薬剤師がいれば薬が原因となる入院を防ぐことができますか?
【私的背景】
薬剤師であれば興味深い論文でしょう。
「Interventions in primary care to reduce medication related adverse events and hospital admissions: systematic review and meta-analysis.」
PMID:16456206
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16456206
PECO
P : 38研究の対象となった患者
E : プライマリケアにおいて、薬剤師主導で薬剤レビューを行い介入する、または他のヘルスケアの専門家が主導で介入する
C : 特別な介入はなし
O : 薬剤の過量投与または誤用が原因と考えられる入院
チェック項目
・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・評価者バイアス : 「The quality of all included studies was assessed independently by two reviewers」と記載されている。
・元論文バイアス : ランダム化比較試験の他に、ランダム化されていない比較試験や前後比較の研究も含まれている。Table 2を見るとあまり質の高いものではないような印象である。
・出版バイアス : Funnel plotを用いて検討されているが、「A funnel plot was prepared and this suggested the presence of publication bias」と記載されている。言語の制約はなく検索されており、個々の研究者と連絡を取っている。
・異質性バイアス : フォレストプロットを見ると方向性が一致していない。
結果
・薬剤師主導による介入→オッズ比 0.64(95%信頼区間 0.43~0.96) 異質性:P<0.001
※ランダム化比較試験のみの解析→オッズ比 0.92(95%信頼区間 0.81~1.05) 異質性:P=0.58
・他のヘルスケアの専門家主導による介入→オッズ比 1.05(95%信頼区間 0.57~1.94) 異質性:P=0.58
感想
薬剤師主導で薬剤に対する評価を行い介入することで、薬剤が原因となる入院を防げることが明らかにされており、やはり「薬」に薬剤師は不可欠であることが示唆されている!
と言えるほどのものではないのが残念ですが、薬剤師が介入することにより入院リスク減少と関連することが示唆されております。
単なる個人的な意見ではありますが、薬剤の過量投与や誤用について介入が行われており、勿論それは薬剤師として行わなければいけない事ではありますが、しかしそれだけではなく、その薬剤が目の前の患者にとってどれだけのベネフィットがあり、また、将来的にどのようなリスクがあるのかを定量的に判断して介入を行うということが重要であるように思います。
一見すると適切に使われているような薬剤も、実は期待できるベネフィットはわずかで、リスクの方が大きいのではないかなんて事例はそれほど稀なことではありません。
患者の想いも考慮しつつ、そこに介入できるか否か。そのためにはやはり論文を読み続け、模索していかなければなりません。
それはそうと、統合されているランダム化比較試験では転倒予防について検討されているものがいくつかあり、そちらも興味深いのでまたいずれ読んでみたいと思います。
5α還元酵素阻害薬は自殺リスクを増加させますか?
【私的背景】
5α還元酵素阻害薬を服用していた患者からめまいを訴えられるケースが数件あったため、転倒・骨折との関連が検討されている研究を探したが見つけられなかった。
しかし、たまたま精神神経系リスクについて検討されている研究を見つけたので、今回はそちらを読んでみたいと思う。
「Association of Suicidality and Depression With 5α-Reductase Inhibitors」
JAMA Intern Med. Published online March 20, 2017. doi:10.1001/jamainternmed.2017.0089
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2610105?resultClick=1
PECO
P : 66歳以上の男性(カナダ、年齢中央値75歳)
E : 5α還元酵素阻害薬(デュタステリド52.0%、フィナステリド48.0%)の新規使用あり(93197例)
C : 使用なし(93197例)
O : 自殺
チェック項目
・研究デザイン : 人口ベースの後ろ向きコホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : トロント州での行政データが使用されており、大きな問題はないように思われる
・交絡因子の調整は? : 傾向スコアマッチングが行われている(因子についてはeTable 2A~Cおよび3参照)
結果
【自殺による死亡】
E群(0.04%) vs C群(0.04%)→ハザード比 0.88(95%信頼区間 0.53~1.45)
※二次アウトカム
【自傷行為】E群:0.18% C群:0.14%
・0~1.5年間の使用→ハザード比 1.88(95%信頼区間 1.34~2.64)
・1.5~3年間の使用→ハザード比 0.63(95%信頼区間 0.36~1.09)
・>3年間の使用→ハザード比 1.07(95%信頼区間 0.64~1.77)
【うつ病の発症】E群:1.95% C群:1.37%
・0~1.5年間の使用→ハザード比 1.94(95%信頼区間 1.73~2.16)
・1.5~3年間の使用→ハザード比 1.22(95%信頼区間 1.08~1.37)
・>3年間の使用→ハザード比 1.22(95%信頼区間 1.08~1.37)
感想
5α還元酵素阻害薬の使用は使用なしと比較して自殺について有意な差は見られていないものの、二次アウトカムではありますが特に早期で自傷行為・うつ病発症のリスクについて有意な増加がみられております。
NNHを計算してみると、およそ1年半ちょっとで自傷行為が2500人、うつ病発症が173人と大きなリスクではないような印象ではありますが、5α還元酵素阻害薬が開始された患者では抑うつの症状などに注意していきたいと思います。