【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

ベンゾジアゼピン系薬の開始は寿命を縮めますか?

【私的背景】

興味深い報告を見つけたので。その日の論文、その日のうちに。

 

 

「Benzodiazepines and risk of all cause mortality in adults: cohort study」

BMJ 2017; 358 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j2941 (Published 06 July 2017)
Cite this as: BMJ 2017;358:j2941

 

PECO

: 18歳以上の成人(米国、3616569例)

: ベンゾジアゼピン系薬の開始あり

: なし

: 総死亡

 

チェック項目

・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 保険のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 高次元傾向スコアマッチングが行われている(因子についてはeTable 2参照)

・追跡期間中央値 : 180日

 

結果

E群(9.3/1000人年) vs C群(9.4/1000人年)→ハザード比 1.00(95%信頼区間 0.96~1.04)

 

※サブグループ解析

・12か月間

E群(7.8/1000人年) vs C群(7.7/1000人年)→ハザード比 1.04(95%信頼区間 1.01~1.08)

・48か月間

E群(6.0/1000人年) vs C群(6.1/1000人年)→ハザード比 1.05(95%信頼区間 1.02~1.07)

・< 65歳

E群(4.3/1000人年) vs C群(4.0/1000人年)→ハザード比 1.09(95%信頼区間 1.02~1.15)

・≧ 65歳

E群(65.4/1000人年) vs C群(74.3/1000人年)→ハザード比 0.89(95%信頼区間 0.85~0.94)

・短時間型

E群(11.3/1000人年) vs C群(10.8/1000人年)→ハザード比 1.06(95%信頼区間 1.02~1.10)

・長時間型

E群(4.8/1000人年) vs C群(8.1/1000人年)→ハザード比 0.60(95%信頼区間 0.55~0.65)

 

※二次解析

BZD開始群(9.2/1000人年) vs SSRI開始群(8.5/1000人年)→ハザード比(95%信頼区間 1.03~1.16)

 

感想

ベンゾジアゼピン系薬の開始による死亡に対する影響は見られておりません。

 

サブグループ解析を見ると、12ヶ月間・48ヶ月間の追跡で有意にリスクを増加させることが示唆されているものの、NNHを計算してみると10000人/年と本当にわずかな差である印象です。

65歳以上の高齢者・長時間作用型では有意なリスク減少が見られている点は興味深いところですが、ベンゾジアゼピン系薬の開始は死亡にはほとんど影響しないのではないかと考えられます。

ただし、この研究では長期的な影響については不明である点には注意が必要ではないかと思います。

 

死ななきゃ良いのかというとそういうわけでもなく、依存性や転倒・骨折リスク等の問題もあり、安易な開始や漫然投与は避けるべきだとは思いますが、私個人としてはどうもベンゾジアゼピン系薬を悪者にする気にはなれません。

私よりも的確なコメントを言える方は他に沢山いらっしゃるかとは思いますが、この手の薬剤が患者を救っているという実態は確かにあり、過剰な忌嫌や医療者側の価値観を押し付けるような中止は避けるべきではないかなと考えております。

日本人ではスタチンの使用は糖尿病新規発症リスクを増加させますか?

【私的背景】

これまで、スタチンの使用が糖尿病発症と関連することが示唆されているが、私自身はそれらの論文を読んだことがなかったため、今回はスタチンと糖尿病発症について検討されている論文を読んでみたいと思う。

 

 

「Lipid-lowering drugs and risk of new-onset diabetes: a cohort study using Japanese healthcare data linked to clinical data for health screening.」

PMID:28667223

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28667223

 

PECO

: 脂質異常症(総コレステロール ≧220mg/dl、LDLコレステロール ≧140mg/dl、HDLコレステロール <40mg/dlまたはTG ≧150mg/dl)を有する20~74歳の患者(日本、68620例)

: 脂質降下薬の使用有り

: 使用なし

: 糖尿病の新規発症

 

チェック項目

・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 保険データが使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、併用薬(全身性ステロイド、チアジド、β遮断薬、抗精神病薬、降圧薬、ニコチン酸)、HbA1c、TG、LDL-C、HDL-C、心筋梗塞、慢性心不全、脳血管疾患、腎・肝・肺疾患、癌、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、チャールソン併存疾患指数、BMI、血圧、FGB、総コレステロール、尿酸、尿たんぱく、尿糖、eGFRについて調整されている

・追跡期間 : 平均1.96年間

 

結果

・スタンダードスタチン(105.5/1000人年) vs 使用なし(22.6/1000人年)→調整ハザード比 1.91(95%信頼区間 1.38~2.64)、NNH=12人/年

ストロングスタチン(133.1/1000人年) vs 使用なし(22.6/1000人年)→調整ハザード比 2.61(95%信頼区間 2.11~3.23)、NNH=9人/年

・フィブラート(99.2/1000人年) vs 使用なし(22.6/1000人年)→調整ハザード比 1.64(95%信頼区間 0.98~2.76)、NNH=14人/年

 

・プラバスタチン→調整ハザード比 1.93(95%信頼区間 1.32~2.82)

・フルバスタチン→調整ハザード比 2.25(95%信頼区間 1.04~4.90)

・シンバスタチン→調整ハザード比 1.53(95%信頼区間 0.64~3.68)

・アトルバスタチン→調整ハザード比 2.15(95%信頼区間 1.52~3.04)

・ロスバスタチン→調整ハザード比 2.70(95%信頼区間 1.99~3.66)

・ピタバスタチン→調整ハザード比 3.11(95%信頼区間 2.20~4.40)

・ベザフィブラート→調整ハザード比 1.54(95%信頼区間 0.79~3.00)

・フェノフィブラート→調整ハザード比 1.82(95%信頼区間 0.82~4.02)

 

感想

日本人において、スタチンの使用は糖尿病発症リスクを増加させることが示唆されております。

フィブラートを見てみると、有意な差はみられていないものの、症例数が少ないため、もっと症例数が多ければ有意な差がみられたようにも思います。

そもそも、スタチンが必要な状態となるような生活を送っている患者では糖尿病の発症リスクも高いのではないかとも考えられるように思いますが、ベースライン時の患者背景を見てみると、それほど糖尿病リスクが高い患者群ではないようにも思います。

いずれにしろ、スタチンが処方されている患者ではHbA1cの推移等には十分な注意が必要であると思いますが、仮にスタチンを中止したとして糖尿病発症が防げるかどうかはこの研究のみでは不明であるため、このテーマは今後も追っていきたいと思います。