高齢者でも厳格な血圧管理をしたほうが良いですか?
【私的背景】
高齢者に対する降圧目標については不明確である印象であるため、今回は高齢者に対する降圧治療について検討されている論文を読んでみたいと思う。
「Outcomes of Intensive Blood Pressure Lowering in Older Hypertensive Patients」
Volume 69, Issue 5, February 2017>
DOI: 10.1016/j.jacc.2016.10.077
http://www.onlinejacc.org/content/69/5/486
PECO
P : 高血圧のある65歳以上の患者(10857例)
E : 厳格な血圧コントロール
C : 通常の血圧コントロール
O : MACE(主要心血管イベント)、心血管死亡、脳卒中、心筋梗塞、心不全、深刻な有害事象、腎不全
厳格な血圧コントロール→RCT3報でSBP<140mmHg、1報でSBP<120mmHg
通常の血圧コントロール→RCT2報でSBP140~149mmHg、1報でSBP140~159mmHg、1報で<140mmHg
チェック項目
・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確ではない
・評価者バイアス : 2人が独立して評価している。
・出版バイアス : 言語の制約なく探している。試験数が少ないため Funnel plot を用いた検討は行われていない。出版されていない文献も調べたか、個々の研究者に連絡を取ったかについては特に記載は見当たらない。
・元論文バイアス : Jadad score および Cochrane collaboration’s toolを用いて検討されており、Online Table 4 を見ると大きな問題はないように思われる。
・異質性バイアス : I2<25%でlow、50~75%でmoderate、>75%でhigh。フォレストプロットを見ると方向性が一致していないものもあり注意。
・平均追跡期間 : 3.1年
結果
・MACE
E群(3.7%) vs C群(5.2%)→リスク比 0.71(95%信頼区間 0.60~0.84)P=0.0001、I2=0%、NNH=67人
・心血管死亡
E群(1.1%) vs C群(1.7%)→リスク比 0.67(95%信頼区間 0.45~0.98)P=0.04、I2=25%、NNT=167人
・心筋梗塞
E群(1.0%) vs C群(1.3%)→リスク比 0.79(95%信頼区間 0.56~1.12)P=0.18、I2=0%、NNT=334人
・脳卒中
E群(2.1%) vs C群(2.6%)→リスク比 0.80(95%信頼区間 0.61~1.05)P=0.11、I2=19%、NNT=200人
・心不全
E群(1.3%) vs C群(2.0%)→リスク比 0.63(95%信頼区間 0.40~0.99)P=0.04、I2=21%、143人
・深刻な有害事象
E群(25.1%) vs C群(24.7%)→リスク比 1.02(95%信頼区間 0.94~1.09)P=0.69、I2=19%、NNH=250人
・腎不全
E群(1.1%) vs C群(0.5%)→リスク比 1.81(95%信頼区間 0.86~3.80)P=0.12、I2=46%、NNH=167人
感想
厳格な血圧管理によって、MACE・心血管死亡・心不全のリスクが有意に減少することが示唆されているが、設定されているアウトカムの数が多く、仮説生成的なメタ解析である点には注意が必要です。
また、各アウトカムにおいてSPRINT-SENIOR試験が大きなウェイトを占めておりますが、SPRINT-SENIOR試験での血圧の測定方法は「5分間安静にした後、自動で3回測定し平均値を取る」というもので、実臨床で行われいる測定方法とは乖離していることが指摘されている点と、SPRINT試験では腎不全については有意な増加が見られている点を考慮すると、一概に厳格に血圧コントロールを行うべきだとは言えないように思います。
BACKGROUNDには2014年に「JNC 8」が収縮期血圧<150mmHgを目標にすることを推奨にしたことについて触れられておりますが、それを覆すにはこのメタ研究では不十分である印象です。
その他に各アウトカムで有意な差が見られている「Wei et al,2013」については後程読んでみたいと思います。
それにしても、高齢者に対する降圧治療についてはやはり不明な点が多いですが、考えをまとめるためにも、これまで読んだ論文を一旦まとめてみる必要がありますね。
高齢者と一口に言っても、何歳か、虚弱高齢者かどうかで降圧治療がもたらす効果は変わってくるため患者背景を十分に考慮する必要はありますが、現時点では個人的には比較的健康で、心血管リスクがそれほど高くない高齢者であればまずは150/90mmHg以下を目標に降圧治療を行うのが妥当なところかなと思います。
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NOACと消化管出血/リバーロキサバン vs ダビガトラン/頭蓋内出血後のワルファリン再開
【私的背景】
抄録しか読めないものの、気になった論文を取り上げてみたいと思う。
①「Risk of major bleeding and stroke associated with the use of VKAs, NOACs and aspirin in patients with atrial fibrillation: a cohort study」
Emilie Gieling, Hendrika A. van den Ham, Hein van Onzenoort, Jacqueline Bos, Cornelis Kramers, Anthonius de Boer, Frank de Vries and Andrea M. Burden
Accepted manuscript online: 16 FEB 2017 02:50AM EST | DOI: 10.1111/bcp.13265
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bcp.13265/full
【PECO】
P : 心房細動を有し、新規に抗血栓薬が開始された患者(英国、31497例)
E : NOAC、低用量アスピリン
C : VK拮抗薬
O : 脳卒中、大出血
【チェック項目】
・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 一般診療のデータリンクが用いられており、大きな問題はないと思われる
【結果】
〇大出血
・NOAC vs VK拮抗薬→ハザード比 2.07(95%信頼区間 1.27~3.38)
※大出血については、主に消化管出血の増加が起因[ハザード比 2.63(95%信頼区間 1.50~4.62)]
・アスピリンとVK拮抗薬では差が見られなかった
〇虚血性脳卒中
・NOAC vs VK拮抗薬→ハザード比 1.22(95%信頼区間 0.67~2.19)
・VK拮抗薬 vs アスピリン→ハザード比 2.18(95%信頼区間 1.83~2.59)
【コメント】
NOACはVK拮抗薬と比較して消化管出血リスクが高いことが示唆されている。
交絡因子の調整等については不明であり、よりリスクの高い患者においてVK拮抗薬ではなくNOACが使用されていた可能性も十分に考えられるが、以前の研究を踏まえると高齢者においてはより注意すべきである。
関連記事
②「Rivaroxaban Versus Dabigatran or Warfarin in Real-World Studies of Stroke Prevention in Atrial Fibrillation Systematic Review and Meta-Analysis」
Ying Bai, Hai Deng, Alena Shantsila, Gregory Y.H. Lip
https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.116.016275
Stroke. 2017;STROKEAHA.116.016275
Originally published February 17, 2017
【PECO】
P : 17研究に参加した心房細動患者
E : リバーロキサバン
C : ダビガトラン、ワルファリン
O : 脳卒中/全身性塞栓症、大出血
【チェック項目】
・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
【結果】
〇脳卒中/全身性塞栓症
・リバーロキサバン vs ダビガトラン→ハザード比 1.02(95%信頼区間 0.91~1.13)I2=70.2%
・リバーロキサバン vs ワルファリン→ハザード比 0.75(95%信頼区間 0.64~0.85)I2=45.1%
〇大出血
・リバーロキサバン vs ダビガトラン→ハザード比 1.38(95%信頼区間 1.27~1.49)I2=26.1%
・リバーロキサバン vs ワルファリン→ハザード比 0.99(95%信頼区間 0.91~1.07)I2=0.0%
【コメント】
リバーロキサバンは恐らく20mg/日がメインであると思われるので注意が必要であるが、これまでの研究と同様にNOAC間の比較では大出血のリスクが高いことが示唆されている。
意外にもワルファリンとの比較において脳卒中/全身性塞栓症について有意な差がみられているが、異質性がやや高い点にはやはり注意が必要である。
③「Outcomes Associated With Resuming Warfarin Treatment After Hemorrhagic Stroke or Traumatic Intracranial Hemorrhage in Patients With Atrial Fibrillation」
Peter Brønnum Nielsen, PhD1,2; Torben Bjerregaard Larsen, PhD1,2; Flemming Skjøth, PhD1,3; et al
JAMA Intern Med. Published online February 20, 2017. doi:10.1001/jamainternmed.2016.9369
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2603491
【PECO】
P : ワルファリンによる治療中に頭蓋内出血を起こした心房細動患者(2415例、男性61.3%、平均年齢77.1歳)
E : ワルファリンの再開あり
C : なし
O : 虚血性脳卒中/全身性塞栓症、頭蓋内出血の再発、死亡
【チェック項目】
・研究デザイン : コホート研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・交絡因子調整は? : 年齢、性別、入院期間、併存疾患、併用薬について調整されている(詳細は不明)
【結果】
〇出血性脳卒中後
・虚血性脳卒中/全身性塞栓症→調整ハザード比 0.49(95%信頼区間 0.24~1.02)
・頭蓋内出血の再発→調整ハザード比 1.31(95%信頼区間 0.68~2.50)
・死亡→調整ハザード比 0.51(95%信頼区間 0.37~0.71)
〇外傷性頭蓋内出血後
・虚血性脳卒中/全身性塞栓症→調整ハザード比 0.40(95%信頼区間 0.15~1.11)
・頭蓋内出血の再発→調整ハザード比 0.45(95%信頼区間 0.26~0.76)
・死亡→調整ハザード比 0.35(95%信頼区間 0.23~0.52)
【コメント】
外傷性頭蓋内出血後のワルファリン再開では頭蓋内出血の再発リスクの低下が示唆されているが、出血リスクが低下するということはなかなか考えづらいため、より重症ではない患者でワルファリンが再開されたという可能性も高いのではないかと思われる。
同様に死亡リスクについても解釈には注意が必要ではあるが、外傷性頭蓋内出血の患者ではワルファリンの再開が再出血のリスクとなる可能性は低いのではないかと考えられる。
一方で、出血性脳卒中後の患者では虚血性脳卒中/全身性塞栓症のリスクは低下させる可能性はあるものの、頭蓋内出血リスクについては増加する可能性がある。
以前取り上げた研究ではCHA2DS2-VASスコアが6点以上であればベネフィットがリスクを上回る事が示唆されており、そちらも参考にしたい。
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