【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

EPA製剤は心筋梗塞の予防に効果がありますか?~case 8

今回は久々に臨床疑問をいただいたので、その疑問について論文を検索して読んでみたいと思います。

今回いただいた疑問は、「EPA/AA比が0.4以下の人に、性別・年齢・既往等関係なく後発品への変更不可でEPA製剤が処方されているのですが、心筋梗塞の予防に効果がありますか?保険診療で行われても良いものですか?」といった内容でした。

まずは疑問をPECOで定式化してみましょう。

 

P : EPA/AA比が0.4以下の患者

E : EPA製剤の使用あり

C : 使用なし

O : 心筋梗塞の発症

 

ひとまずはこんなところでしょうか。

 

それではPubmedのClinical Queriesにアクセスして、検索ボックスに「eicosapentaenoic acid myocardinal infarction」と入力し、CategoryはTherapy、ScopeはBroadで検索された論文の中からいくつかピックアップして読んでみたいと思います。

 

 

①「Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis.」

PMID:17398308

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17398308

※抄録のみ

 

【PECO】

P : 総コレステロールが6.5mmol/L(251mg/dL)以上の患者(日本、18645例)

E : EPA製剤 1800mg/日+スタチン(9326例)

C : スタチン単独(9319例)

O : 主要冠動脈イベント(心臓突然死、心筋梗塞、不安定狭心症、血管形成術、ステント、冠動脈バイパス術)

 

【チェック項目】

・研究デザイン : ランダム化比較試験

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・ランダム化されているか? : されている

・ITT解析されているか? : されている

・追跡期間 : 平均4.6年間

 

【結果】

・E群(2.8%) vs C群(3.5%)→主要冠動脈イベントを相対的に19%減少させた(P=0.011)、NNT=143

 

【コメント】

日本人において、スタチンにEPA製剤を併用することで主要冠動脈イベント(複合アウトカム)リスクの有意な減少が見られていますが、NNTは143であり、これは143人に4.6年間併用することで1人の主要冠動脈イベントが予防できるという程度のものであり、少なくとも大きな効果があるものであるとは言い難い印象です。

また、この試験ではPROBE法が行われているようですが、複合アウトカムにはソフトエンドポイントが含まれており、複合エンドポイントの各要素では、不安定狭心症および非致死的な冠動脈イベントというソフトエンドポイントについては有意な減少が見られているものの、心臓突然死や冠動脈死亡といったハードエンドポイントでは有意な差が見られていない点には注意が必要かもしれません。

 

 

②「Association between omega-3 fatty acid supplementation and risk of major cardiovascular disease events: a systematic review and meta-analysis.」

PMID:22968891

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22968891

※抄録のみ

 

【PECO】

: RCT20試験に参加した68680人

: ω-3脂肪酸の使用あり

: 使用なし

: 総死亡、心臓死亡、突然死、心筋梗塞、脳卒中

 

【チェック項目】

・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 複数設定されているため注意

 

【結果】

・総死亡→相対リスク 0.96(95%信頼区間 0.91~1.02)

・心臓死亡→相対リスク 0.91(95%信頼区間 0.85~0.98)

・突然死→相対リスク 0.87(95%信頼区間 0.75~1.01)

・心筋梗塞→相対リスク 0.89(95%信頼区間 0.76~1.04)

・脳卒中→相対リスク 1.05(95%信頼区間 0.93~1.18)

 

【コメント】

心臓死亡のみ有意な差が見られていますが、アウトカムが複数設定されており、いわゆる仮説生成的なメタ解析である点には注意が必要です。

記載されている絶対リスク減少率を見てみると、-0.01(-1%)であり、やはりそれほど効果としては大きくはなく、総死亡や心筋梗塞については有意な差は見られていない点を考えると、ω-3脂肪酸を服用する臨床的な意義は明確ではない印象です。

 

 

③「n-3 fatty acids and cardiovascular events after myocardial infarction.」

PMID:20929341

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20929341

 

【PECO】

P : 心筋梗塞の既往がある60~80歳の患者(オランダ、4837例、男性78.2%)

: EPA-DHA(400mg/日)、ALA(2g/日)

: プラセボ

: 主要な心血管イベント(致死的または非致死的な心血管疾患、PCI、CABG)

 

【チェック項目】

・研究デザイン : ランダム化比較試験

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・ランダム化されているか? : されている

・盲検化されているか? : 二重盲検が行われている

・ITT解析されているか? : されている

・脱落者 : 9.1%

・サンプルサイズ : 4000例(検出力80%)

・患者背景 : ほぼ同等

・追跡期間 : 40ヶ月

 

【結果】

・EPA-DHA(46.0/1000人年) vs プラセボまたはALA(45.7/1000人年)→ハザード比 1.01(95%信頼区間 0.87~1.17)P=0.93

・ALA(43.6/1000人年) vs プラセボまたはEPA-DHA(48.1/1000人年)→ハザード比 0.91(95%信頼区間 0.78~1.05)P=0.20

 

【コメント】

 EPAの用量が臨床で使われる用量よりもかなり少ない点に注意が必要ですが、心筋梗塞の既往のある患者の二次予防においてもn-3脂肪酸の効果は不明確であるという結果です。

 

 

④「Efficacy of omega-3 fatty acid supplements (eicosapentaenoic acid and docosahexaenoic acid) in the secondary prevention of cardiovascular disease: a meta-analysis of randomized, double-blind, placebo-controlled trials.」

PMID:22493407

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22493407

 

【PECO】

: 18歳以上で心血管疾患の既往のある患者(平均年齢63.4歳)

: ω-3脂肪酸の使用

: プラセボやオリーブオイル等の使用

: 全ての心血管イベント(狭心症、心臓突然死、心血管死亡、うっ血性心不全、末梢血管疾患、TIA、脳卒中、致死的または非致死的な心筋梗塞、予定外の心血管インターベンション)

 

【チェック項目】

・研究デザイン : メタ解析

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・評価者バイアス : 2名が独立して評価している。

・出版バイアス : Funnel plotを用いて検討されており、「Publication bias was not observed in the trials (ie, Begg funnel plot is symmetric and Egger test P = .53)」と記載されている。言語は英語のみ。

・元論文バイアス : 全てランダム化比較試験。Jadadスコアで評価されており平均4.4点。

・異質性バイアス : フォレストプロットは視覚的にバラバラである。

 

【結果】

・全ての心血管疾患→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.89~1.09)P=0.16、I2=27.1%

※二次アウトカム(一部のみ)

・総死亡→相対リスク 0.96(95%信頼区間 0.90~1.02)

・心血管死亡→相対リスク 0.91(95%信頼区間 0.84~0.99)

・心筋梗塞→相対リスク 0.81(95%信頼区間 0.65~1.01)

 

【コメント】

心血管死亡に関しては有意な減少が見られているものの一次アウトカムではない点に注意が必要であり、やはり二次予防においてもω-3脂肪酸の心血管イベント予防効果については不明です。

 

感想

①のランダム化比較試験ではEPA製剤の使用により有意差が見られているものの、効果としてはわずかなものであり、更にPROBE法にソフトエンドポイントという「禁じ手」が使われている点を考慮するとわずかな効果を更に割り引いて考える必要があり、その他の論文ではEPA製剤の効果は不明確である事が示唆されている点を考えると、少なくとも積極的なEPA製剤の使用が勧められるというようなものではない印象です。

特に二次予防に対する③④の論文は平均年齢が高く、もっと若ければ長期的には効果がある可能性ももしかしたらあるのかもしれませんが、現時点では検査を行い一律に、公的なお金を使って、患者に毎日服用してもらうということが妥当なものでるとは言えないと私は思います。

 

この結果を見て、疑問をいただいた方やこの記事を読んでいただいた方の中でご意見がある方がいらっしゃいましたら是非ともコメント欄に書き込んでいただけたら嬉しく思います。

一緒に考える事が出来たら幸いです、よろしくお願い致します。