妊娠中の女性はノイラミニダーゼ阻害薬を使用しても大丈夫ですか?
【私的背景】
某クリニックから問い合わせのあったテーマについてまとめてみたい。
「Neuraminidase inhibitors during pregnancy and risk of adverse neonatal outcomes and congenital malformations: population based European register study.」
PMID:28246106
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28246106
PECO
P : 一人の乳児を産んだ女性(スカンジナビア、フランス)
E : 妊娠中にノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル・ザナミビル)の処方あり(5824例)
C : 処方なし(692232例)
E : 低出生体重、低アプガースコア(仮死の程度)、早産、胎児発育遅延、死産、新生児死亡、新生児疾病率、先天性奇形
チェック項目
・研究デザイン : 4ヶ国における人口ベースのコホート研究とそのメタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : スカンジナビアおよびフランス全域のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる
・交絡因子の調整は? : 生まれた年、母親の年齢、母親の併存疾患、喫煙について調整されている
結果
【低出生体重(<2500g)】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.77(95%信頼区間 0.65~0.91)
・フランス→調整オッズ比 0.76(95%信頼区間 0.42~1.41)
【低アプガースコア(≦6点)】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.87(95%信頼区間 0.67~1.14)
・フランス→調整オッズ比 0(95%信頼区間 0~1.55)
【早産(<37週)】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.97(95%信頼区間 0.86~1.11)
・フランス→調整オッズ比 0.97(95%信頼区間 0.56~1.68)
【胎児発育遅延】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.73(95%信頼区間 0.59~0.88)
・フランス→調整オッズ比 0.60(95%信頼区間 0.22~1.62)
【死産】
・スカンジナビア→調整オッズ比 0.73(95%信頼区間 0.41~1.29)
・フランス→調整オッズ比 1.02(95%信頼区間 0.45~2.31)
【新生児死亡】
・スカンジナビア→調整オッズ比 1.13(95%信頼区間 0.56~2.28)
・フランス→調整オッズ比 0(95%信頼区間 0~67.49)
【新生児疾病率】
・スカンジナビアのみ→調整オッズ比 0.92(95%信頼区間 0.86~1.00)
【先天性奇形】
・スカンジナビアのみ→調整オッズ比 1.06(95%信頼区間 0.77~1.48)
感想
ノイラミニダーゼ阻害薬の使用によりリスク減少との関連が見られているアウトカムがあるものの、現時点ではリスクを下げるとは考えづらく、調整されている因子が少ないため、医療を受けられる状態などの交絡の可能性は高いのではないかと思います。
いずれにせよ、有害なアウトカム増加との関連は見られておりません。
この研究のみで安全だとは言い切れませんが、これまでも妊娠中のノイラミニダーゼ阻害薬の使用と有害なアウトカムとの関連が見られなかった報告や妊娠中のインフルエンザ感染そのものが胎児にも影響を与える事が示唆されている報告を加味して考えると、妊娠中のインフルエンザ患者に対してはノイラミニダーゼ阻害薬による治療を行うという選択肢は十分に考慮できるものと思います。
ただし、ラミナニビルはいずれの研究にも含まれていないという点は注意すべきかもしれません。
・PMID: 23333544 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23333544
・PMID:24512604 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24512604
・PMID:24602087 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24602087
→ノイラミニダーゼ阻害薬の使用と有害なアウトカムとの関連は見られない
・PMID:24205364 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24205364
→妊娠中の influenza A(H1N1) 感染が有害アウトカムと関連
ベンゾジアゼピンとアルツハイマー病/GLP-1受容体作動薬と胆石症/COPD患者の吸入手技
【私的背景】
抄録しか読めないものの、気になった論文を読んでみたいと思う。
①「Benzodiazepine Use and Risk of Developing Alzheimer's Disease: A Case-Control Study Based on Swiss Claims Data.」
PMID:28078633
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28078633
【PECO】
P : 症例→新規にアルツハイマー病治療薬は開始された患者
対照→年齢・性別・発症日・居住地でマッチング
E : ベンゾジアゼピンの使用あり
C : 使用なし
O : アルツハイマー病の診断
【チェック項目】
・研究デザイン : 症例対照研究
・真のアウトカム : 真のアウトカムと言える
・対象集団の代表性は? : スイスにおける健康保険の請求データが使用されており、大きな問題はないと思われる
【結果】
・アルツハイマー病と診断される1年前の使用→オッズ比 1.71(95%信頼区間 1.17~2.99)
・アルツハイマー病と診断される3年前の使用→オッズ比 1.19(95%信頼区間 0.82~1.72)
・ベンゾジアゼピンの長期使用(≧30処方)→オッズ比 0.78(95%信頼区間 0.53~1.14)
【感想】
このテーマも決着がつくということはなかなかないのでしょうが、アルツハイマー病の前駆症状に対してベンゾジアゼピンが処方されている等の交絡の可能性が示唆されるような結果であり、ベンゾジアゼピンとアルツハイマー病との関連は不明確。
関連記事
②「Safety issues with Glucagon-Like peptide-1 receptor agonists: Pancreatitis, pancreatic cancer, and cholelithiasis. data from randomised controlled trials.」
PMID:28244632
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28244632
【PECO】
P : 2型糖尿病患者
E : GLP-1受容体作動薬の使用
C : プラセボまたはその他の糖尿病治療薬の使用
O : 膵炎、膵臓癌、胆石症
【チェック項目】
・研究デザイン : ランダム化比較試験のメタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカムであると言える
【結果】
・膵炎→オッズ比 0.93(95%信頼区間 0.65~1.34)P=0.71
・膵臓癌→オッズ比 0.94(95%信頼区間 0.52~1.70)P=0.84
・胆石症→オッズ比 1.30(95%信頼区間 1.01~1.68)P=0.041
【感想】
そもそも「他の糖尿病治療薬」に急性膵炎リスク増加が示唆されているDPP-4阻害薬が含まれている可能性があるため有意差はないが注意した方が良いかもしれない。
また、この結果のみで胆石症について注意すべきとは言えないが、上腹部痛を訴える患者がいた場合は急性膵炎と合わせて警戒したい。
関連記事
③「Chronic obstructive pulmonary disease exacerbation and inhaler device handling: real-life assessment of 2935 patients.」
PMID:28182569
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28182569
212人の総合診療医および50人の呼吸器科医が2935人のCOPD患者のデバイスの手技を評価。デバイスの種類にかかわらず、全体の50%に誤操作がみられた。
・薬剤到達にかかわるエラー→ブリーズヘラー:15.4%、ディスカス:21.2%、ハンディヘラー:29.3%、加圧式定量噴霧器:43.8%、レスピマット:46.9%、タービュヘイラー:32.1%
・COPD増悪による入院または救急受診
誤操作あり(6.9%) vs 誤操作なし(3.3%)→オッズ比 1.86(95%信頼区間 1.14~3.04)P<0.05
【感想】
喘息患者を対象とした研究と比較すると誤操作が多い印象ですが、COPD患者ではより高齢な患者が多いため、吸入手技の誤りはやはり多いのかもしれません。
初回の説明ももちろん大事ですが、定期的に手技を確認することも重要であると思います。
それにしても、レスピマットでは誤操作が多いんですね。
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