【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

クラリスロマイシン服用で心筋梗塞になりやすくなる?

「Cardiovascular outcomes associated with use of clarithromycin: population based study」

BMJ 2016; 352 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.h6926 (Published 14 January 2016)
 

PECO

P : 香港における18歳以上の326781人(年齢中央値60.0歳・男性52.4%)
E : クラリスロマイシンの使用(108988人)
C : アモキシシリンの使用(217793人)
O : 心筋梗塞の発生
 

チェック項目

・研究デザイン : コホート研究(自己対照ケースシリーズ解析・ケースクロスオーバー解析も行われている)
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・調整された交絡因子は? : 年齢・性別・既往歴について調整され、傾向スコアマッチングが行われている
・集団の代表性は? : 一般診療のデータベースが使われており、大きな問題はないと思われる
 

結果

[コホート研究]
〇一次アウトカム
・抗菌薬開始後1~14日 
E群(132例、44.4/1000人年) vs C群(149例、19.2/1000人年)→調整発生率比3.66(95%信頼区間2.82~4.76)、NNH=1786人
 
※15日目以降では有意な差は見られていない。
 
 
〇二次アウトカム(全て開始から1~14日後の結果)
・不整脈→率比2.22(95%信頼区間1.22~4.06)
・脳卒中→率比1.11(95%信頼区間0.80~1.54)
・総死亡→率比1.97(95%信頼区間1.83~2.11)
・心血管死亡→率比1.67(95%信頼区間1.36~2.06)
・心血管以外の死亡→率比2.10(95%信頼区間1.94~2.77)
 
※15日目以降では全て有意な差は見られていない。
 
 
[自己対照ケースシリーズ研究](740人・年齢中央値65.0歳・男性68.7%)
・心筋梗塞(開始後1~14日)→率比3.38(95%信頼区間1.89~6.04)
・不整脈(開始後1~14日)→率比5.07(95%信頼区間2.19~1.72)
・脳卒中(開始後1~14日)→率比1.49(95%信頼区間0.91~2.44)
 
 
[ケースクロスオーバー研究](308人・年齢中央値73.3歳・男性65.3%)
・心筋梗塞(開始後1~14日)→オッズ比2.20(95%信頼区間1.23~3.95)
・不整脈(開始後1~14日)→オッズ比2.49(95%信頼区間1.09~5.69)
・脳卒中(開始後1~14日)→オッズ比1.04(95%信頼区間0.63~1.71)
 
 

感想

クラリスロマイシン開始後の2週間以内に心筋梗塞のリスクが高くなる事が示唆されている。また二次アウトカムでは不整脈及び死亡リスクの増加も示唆されている。
これまでの研究の結果を支持するようなものと思われるが、長期的な影響は見られていない。
 
計算が間違っていなければ心筋梗塞に対するNNHを見ると4桁とそれほど多くはないような印象を持ったが、アウトカムの重大性及びクラリスロマイシンの処方頻度を考えると決して軽視できるものではなく、心血管疾患のリスクが高い患者や高齢者では何故クラリスロマイシンが処方されているのかを考慮した上で、代替が可能であれば提案する必要があると考える。


香港で使われているクラリスロマイシンの用量が不明のためその点においては注意が必要かもしれない。