると思いますので、是非今回取り上げた論文を自分で読んでみてください。
ベンゾジアゼピン系薬の使用は転倒・骨折リスクを増加させますか?~WS編①
今回は、先日仙台で開催したAHEADMAPワークショップ「みんなで考える臨床疑問と、EBM実践はじめの一歩」のグループワークで挙がった臨床疑問と関連する論文をいくつか読んでみたいと思います。
今回紹介させていただくPECOはこちら、
P : 高齢者(75歳以上、施設入居者など)に
E : ベンゾジアゼピン系薬(BZD)を投与すると
C : 使っていない人に比べて
O : 転倒リスク(または、死亡リスク・骨折リスク・寝たきり・認知症など)が上がってしまうのか?
良いPECOですね。
アウトカムも興味深いものばかりですが、今回は転倒予防の目的であり、寝たきりに至る可能性のある骨折リスクに焦点を当てて調べてみたいと思います。
①「Benzodiazepine and risk of hip fractures in older people: a nested case-control study in Taiwan.」
PMID:18669947
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18669947
→台湾の65歳以上の高齢者を対象としたコホート内症例対照研究。
BZD使用ありの群と使用なしの群で、大腿骨骨折の初発について検討されている。
【結果】
・BZDの使用あり→調整オッズ比 1.7(95%信頼区間 1.2~2.5)
・BZD開始後の一カ月間→調整オッズ比 5.6(95%信頼区間 2.7~11.8)
・ジアゼパム 3mg/日以上の使用→調整オッズ比 1.8(95%信頼区間 1.1~3.1)
・短時間作用型BZDの使用→調整オッズ比 1.8(95%信頼区間 1.3~2.7)
【解説】
高齢者においてBZDの使用は大腿骨骨折と関連することが示唆されており、開始後一カ月以内・高用量・短時間作用型でリスクが高いことが示唆されている。
②「Association between use of benzodiazepines and risk of fractures: a meta-analysis.」
PMID:24013517
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24013517
→観察研究のメタ解析。BZDの使用と骨折リスクについて検討されている。
【結果】
・BZDの使用→相対リスク 1.25(95%信頼区間 1.17~1.34)P<0.001
・65歳以上のBZDの使用→相対リスク 1.26(95%信頼区間 1.15~1.38)P<0.001
※サブグループ解析
・長時間作用型BZDの使用→相対リスク 1.21(95%信頼区間 0.95~1.54)P=0.12
【解説】
やはりBZDの使用は骨折リスクを増加させることが示唆されている。
長時間作用型BZDの使用では有意な差はみられていないが、あくまでもサブグループ解析であり、検出力が不足していた可能性なども考えられ、リスクがないとは結論できない点には注意が必要。
③「Risk of hip fracture among older people using anxiolytic and hypnotic drugs: a nationwide prospective cohort study.」
PMID:24810612
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24810612
→ノルウェイの高齢者(平均年齢 72.8歳)を対象としたコホート研究。
各薬剤の使用ありと使用なしで、大腿骨骨折について検討されている。
【結果】
・抗不安薬→標準化罹患比 1.4(95%信頼区間 1.4~1.5)
・催眠薬→標準化罹患比 1.2(95%信頼区間 1.1~1.2)
・短時間作用型BZD→標準化罹患比 1.5(95%信頼区間 1.4~1.6)
・Z-Drug→夜:標準化罹患比 1.3(95%信頼区間 1.2~1.4)、昼:標準化罹患比 1.1(95%信頼区間 1.1~1.2)
【解説】
こちらの研究でも大腿骨骨折について短時間作用型BZDで特にリスクが高いことが示唆されている。
また、Z-Drugでも大腿骨骨折リスクが増加することが示唆されている。
④「Antipsychotic and Benzodiazepine Drug Changes Affect Acute Falls Risk Differently in the Nursing Home.」
PMID:26248560
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26248560
→米国の2つの高齢者施設に入居している高齢者(平均年齢 87.5歳、女性 75.1%)を対象としたケースクロスオーバー研究。
抗精神病薬・BZDと転倒について検討されている。
【結果】
・BZD開始後24時間以内→オッズ比 3.79(95%信頼区間 1.10~13.00)
・抗精神病薬開始後24時間以内→オッズ比 2.42(95%信頼区間 0.58~10.06)
・BZDの中止→オッズ比 0.26(95%信頼区間 0.08~0.91)
【解説】
BZDの中止が転倒リスク低下と関連することが示唆されている貴重な報告。
抗精神病薬開始と転倒については関連がみられていないが、βエラーである可能性が高い。
ひとまず、この辺で今回の論文を調べるのは終わりにしたいと思います。
各研究でBZDの使用が骨折リスクを増加させることが示唆されておりますが、全て観察研究であるため、そもそも睡眠障害が骨折リスクを増加させるなどの交絡の可能性も考えられるかもしれません。
しかし、BZDの中止が転倒リスク低下と関連することが示唆されている点を考慮すると、やはりBZDの使用は転倒・骨折のリスクを増加させると考えて問題ないように思います。
BZDと転倒・骨折について検討されている論文は他にもあるので、自分で探してみるとまた新たな発見があるかもしれません。
是非、検索して論文を読んでみてください。
関連記事として、BZDと認知症について検討されている論文の記事とその他の転倒リスクを増加させる薬剤についての記事も貼りますので、お時間がある時に読んでいただければ幸いです。
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