【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

ノイラミニダーゼ阻害薬はインフルエンザ予防に効果がありますか?

【私的背景】

オセルタミビルのインフルエンザ予防効果について質問があったため、論文を検索し、簡単にまとめてみたいと思う。

 

 

①「Neuraminidase inhibitors for influenza: a systematic review and meta-analysis of regulatory and mortality data.」

PMID:27246259

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27246259

→システマティックレビュー&メタ解析

オセルタミビル・ザナミビルのインフルエンザに対する予防および治療効果について検討されている。

4つのバイアスについては大きな問題はないと思われる。

 

〇症状緩和までの時間

・成人 : オセルタミビル vs プラセボ→平均差 -16.76時間(95%信頼区間 -25.10~ -8.42)I2=0%

・成人 : ザナミビル vs プラセボ→平均差 -0.60日(95%信頼区間 -0.81~ -0.39)I2=9%

・喘息の小児では有意な差は見られなかった

・健康な小児 : オセルタミビル vs プラセボ→平均差 -29時間(95%信頼区間 -12~ -47)

〇入院

・成人 : オセルタミビル vs プラセボ→平均差 0.15%(95%信頼区間 -0.78~0.91%)

・小児または予防によるオセルタミビルの使用では有意な差は見られなかった

〇深刻なインフルエンザ合併症

・オセルタミビルおよびザナミビルは成人の治療・予防または小児の治療において有意な差は見られなかった

〇肺炎

・オセルタミビルは肺炎発症について有意に減少させた[リスク差1.00%(95%信頼区間0.22~1.49)、NNTB=100]

・オセルタミビルは小児においては肺炎の有意な減少が見られなかった

・ザナミビルは肺炎の発症について有意な差は見られなかった

・予防による使用ではザナミビルは成人の肺炎発症について有意な減少が見られたが[リスク差0.32%(95%信頼区間0.09~0.41)、NNTB=311]、オセルタミビルでは有意な差は見られなかった

〇気管支炎

・ザナミビルは成人の気管支炎リスクについて有意な減少が見られた[リスク差1.80%(95%信頼区間0.65~2.80)、NNTB=56]

・オセルタミビルでは有意な差は見られなかった

〇治療による害

・オセルタミビルは成人において吐き気リスクの有意な増加が見られ[相対リスク1.57(95%信頼区間1.14~2.15)、NNTH=28]、嘔吐リスクについても有意な増加が見られた[相対リスク2.43(95%信頼区間1.75~3.38)、NNTH=22]

・オセルタミビルは下痢のリスクを有意に減少させ[相対リスク0.67(95%信頼区間0.46~0.98)、NNTB=43]、血管イベントについても有意な減少が見られた[相対リスク0.49(95%信頼区間0.25~0.97)、NNTB=148]

・小児の治療においてオセルタミビルの使用は嘔吐を増加させ[相対リスク1.7(95%信頼区間1.23~2.35)、NNTH=19]、抗体が4倍に増加する割合については有意な減少が見られた[相対リスク0.90(95%信頼区間0.80~1.00)I2=0%]

〇予防

・オセルタミビルおよびザナミビルは症候性インフルエンザのリスクを有意に減少させた[オセルタミビル:相対リスク0.45(95%信頼区間0.30~0.67)、NNTB=33][ザナミビル:相対リスク0.39(95%信頼区間0.22~0.70)、NNTB=51]

・家庭内の予防においても有意な減少が見られた[オセルタミビル:相対リスク0.2(95%信頼区間0.09~0.44)、NNTB=7][ザナミビル:相対リスク0.22(95%信頼区間0.13~0.36)、NNTB=7]

・無症候性インフエンザについては有意な差は見られなかった

〇予防による有害事象

・オセルタミビルは精神有害イベントを増加させた[相対リスク1.80(95%信頼区間1.05~3.08)、NNTH=94]

・オセルタミビルは頭痛リスクを増加させた[相対リスク1.18(95%信頼区間1.05~1.33)、NNTH=32]

・オセルタミビルは吐き気リスクを増加させた[相対リスク1.96(95%信頼区間1.2~3.2)、NNTH=25]

 

【コメント】

非常に読みづらい論文でした...。

特に家族がインフルエンザに罹患した場合はノイラミニダーゼ阻害薬を予防として使用すると効果が期待できそうではありますが、消化器系の有害事象には注意が必要です。

治療効果に関しては症状緩和までの時間短縮効果は見られるものの、合併症や死亡に対する効果は見られず、肺炎や気管支炎の予防に関しても効果が大きいものではないためインフルエンザ患者に一律にノイラミニダーゼ阻害薬を使用する必要性はないように思います。

 

 

②「Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults: systematic review and meta-analysis.」

PMID:19995812

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19995812

→システマティックレビュー&メタ解析

健康な成人についてインフルエンザに対するノイラミニダーゼ阻害薬の予防および治療効果について検討されている。

 

〇インフルエンザ様疾患の予防(vs プラセボ)

・オセルタミビル75mg/日経口投与→リスク比1.28(95%信頼区間0.45~3.66)P=0.64、I2=57%

・オセルタミビル150mg/日経口投与→リスク比1.00(95%信頼区間0.25~3.95)P=1.00

・ザナミビル10mg/日吸入投与→リスク比1.51(95%信頼区間0.77~2.95)P=0.23、I2=12%

・ザナミビル6.4mg/日経鼻投与→リスク比0.79(95%信頼区間0.21~2.95)P=0.73

・ザナミビル10mg/日経口投与および6.4mg/日経鼻投与→リスク比0.33(95%信頼区間0.07~1.58)P=0.16

・全体→リスク比1.20(95%信頼区間0.77~1.87)P=0.41、I2=26%

 

〇検査によるインフルエンザ陽性に対する予防効果(vs プラセボ)

・オセルタミビル75mg/日経口投与→リスク比0.39(95%信頼区間0.18~0.66)P=0.02、I2=37%

・オセルタミビル150mg/日経口投与→リスク比0.27(95%信頼区間0.11~0.67)P=0.005

・ザナミビル10mg/日吸入投与→リスク比0.38(95%信頼区間0.17~0.85)P=0.02、I2=66%

・ザナミビル6.4mg/日経鼻投与→リスク比1.06(95%信頼区間0.54~2.08)P=0.87

・ザナミビル10mg/日吸入投与および6.4mg/日経鼻投与→リスク比0.22(95%信頼区間0.88~0.58)P=0.002

・全体→リスク比0.41(95%信頼区間0.25~0.65)P<0.001、I2=59%

 

〇インフルエンザ症状の軽減(vs プラセボ)

・ザナミビル→ハザード比1.24(95%信頼区間1.13~1.36)P<0.001、I2=0%

・オセルタミビル→ハザード比1.20(95%信頼区間1.06~1.35)P=0.003、I2=25%

・全体→ハザード比1.22(95%信頼区間1.14~1.31)P<0.001、I2=0%

 

〇下気道合併症の発症

・オセルタミビル→リスク比0.55(95%信頼区間0.22~1.35)P=0.19、I2=37%

 

〇吐き気

・オセルタミビル75mg/日→オッズ比1.79(95%信頼区間1.10~2.93)P=0.02、I2=0%

・オセルタミビル150mg/日→オッズ比2.29(95%信頼区間1.34~3.92)P=0.002

 

【コメント】

出版バイアスの可能性は高く割り引いて考える必要がある点には注意が必要です。

健康な成人に対するノイラミニダーゼ阻害薬の使用によるインフルエンザ様疾患の予防についてプラセボと比較して有意な差が見られておりませんが、サブグループを見ていくと95%信頼区間の幅が広くそれだけイベント数が少なく、そもそもそれほど罹患する人は多くはないのかなという印象があります。

いずれにしろ健康な成人に対するインフルエンザ症状や合併症の予防については効果が不明であり、吐き気の発生が懸念されるという結果です。

 

感想

インフルエンザの予防としてはやはり予防接種・手洗い・マスク等が基本となるかと思いますが、「健康な成人」という大きな括りではノイラミニダーゼ阻害薬による予防効果は不明であり推奨されるものではありませんが、家庭内にインフルエンザ患者がいる場合や施設内などにインフルエンザ患者いる場合などについても今後見ていきたいと思います。