スタチンを使用している患者では、インスリンによる血糖コントロールに影響がありますか?
【私的背景】
これまで、スタチンの使用が糖尿病新規発症リスクを増加させることが示唆されているが、血糖コントロールに対してどのように影響を及ぼすかは不明であるため、今回は関連する論文を読んでみたいと思う。
「Effects of background statin therapy on glycemic response and cardiovascular events following initiation of insulin therapy in type 2 diabetes: a large UK cohort study」
PMID: 28830436
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28830436
PECO
P : 2型糖尿病と診断され、インスリンによる治療が開始された18歳以上の患者(英国、12725例、平均年齢 58.6±14歳、ベースライン時の平均HbA1c 8.7±1.8%)
E : スタチンの使用あり
C : スタチンの使用なし
O : 6・12・24・36ヶ月後の血糖コントロール(HbA1cの変化)
チェック項目
・研究デザイン : 後ろ向きコホート研究
・真のアウトカムか? : 代用のアウトカムではあるが、興味深いので読み進める
・対象集団の代表性は? : 英国におけるプライマリケアのデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる。
・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、社会的地位、飲酒、喫煙、体重、身長、収縮期/拡張期血圧、HbA1c、血清クレアチニン、脂質状態、その他の血糖降下薬、併存疾患(Table 1参照)
・平均追跡期間 : 3.9±1.5年間
結果
【HbA1cの変化】
・6ヶ月後 : スタチン使用群(-0.26%) vs 非使用群(-0.34%)→平均差 0.09%(95%信頼区間 0.03~0.15)P=0.004
・36ヶ月後 : スタチン使用群(-0.31%) vs 非使用群(-0.35%)→平均差 0.05%(95%信頼区間 -0.04~0.14)P=0.172
※二次アウトカム
【3-point MACE(総死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合アウトカム)】
・非使用群(30.9/1000人年) vs スタチン使用群(20.7/1000人年)→調整ハザード比 1.36(95%信頼区間 1.15~1.62)
【総死亡】
・非使用群(24.9/1000人年) vs スタチン使用群(9.5/1000人年)→調整ハザード比 1.89(95%信頼区間 1.51~2.37)
【心筋梗塞】
・非使用群(0.7/1000人年) vs スタチン使用群(1.4/1000人年)→調整ハザード比 0.88(95%信頼区間 0.35~2.23)
【脳卒中】
・非使用群(4.8/1000人年) vs スタチン使用群(9.4/1000人年)→調整ハザード比 0.55(95%信頼区間 0.38~0.81)
※サブグループ解析
・スタチン使用群は、非使用群と比較して、研究期間を通じてHbA1cが高かった。(P<0.05)
【3-point MACE】
・アトルバスタチン→調整ハザード比 0.82(95%信頼区間 0.68~0.98)
・シンバスタチン→調整ハザード比 0.67(95%信頼区間 0.55~0.82)
・ロスバスタチン→調整ハザード比 0.56(95%信頼区間 0.39~0.81)
・プラバスタチン→調整ハザード比 0.78(95%信頼区間 0.60~1.01)
感想
スタチンの使用が、インスリンによる血糖コントロールに影響を与える事が示唆されていますが、その数字を見るとそれほど大きなものではなく、長期では有意な差がみられていません。
一方で、二次アウトカムでは、MACEのリスクを減少させることが示唆されておりますが、複合アウトカムの各要素を見てみると、総死亡の減少は見られるものの、心筋梗塞では有意な差は見られず、脳卒中ではリスク増加が見られ、なんだかちょっとよくわからないというか、これをこのまま鵜呑みにすることは出来ないような印象ではありますが、血糖コントロールへの影響をリスクとして考えた場合、ベネフィットがリスクを上回るように思います。
しかし、この研究では元からスタチンを使用している群へのインスリン開始による血糖コントロールについて検討されているため、既に血糖降下薬を使用している患者でのスタチン開始によるHbA1cの変動なども見てみたいところです。
探せばあるのかな?また後日探してみたいと思います。