血清クレアチニン値が30%以上増加したらACE阻害薬/ARBは中止した方が良いですか?
【私的背景】
以前から気になっていたもののスルーしていた論文だが、Twitterで話題になっていたので読んでみることにした。
「Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks: cohort study.」
PMID:28279964
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28279964
PECO
P : ACE阻害薬またはARBによる治療が開始された18歳以上の患者(英国、122363例)
E : 血清クレアチニン値の30%以上増加あり
C : なし
チェック項目
・研究デザイン : コホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 英国における一般診療のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる
・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、併存疾患(糖尿病、心筋梗塞、心不全、高血圧、不整脈、末梢動脈疾患、慢性腎疾患)、併用薬(β遮断薬、Ca拮抗薬、チアジド、ループ系利尿薬、K保持性利尿薬、NSAIDs)、生活習慣(喫煙、飲酒、BMI)、経済的地位、暦年、初回処方からの期間
結果
【末期腎疾患】
E群(5.2/1000人年) vs C群(1.3/1000人年)→調整ハザード比 3.43(95%信頼区間 2.40~4.91)
【心筋梗塞】
E群(11.0/1000人年) vs C群(5.9/1000人年)→調整ハザード比 1.46(95%信頼区間 1.16~1.84)
【心不全】
E群(28.9/1000人年) vs C群(12.4/1000人年)→調整ハザード比 1.37(95%信頼区間 1.14~1.65)
【総死亡】
E群(72.7/1000人年) vs C群(22.4/1000人年)→調整ハザード比 1.84(95%信頼区間 1.65~2.05)
感想
なかなか難しい論文ですね。
ACE阻害薬/ARBを使用していて血清クレアチニン値の30%以上増加がみられた場合は、末期腎疾患・心筋梗塞・心不全・総死亡のリスクが増加することが示唆されており、サブグループ解析では10%以上の増加で各アウトカムのリスク増加が示唆されている点からも、腎機能をモニターしていくことが重要であるとは言えますが、実際に中止した場合にどうなるかまではわからない結果であるとは思います。
ただ、個人的にはこの論文における示唆は無視できるものではなく、市中の保険薬局でよく見られる高血圧症に対する、特にARBによる治療などはそのベネフィットを考慮すると中止または変更も考慮され得るものではないかとも思います。
ガイドラインで推奨される治療中止基準も案外妥当なものかもしれないという印象でした。
DOACは心筋梗塞発症リスクが高いですか?
【私的背景】
心房細動は心筋梗塞のリスク因子であることが示唆されているが、抗凝固薬により心筋梗塞の発症リスクに差があるのか、論文を見つけたので読んでみたいと思う。
「Risk of myocardial infarction in patients with atrial fibrillation using vitamin K antagonists, aspirin or direct acting oral anticoagulants.」
PMID:28326589
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28326589
PECO
P : 心房細動と診断され、新規にVK拮抗薬・DOAC(リバーロキサバン・ダビガトラン)または低用量アスピリンが新規に処方された急性心筋梗塞の既往のない18歳以上の患者(英国、30146例、平均年齢72.5歳)
E : DOACまたは低用量アスピリンの使用
C : VK拮抗薬の使用
O : 急性心筋梗塞の発症
チェック項目
・研究デザイン : 人口ベースのコホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 一般診療のデータリンクが使用されており、大きな問題はないように思われる
・交絡因子の調整は? : 性別、BMI、喫煙、飲酒、うっ血性不全、脳血管疾患、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、虚血性心疾患、急性または慢性腎不全、肝機能不全または癌、脂質降下薬、降圧薬、抗血小板薬、その他の抗凝固薬、アスピリンの用量、心血管用薬、鎮痛薬、CYP3A4阻害薬、CYP3A4/P-gp誘導薬
・平均追跡期間 : DOAC→0.95年、VK拮抗薬→2.72年、低用量アスピリン→2.86年
結果
・DOAC(5.00/1000人年) vs VK拮抗薬(2.90/1000人年)→調整ハザード比 2.11(95%信頼区間 1.08~4.12)、NNH=477人/年
・低用量アスピリン(6.05/1000人年) vs VK拮抗薬(2.90/1000人年)→調整ハザード比 1.91(95%信頼区間 1.45~2.51)、NNH=318人/年
感想
これまでに心房細動は心筋梗塞のリスク因子であることが示唆されておりますが¹⁾、ワルファリンの使用が最も急性心筋梗塞のリスクが低いことが示唆されている貴重な報告です。
印象としてはそれほど大きな差ではなく、個人的には心房細動患者にアスピリン単独で使用されることはあまりないかなという点と、他のDOACについては不明である点については注意が必要ですが、やはり抗凝固薬にも一長一短があるという部分は今後も追っていきたいテーマです。
1)JAMA Intern Med. 2014 Jan;174(1):107-14.