乳幼児の咳嗽にプラセボは効果がありますか?
【私的背景】
鎮咳薬は小児の咳嗽を軽減する効果については不明であり、乳児突然死との関連が指摘されている。咳嗽の緩和が示唆されている蜂蜜についてもボツリヌス中毒の恐れがあるため、特に1歳未満の乳児には与えないように注意が必要である。
そこで今回、乳幼児の咳嗽に対するアガベネクター及びプラセボの効果が検討されているランダム化比較試験の論文を見つけ、興味深かったため読んでみることにする。
「Placebo effect in the treatment of acute cough in infants and toddlers: a randomized clinical trial.」
PMID:25347696
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25347696
PECO
P : 7日間以内の非特異的な急性咳嗽のある生後2~24ヶ月の患者(120例)
※喘息、肺炎、気管支炎などは除外
E : アガベネクター(40例)またはプラセボ(40例)を寝る30分前に投与
C : 治療なし(40例)
O : 咳の頻度、咳の重症度、咳のうるささ、鼻閉の重症度、鼻漏の重症度、咳による子供への就寝への影響、咳による親の就寝への影響
※アガベネクター→主にフルクトース・グルコースからなるリュウゼツランの株を煮詰めて作られた甘味料。
チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 代用のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 複数設定されている
・ランダム化されているか? : されている
・盲検化されているか? : アガベネクター群とプラセボ群では二重盲検が行われており、また研究者は盲検化されている
・ITT解析されているか? : されていないが、脱落は1例のみであり大きな問題はないと思われる
・追跡率 : 99.2%
・サンプルサイズ : 120例(検出力80%)
・患者背景 : 問題のある偏りは見られない
結果
※スコアは全て7点満点で親が評価
【咳の頻度】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.1点(95%信頼区間-0.6~0.8)P=0.79
・アガベネクター群 vs 無治療群→差0.8点(95%信頼区間0.1~1.5)P=0.03
・プラセボ群 vs 無治療群→差0.7点(95%信頼区間0.01~1.4)P=0.048
【咳の重症度】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.1点(95%信頼区間-0.6~0.8)P=0.87
・アガベネクター群 vs 無治療群→差0.8(95%信頼区間0.1~1.5)P=0.03
・プラセボ群 vs 無治療群→差0.7点(95%信頼区間0.04~1.4)P=0.04
【咳のうるささ】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.3点(95%信頼区間-0.5~1.1)
・アガベネクター群 vs 無治療群→差1.0(95%信頼区間0.2~1.8)
・プラセボ群 vs 無治療群→差0.7(95%信頼区間-0.1~1.5)
【鼻閉の重症度】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.1(95%信頼区間-0.5~0.8)P=0.66
・アガベネクター群 vs 無治療群→差1.0(95%信頼区間0.4~1.6)P=0.002
・プラセボ群 vs 無治療群→差0.9点(95%信頼区間0.2~1.5)
【鼻漏の重症度】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.2(95%信頼区間-0.5~0.8)P=0.61
・アガベネクター群 vs 無治療群→差0.9(95%信頼区間0.3~1.6)P=0.007
・プラセボ群 vs 無治療群→差0.8(95%信頼区間0.1~1.4)P=0.02
【子供の睡眠】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.3(95%信頼区間-0.6~1.1)P=0.53
・アガベネクター群 vs 無治療群→差1.1(95%信頼区間0.3~2.0)P=0.008
・プラセボ群 vs 無治療群→差0.9(95%信頼区間0.05~1.7)P=0.04
【親の睡眠】
・アガベネクター群 vs プラセボ群→差0.2(95%信頼区間-0.7~1.1)P=0.66
・アガベネクター群 vs 無治療群→差1.2(95%信頼区間0.3~2.0)P=0.007
・プラセボ群 vs 無治療群→差1.0(95%信頼区間0.1~1.8)P=0.02
感想
「咳のうるささ」以外のアウトカムではアガベネクター群およびプラセボ群では無治療群と比較して有意なスコアの改善が見られているものの、アガベネクター群とプラセボ群の比較では有意な差は見られておらず、アガベネクターが特別良いというわけではない事が示唆されております。
全体的にスコアの差はそれほど大きなものではなく劇的な効果は期待できない点と、E群とC群では盲検化が行われてはおらずスコアを付けた親にバイアスが働いている可能性が大きい点に注意が必要ですが、それを加味しても睡眠について改善が見られる点は案外重要であるようにも思います。
ただ、現実的には保険薬局においてプラセボを提案するということは難しく、やはり薬が欲しいという方が多いように思いますが、鎮咳薬の代替になるものについて今後検討してみたいと思います。