オセルタミビルは高齢者介護施設のインフルエンザアウトブレイクを防ぐことができますか?
【私的背景】
前回は家族間でのオセルタミビルによるインフルエンザの予防効果について取り上げたが、今回は高齢者介護施設内でのオセルタミビルによるインフルエンザの予防に対する効果について検討されているランダム化比較試験の論文を読んでみたいと思う。
「Treating and preventing influenza in aged care facilities: a cluster randomised controlled trial.」
PMID:23082123
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23082123
PECO
P : オーストラリアの高齢者介護施設(16施設、入居者905人、職員275人)
E : インフルエンザと診断された患者はオセルタミビル75mg×2/日を5日間服用し、施設内の全ての職員と入居者は予防としてオセルタミビル75mg×1/日を10日間服用する(8施設)
C : インフルエンザと診断された患者がオセルタミビル75mg×2/日を5日間服用するのみで、予防使用はなし(8施設)
O : インフルエンザの罹患率
チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 入居者は高齢者で重症化するリスクが高いことを考えると、真のアウトカムと考えても良いように思う
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化されているか? : クラスターランダム化が行われている
・盲検化されているか? : されていない
・ITT解析されているか? : インフルエンザが発生した施設のみ解析されており、ITT解析は行われていない
・サンプルサイズ : 各群8施設または360例(検出力80%)
・患者背景 : 職員の予防接種を受けた割合がE群で若干低い点に注意が必要
・追跡期間 : 3年間
結果
インフルエンザ発生期間の平均はE群が10.8日間、C群が24日間(P=0.03)
・入居者のインフルエンザ罹患率 : E群(22.9%) vs C群(36.5%)→率比 0.63(95%信頼区間0.47~0.84)P=0.002、NNT=8
・職員のインフルエンザ罹患率 : E群(13.4%) vs C群(21.3%)→率比 0.71(95%信頼区間0.26~1.93)P=0.5、NNT=13
※有害事象
・入居者に対するオセルタミビルによる治療における有害事象→頭痛7%、嘔吐5%、めまい/ふらつき3%、吐き気2%
・ 入居者に対するオセルタミビルによる予防における有害事象→頭痛2%、嘔吐2%、めまい/ふらつき2%、吐き気3%
・職員に対するオセルタミビルによる治療における有害事象→頭痛48%、吐き気29%、めまい/ふらつき19%、嘔吐10%
・職員に対するオセルタミビルによる予防における有害事象→頭痛15%、吐き気15%、嘔吐6%、めまい/ふらつき4%
感想
なかなか興味深い論文でした。
βエラーの可能性が高いですが、オセルタミビルの予防使用による職員のインフルエンザ罹患については有意な差は見られていないものの、入居者に対しては有意な減少が見られております。
ランダム化後に、インフルエンザが発生しなかったために除外された施設がE群で8施設中2施設、C群で8施設中5施設もあり、ランダム化が保持されていなかった可能性はあるかもしれません。
オセルタミビルの予防使用を行った群の方がインフルエンザが発生した施設が多く、職員が予防接種を受けた割合は低く、22.9%の入居者がインフルエンザに罹患したことを考えると、やはりオセルタミビルを予防使用しているからといって過信せずにその他の対策も行う事が重要であるように思います。
しつこいようですがインフルエンザ予防の基本は予防接種・手洗い・マスク・極力インフルエンザ患者との接触を避ける等で施設に持ち込まないという事が重要であるとは思いますが、それでも施設内でインフルエンザが発生してしまった際はハイリスク患者などではオセルタミビルの予防使用も考慮しうるように思います。
それにしても、むしろインフルエンザが発生しなかった施設では他にどのような対策を行っていたのかについて知りたいですね。
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