【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

降圧薬を開始するなら何が良いですか?

【私的背景】

処方提案を行う際、降圧薬の代替を考える時に悩むことが多いため、今回は降圧薬のクラス別で比較検討されている研究の論文を読んでみたいと思う。

 

「Comparative effectiveness of antihypertensive drugs in nondiabetic patients with hypertension: A population-based study.」

PMID: 28755451 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28755451

 

PECO

: 18歳以上の高血圧症と診断された糖尿病のない患者(米国、565099例、年齢中央値 55歳、女性 51.7%)

: ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬の開始

: チアジド系利尿薬の開始

: 降圧薬の追加

 

チェック項目

・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究

・真のアウトカムか? : 代用のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 民間保険請求のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、登録年、雇用形態、居住地域、脳血管疾患、脂質異常症、チャールソン併存疾患数、救急受診、医師の診察、入院について調整されている

 

結果

〇降圧薬の新規追加

・ACE阻害薬(54.4/100人年) vs チアジド系利尿薬(90.7/100人年)→ハザード比 0.69(95%信頼区間 0.68~0.70)

ARB(50.0/100人年) vs チアジド系利尿薬(90.7/100人年)→ハザード比 0.67(95%信頼区間 0.66~0.68)

・Ca拮抗薬(76.8/100人年) vs チアジド系利尿薬(90.7/100人年)→ハザード比 0.85(95%信頼区間 0.84~0.87)

 

※その他のアウトカム

〇中止

・ACE阻害薬(71.7/100人年) vs チアジド系利尿薬(98.8/100人年)→ハザード比 0.81(95%信頼区間 0.80~0.81)

ARB(55.2/100人年) vs チアジド系利尿薬(98.8/100人年)→ハザード比 0.66(95%信頼区間 0.65~0.67)

・Ca拮抗薬(88.0/100人年) vs チアジド系利尿薬(98.8/100人年)→ハザード比 0.99(95%信頼区間 0.97~1.01)

〇降圧薬の変更

・ACE阻害薬(8.7/100人年) vs チアジド系利尿薬(12.2/100人年)→ハザード比 0.80(95%信頼区間 0.78~0.83)

ARB(7.8/100人年) vs チアジド系利尿薬(12.2/100人年)→ハザード比 0.75(95%信頼区間 0.72~0.78)

・Ca拮抗薬(11.8/100人年) vs チアジド系利尿薬(12.2/100人年)→ハザード比 1.00(95%信頼区間 0.96~1.03)

〇心血管イベントまたは脳血管イベント

・ACE阻害薬(2.5/100人年) vs チアジド系利尿薬(1.7/100人年)→ハザード比 1.24(95%信頼区間 1.15~1.33)

ARB(2.7/100人年) vs チアジド系利尿薬(1.7/100人年)→ハザード比 1.28(95%信頼区間 1.18~1.39)

・Ca拮抗薬(3.7/100人年) vs チアジド系利尿薬(1.7/100人年)→ハザード比 1.35(95%信頼区間 1.25~1.46)

 

感想

代用のアウトカムがメインでしたが、興味深かったので、つい結果まで読んでしまいました。

利尿薬の開始は、他のクラスの降圧薬の開始と比較して、薬剤が追加される可能性が高いことが示唆されています。

その他に、薬剤の中止や変更の可能性も高いことが示唆されていますが、薬剤の中止については読み違えてなければチアジド系で98.8/100人年と異常に多いような...。中止の理由については記載されていないですが、日本の臨床現場とは大きく異なるように思うので、この研究のみではなんとも言えないような印象です。

一次アウトカムではないですが、心血管イベント・脳血管イベントについてはチアジド系利尿薬は他のクラスと比較して有意にリスクを減少させることが示唆されており、第一選択として使用を考慮されるのが好ましいように思いますが、患者背景についてはBMIなどの記載がないため、適用について考えるのはなかなか難しい印象です。

いずれにしろ、処方提案に活用するのは難しい論文でした...。