PPIを中止すれば肺炎リスクは減少しますか?
今回は前回のツイキャス抄読会の復習をしていこうと思います。
【症例シナリオ】
screamtheyellow.hatenablog.com
【ツイキャスライブ履歴】
ではお題論文を。
「Community acquired pneumonia incidence before and after proton pump inhibitor prescription: population based study」
BMJ 2016; 355 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.i5813 (Published 15 November 2016)
Cite this as: BMJ 2016;355:i5813
http://www.bmj.com/content/355/bmj.i5813
PECO
P : 18歳以上の患者(英国、320000人、平均年齢56歳(SD16)、女性55%)
E : PPIの新規使用あり
C : なし
O : 市中肺炎の発症
チェック項目
・研究デザイン : コホート研究およびセルフコントロールドケースシリーズ研究
※セルフコントロールドケースシリーズ研究について
→抗精神病薬で心筋梗塞のリスクは増大するか? - 【薬局薬剤師の記録的巻物】
本研究では同一の患者において、「PPI開始前の30日間」「PPI開始後0~30日」「PPI開始後30日以降の暴露期間」と「その他の期間」が比較されている
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 一般診療のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる
・交絡因子の調整は? : 配信の内容には誤りがありTable2を見ると、コホート研究では年齢・性別・処方された年についてマッチングが行われており、悪性腫瘍・脳血管疾患・片麻痺・慢性肺疾患・うっ血性血管疾患・リンパ増殖性疾患・認知症・糖尿病・腎疾患・リウマチ疾患・心筋梗塞・肝疾患・PPI開始前に一般開業医を受診した回数・ステロイド使用・免疫抑制(化学療法・全身性ステロイド・免疫抑制剤・抗拒絶反応薬を用いた固形臓器移植・HIV感染)ついて調整されている。
セルフコントロールドケースシリーズ研究では年齢の調整が行われている。
結果
【コホート研究】
E群(76.13/1000人年) vs C群(30.34/1000人年)→調整ハザード比1.65(95%信頼区間1.53~1.77)
【セルフコントロールドケースシリーズ研究】
・PPIが処方される前30日間→発生率比1.92(95%信頼区間1.84~2.00)
・PPIが処方された後30日間→発生率比1.19(95%信頼区間1.14~1.25)
・それ以降の暴露期間→発生率比1.49(95%信頼区間1.49~1.52)
【Prior event rate ratio】(PPI暴露後を暴露前およびPPI暴露なし群と比較)
PPIの使用が肺炎のリスク低下[prior event rate ratio 0.91(95%信頼区間0.83~0.99)]
感想
コホート研究ではPPIの使用と肺炎リスク増加との関連が示されているものの、セルフコントロール研究ではPPI使用後のみならず使用前においてもリスクが高いことが示されております。
これまでに胃食道逆流症(GERD)は肺炎のリスクファクターであることが指摘されておりますが(PMID:19641641 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19641641 )、そもそもPPIが必要な患者では肺炎リスクが高い可能性がありPPIの使用と肺炎リスク増加との関連は交絡である可能性が示唆される結果であると思います。
シナリオに戻って考えるとPPI中止により肺炎リスクが低下する可能性は低いと思われ、胃潰瘍の既往があり更に低用量アスピリンを服用していることを考えるとPPIは継続した方が良いのではないかと考えます。
ありがたいことに配信中にコメントで沢山の論文を紹介していただいたので、次回はそれを踏まえどのように行動するか考えてみたいと思います。