喘息患者は心血管疾患の治療のためにβ遮断薬を使用しても大丈夫ですか?
【私的背景】
心血管疾患の治療に用いられるβ遮断薬の喘息への影響について検討されている論文を読んでみる。
「Respiratory effect of beta-blockers in people with asthma and cardiovascular disease: population-based nested case control study」
Daniel R. MoralesEmail author, Brian J. Lipworth, Peter T. Donnan, Cathy Jackson and Bruce Guthrie
BMC Medicine201715:18
DOI: 10.1186/s12916-017-0781-0© The Author(s). 2017
Received: 2 August 2016Accepted: 5 January 2017Published: 27 January 2017
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-017-0781-0
PECO
P : 18歳以上で、喘息および心血管疾患の治療が行われている患者(英国、35502例、平均年齢60.1歳、女性59.7歳)
【症例】中等度(経口ステロイドによる治療)または重度(入院・死亡)の喘息増悪のあった患者
【対照】年齢・性別・暦年でマッチングされた患者
E : 心血管疾患の治療のためにβ遮断薬の使用あり
C : β遮断薬の使用なし
O : 中等度または重度の喘息増悪
チェック項目
・研究デザイン : コホート内症例対照研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 一般診療のデータベースが使用されており、大きな問題はない
・交絡への配慮は? : 喘息の治療(SABA、ICS、LABA、LT拮抗薬、メチルキサンチン類)、呼吸器感染症、喘息による入院の既往、心血管疾患用薬の使用(α遮断薬、CCB、利尿薬、硝酸薬、RA系阻害薬)、年齢、喫煙歴、BMI、生活水準、併存疾患、プライマリケアの受診について調整されている
・暴露の定義は? : 発症日から61~365日前は処方されておらず60日前以内はβ遮断薬が処方されている例をcurrent acute exposure、61~365日前から1つ以上のβ遮断薬が処方されており60日前以内も処方されている例をcurrent chronic exposureと定義されている。
1日量がアセブトロール200mg、アテノロール50mg、ビソプロロール5mg、カルベジロール25mg、セリプロロール200mg、メトプロロール100mg、ナドロール80mg、オキシプレノロール80mg、ピンドロール10mg、ソタロール160mg、チモロール10mg以上使用されているものはHigh doseと定義されている。
結果
心血管選択的β遮断薬が処方されていたのは5017例(14.1%)、そのうち主に処方されていたものはアテノロール(7.9%)とビソプロロール(5.4%)
非選択的β遮断薬が処方されていたのは407例(1.2%)、そのうち主に処方されていたのはソタロール(0.6%)とカルベジロール(0.4%)
【心血管選択的β遮断薬】
・重度の増悪→調整発生率比 0.87(95%信頼区間 0.57~1.35)P=0.540
・中等度の増悪→調整発生率比 0.97(95%信頼区間 0.85~1.11)P=0.658
※低用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 0.85(95%信頼区間 0.53~1.36)P=0.501
・中等度の増悪→調整発生率比 0.96(95%信頼区間 0.83~1.10)P=0.544
※高用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 0.96(95%信頼区間 0.33~2.84)P=0.943
・中等度の増悪→調整発生率比 1.08(95%信頼区間 0.82~1.42)P=0.600
【非選択的β遮断薬】
・重度の増悪→調整発生率比 1.66(95%信頼区間 0.53~5.35)P=0.398
・中等度の増悪→調整発生率比 1.41(95%信頼区間 0.95~2.08)P=0.088
※低用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 1.19(95%信頼区間 0.31~4.53)P=0.799
・中等度の増悪→調整発生率比 1.24(95%信頼区間 0.80~1.91)P=0.336
※高用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 12.11(95%信頼区間 1.02~144.11)P=0.048
・中等度の増悪→調整発生率比 2.67(95%信頼区間 1.08~6.62)P=0.034
感想
β遮断薬全体では喘息増悪との関連は見られていないものの、非選択的β遮断薬の高用量群では重度の増悪について有意な増加がみられ、その他も有意な差はみられてはいないものの増加傾向にあり、そもそも症例数が少ないためβエラーの可能性もあるので注意すべきかもしれません。
喘息患者に非選択的β遮断薬が使用されることはあまりないかもしれませんが、やはり喘息があり心不全の治療等でβ遮断薬が必要な場合は心血管選択的β遮断薬の方がベターである印象です。
ただ、私の理解では症例対照研究ではIRRは計算できないように思うのですが...。
本文にはオッズ比からバイアスなくIRRが見積れると書いてありますが、その辺りも改めて調べてみなけばいけませんね。
また、高齢者では併存疾患としてCOPDがある場合も少なくないため、β遮断薬のCOPDへの影響についても今後調べてみたいと思います。