【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

DOACは心筋梗塞発症リスクが高いですか?

私的背景】

心房細動は心筋梗塞のリスク因子であることが示唆されているが、抗凝固薬により心筋梗塞の発症リスクに差があるのか、論文を見つけたので読んでみたいと思う。

 

 

「Risk of myocardial infarction in patients with atrial fibrillation using vitamin K antagonists, aspirin or direct acting oral anticoagulants.」

PMID:28326589

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28326589

 

PECO

: 心房細動と診断され、新規にVK拮抗薬・DOAC(リバーロキサバン・ダビガトラン)または低用量アスピリンが新規に処方された急性心筋梗塞の既往のない18歳以上の患者(英国、30146例、平均年齢72.5歳)

: DOACまたは低用量アスピリンの使用

: VK拮抗薬の使用

: 急性心筋梗塞の発症

 

チェック項目

・研究デザイン : 人口ベースのコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 一般診療のデータリンクが使用されており、大きな問題はないように思われる

・交絡因子の調整は? : 性別、BMI、喫煙、飲酒、うっ血性不全、脳血管疾患、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、虚血性心疾患、急性または慢性腎不全、肝機能不全または癌、脂質降下薬、降圧薬、抗血小板薬、その他の抗凝固薬、アスピリンの用量、心血管用薬、鎮痛薬、CYP3A4阻害薬、CYP3A4/P-gp誘導薬

・平均追跡期間 : DOAC→0.95年、VK拮抗薬→2.72年、低用量アスピリン→2.86年

 

結果

・DOAC(5.00/1000人年) vs VK拮抗薬(2.90/1000人年)→調整ハザード比 2.11(95%信頼区間 1.08~4.12)、NNH=477人/年

・低用量アスピリン(6.05/1000人年) vs VK拮抗薬(2.90/1000人年)→調整ハザード比 1.91(95%信頼区間 1.45~2.51)、NNH=318人/年

 

感想

これまでに心房細動は心筋梗塞のリスク因子であることが示唆されておりますが¹⁾、ワルファリンの使用が最も急性心筋梗塞のリスクが低いことが示唆されている貴重な報告です。

印象としてはそれほど大きな差ではなく、個人的には心房細動患者にアスピリン単独で使用されることはあまりないかなという点と、他のDOACについては不明である点については注意が必要ですが、やはり抗凝固薬にも一長一短があるという部分は今後も追っていきたいテーマです。

 

1)JAMA Intern Med. 2014 Jan;174(1):107-14. 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24190540

Ca拮抗薬は胃食道逆流症状と関連しますか?

私的背景】

Ca拮抗薬は下部食道括約筋の圧を低下させ、胃食道逆流症状を悪化させるとされているが、Ca拮抗薬が胃食道逆流症状と関連するのか、現象について見てみたいと思う。

 

 

「Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?」

PMID:17298478

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17298478

 

PECO

: 虚血性心疾患の既往または硝酸薬の使用のない、高血圧症の治療のためにCa拮抗薬が処方されている患者(371例、平均年齢64.9歳、女性51.2%)

: Ca拮抗薬の使用前

: Ca拮抗薬の使用後

: 胃食道逆流症状

 

チェック項目

・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカムと言える

・対象集団の代表性は? : 西オーストラリアの14の地域薬局と1つの病院で患者を募っており、一般化は難しいかもしれない

・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、併存疾患、併用薬について調整されている

 

結果

①Ca拮抗薬使用前に胃食道逆流症のあった130名の患者のうち、45.8%の患者で症状の悪化がみられた。

・症状の悪化が最も多かったのはアムロジピンであった。[61.3%、P<0.0001]

・症状の悪化が最も少なかったのはジルチアゼムであった。[12.5%、P<0.5000]

②Ca拮抗薬使用前に胃食道逆流症の症状がなかった241名の患者のうち、35.3%の患者で症状の発現がみられた。

・症状の発現が最も多かったのはベラパミルであった。[39.1%、P=0.001]

・症状の発現が最も少なかったのはジルチアゼムであった。[30.7%、P値記載なし]

③ジルチアゼムとの比較

・ニフェジピン→オッズ比 4.03(95%信頼区間 1.10~14.80)

アムロジピン→オッズ比 4.22(95%信頼区間 1.13~15.70)

・フェロジピン→オッズ比 3.58(95%信頼区間 0.98~13.12)

・ベラパミル→オッズ比 1.80(95%信頼区間 0.49~6.67)

 

感想

Ca拮抗薬と胃食道逆流症状の関連について検討されている研究自体が少ないようで、今回はこの研究しか見つけられませんでしたが、Ca拮抗薬と胃食道逆流症状との関連が示唆されているものの、後ろ向きの前後比較であり、症状については患者へのアンケートで集計が行われているため妥当性については疑問が残ります。

質の高い研究であるとは言い難く、少なくともCa拮抗薬と胃食道逆流症状の関連について結論できるものではありません。

とは言え、もともと胃食道逆流症状の既往のあった患者などでCa拮抗薬開始後に症状の再発や増悪がみられた場合などは、Ca拮抗薬の影響も考慮すべきではないかと思います。