風邪に抗菌薬は必要ですか? ~WS編③
今回も仙台ワークショップのグループワークで挙がった臨床疑問について取り上げたいと思います。
今回のPECOはこちら
P : 風邪の患者さんに
E : 抗菌薬を投与すると
C : 抗菌薬を投与しない場合と比べて
O : 風邪が治る期間が短くなるか?入院せずにすむか?重症化せずにすむか?有害事象が増えるか?
こちらも非常に興味深い疑問ですね。よく話題になるテーマです。
今回のPECOに関連した記事を以前書いていたので、まずはそちらを紹介したいと思います。
急性呼吸器感染症の患者への抗菌薬投与で、有害事象については有意な増加見られず、肺炎による入院については有意な減少が見られているものの、NNTを見てみると12255人という衝撃的な数字となっており、臨床的に意義のある差であるとは言い難い印象です。
次はちょっと古い論文を。コクランレビューです。
①「Antibiotics for the common cold.」
PMID:12137610
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12137610
→急性上気道感染症の症状が7日以上続いている患者に対して、抗菌薬の使用とプラセボの使用について比較されているランダム化比較試験のシステマティックレビュー。
【結果】
・症状の持続→オッズ比 0.8(95%信頼区間 0.59~1.08)
・鼻水→オッズ比 0.42(95%信頼区間 0.22~0.78)
・咽頭痛→オッズ比 0.27(95%信頼区間 0.10~0.74)
・成人での有害事象→オッズ比 3.6(95%信頼区間 2.21~5.89)
・子供での有害事象→オッズ比 0.90(95%信頼区間 0.44~1.82)
【解説】
意外にも鼻水・咽頭痛の症状改善との関連はみられているものの、全体的な症状の持続期間短縮との関連は見られず、成人においては有害事象との関連が示唆されております。
やはり、風邪に対する抗菌薬使用が正当化されるようなものではない印象です。
最後に、ワークショップ終了後に発覚したのですが、参加者が見つけていた論文を紹介したいと思います。
③「Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial.」
PMID:26719947
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26719947
→急性非複雑性呼吸器感染症の患者(405例、平均年齢45歳、男性34.2%)を対象としたランダム化比較試験。
増悪時に抗菌薬の使用を指示する遅延戦略、①増悪時に再診し抗菌薬が使用される遅延戦略、②直ちに抗菌薬投与、③抗菌薬投与なしの4群について、④症状持続期間と重症度について検討されている。
【結果】
・症状の平均持続期間
①増悪時に抗菌薬使用:13.1日間 ②増悪時に再診:12.3日間 ③直ちに抗菌薬使用:11.7日間 ④抗菌薬なし:14.4日間
・あらゆる症状の最も高い重症度中央値(Likertスケール)
①5(4~5)、②5(3~5)、③5(3~5)、④5(4~6)
【解説】
症状の持続期間について差は見られているものの、直ちに抗菌薬投与群と増悪時に再診群では0.5日とそれほど大きな差ではなく、重症度についてはすべての群において差が見られていません。
急性非複雑性呼吸器感染症の患者において、抗菌薬が必要である人と必要がない人がいるというのは当然のことではありますが、症状発症早期から鑑別することは難しい場合が多いのではないかという点を考えると、増悪したら抗菌薬の使用を検討する遅延処方戦略が妥当なものではないかと思います。
今回は以上です。
他にも風邪に抗菌薬が検討されている論文はいくつかあるため、自分で探してみると新たな発見があるのではないかと思います。
それにしても、初めのPECOに合致するものではありませんが、遅延処方戦略について検討されているランダム化比較試験は非常に参考になるものではないかと思います。
ただ、WSは初心者を対象としていたため、見つけてはいるものの、参考になる論文であるかどうかが判断できないというケースがあったようです。
私がうまくフォローしていればと反省しております。次回に活かさなければ。