HYVET試験を読んでみた。
【私的背景】
超高齢者に対する降圧治療について検討されている本論文を以前から読もうと思っていたもののつい放置していたが、明日参加する予定の論文抄読会のお題論文であるため、この機会に読んでみたいと思う。
「Treatment of hypertension in patients 80 years of age or older.」
PMID:18378519
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18378519
PECO
P : 80歳以上で収縮期血圧が160mmHg以上である高血圧患者(13ヶ国、195施設、3845例、平均年齢83.6歳、平均座位血圧173.0/90.8mmHg)
E : インダパミドを用いて血圧150/80mmHg以下を目標に治療、必要に応じてぺリンドプリルを追加(1933例)
C : プラセボを使用(1912例)
O : 致死的または非致死的な脳卒中
チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化されているか? : されている
・ランダム割付けが隠蔽化されているか? : 中央割付が行われている
・盲検化されているか? : 二重盲検が行われている
・ITT解析されているか? : されている
・結果を覆すほど脱落者がいるか? : 追跡率99.6%のため問題はない
・サンプルサイズ : 4000例(検出力90%)
・患者背景は同等か? : 同等である
・追跡期間中央値 : 1.8年間
結果
・2回目の中間解析において、脳卒中リスクの41%低下(P=0.009)および総死亡リスクの24%低下(P=0.007)が見られたため試験は早期終了されている。
【脳卒中】
E群(12.4/1000人年) vs C群(17.7/1000人年)→ハザード比 0.70(95%信頼区間 0.49~1.01)P=0.06、NNT=189人/年
※二次アウトカム
【脳卒中による死亡】
E群(6.5/1000人年) vs C群(10.7/1000人年)→ハザード比 0.61(95%信頼区間 0.38~0.99)P=0.046、NNT=238人/年
【総死亡】
E群(47.2/1000人年) vs C群(59.6/1000人年)→ハザード比 0.79(95%信頼区間 0.65~0.95)P=0.02、NNT=81人/年
感想
一次アウトカムについては有意な差は見られていないものの、二次アウトカムではありますが総死亡について有意な減少が見られています。
降圧治療としては利尿薬がメインで使われていたためか心不全についても有意な減少が見られており、脳卒中による死亡についても有意差が見られているもののNNTを見るとそれほど大きな効果ではない点を考えると心不全の減少が総死亡の減少に寄与していた可能性もあり、裏を返せば他のクラスの降圧薬が使用された場合についてはその効果は不明であると言えるかもしれません。
総死亡のイベント数を見てみると全部で431件でありRomdom Highによる過大評価の可能性は低いように思いますが、やはり飽くまでも二次アウトカムである点には注意が必要であり、一次アウトカムである脳卒中についてはイベント数が少ないため、早期終了されていなかった場合はリスクの減少が更に小さくなっていた可能性も否定できないように思われ、総合すると超高齢者に対する積極的な降圧治療の効果はやはり不明確である印象ではあります。
本試験に参加した患者は比較的健康的な超高齢者であると思われますが、ナーシングホームに入居している80歳以上の超高齢者を対象とした縦断研究(関連記事1)では、2剤以上の降圧薬を使用して収縮期血圧130mmHg未満にコントロールすることで死亡リスクが増加することが示唆されており、超高齢者の降圧治療については特に患者背景も大きく考慮する必要があります。
明日の抄読会のシナリオがどんなものか楽しみですが、私としてはやはり超高齢者においても虚弱患者でなければ、利尿薬を使用し血圧150/80mmHg以下を目指す降圧治療が好ましいように現時点では考えます。
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