【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

アセトアミノフェンの使用は心不全のリスクを増加させますか?

【私的背景】

これまで、NSAIDsの使用は心不全による入院リスクや増悪リスクを増加させることが示唆されており(関連記事)、添付文書上も「重篤な心機能不全のある患者」に対して禁忌とされているが、同様に「重篤な心機能不全のある患者」に対して禁忌とされているアセトアミノフェンの心不全リスクについて検討されている論文を読んでみたいと思う。

 

 

①「Concomitant use of ibuprofen and paracetamol and the risk of major clinical safety outcomes.」

PMID:20716244

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20716244

→英国における、イブプロフェンまたはアセトアミノフェンが処方された18歳以上の患者(1.2万人)が対象の後ろ向きコホート研究。

 

※全て、現在の処方(current) vs 過去の処方(past)

【上部消化管出血】

・イブプロフェン→相対リスク 1.18(95%信頼区間 1.13~1.24)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.36(95%信頼区間 1.31~1.41)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.70(95%信頼区間 1.32~2.19)

【心筋梗塞】

・イブプロフェン→相対リスク 1.09(95%信頼区間 1.04~1.14)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.14(95%信頼区間 1.10~1.19)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.12(95%信頼区間 0.86~1.46)

【脳卒中】

・イブプロフェン→相対リスク 1.11(95%信頼区間 1.06~1.16)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.14(95%信頼区間 1.10~1.18)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.30(95%信頼区間 1.01~1.66)

【心不全】

・イブプロフェン→相対リスク 1.08(95%信頼区間 1.03~1.12)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.19(95%信頼区間 1.16~1.23)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.05(95%信頼区間 0.84~1.32)

【腎不全】

・イブプロフェン→相対リスク 1.09(95%信頼区間 1.00~1.18)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.20(95%信頼区間 1.14~1.27)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.04(95%信頼区間 0.67~1.60)

【自殺行動】

・イブプロフェン→相対リスク 1.40(95%信頼区間 1.32~1.49)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.40(95%信頼区間 1.29~1.52)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.50(95%信頼区間 0.98~2.31)

【過量服用】

・イブプロフェン→相対リスク 1.52(95%信頼区間 1.43~1.62)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.42(95%信頼区間 1.32~1.53)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.33(95%信頼区間 0.90~1.96)

【死亡】

・イブプロフェン→相対リスク 1.12(95%信頼区間 1.10~1.15)

・アセトアミノフェン→相対リスク 1.28(95%信頼区間 1.26~1.30)

・イブプロフェン+アセトアミノフェン→相対リスク 1.50(95%信頼区間 1.34~1.68)

 

【コメント】

心不全を見ると、アセトアミノフェンの使用が心不全リスクを増加させることが示唆されている。

交絡因子の調整が十分ではない印象であるため、交絡の可能性も高い点には注意が必要だが、MPR(総投薬量に対する実服薬量の割合)が高いほどリスクが高くなる傾向にあり、やはり長期投与では注意が必要かもしれない。

 

 

②「Association of outpatient utilisation of non-steroidal anti-inflammatory drugs and hospitalised heart failure in the entire Swedish population.」

PMID:11372596

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11372596

※抄録のみ

→スウェーデンにおける外来患者が対象の観察研究。

 

【心不全による入院】

・NSAIDs→相対リスク 1.08(95%信頼区間 1.04~1.12)

・アセトアミノフェン→ 相対リスク 0.95(95%信頼区間 0.92~0.98)

 

【コメント】

アセトアミノフェンの使用が心不全による入院のリスクを減少させることが示唆されているが、残念ながら研究の詳細は不明。

 

 

感想

そもそもアセトアミノフェンと心不全について検討されている研究が少なく、いずれも質の高いものとは言い難い印象ではありますが、現時点ではNSAIDsと同様に長期の漫然使用や心不全患者への使用は十分に注意する必要があるように思います。

 

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