【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

80歳以上の2型糖尿病患者はHbA1c・血圧・総コレステロールが低値だと死亡リスクが増加しますか?

 

「Mortality in Individuals Aged 80 and Older with Type 2 Diabetes Mellitus in Relation to Glycosylated Hemoglobin, Blood Pressure, and Total Cholesterol.」

PMID:27295278

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27295278

 

PECO

: 80歳以上の2型糖尿病患者(英国、25966例)

E・C : ベースライン時(12ヶ月間)のHbA1c・血圧・総コレステロールの高低で比較

: 総死亡

 

チェック項目

・研究デザイン : 人口ベースのコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : プライマリケアのデータベースが用いられており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢・性別・糖尿病罹患期間・喫煙歴・BMI・受診・併存疾患(冠動脈疾患・脳卒中)・薬剤(糖尿病治療薬・降圧薬・脂質降下薬・抗血小板薬・抗凝固薬)・HbA1c・血圧・総コレステロールについて調整されている

・追跡期間中央値 : 2.0年

・患者背景 : 女性53%、90%が80~89歳、糖尿病罹患期間10年以上は48%、冠動脈疾患の既往あり35%、脳卒中の既往あり11%、糖尿病治療薬が処方されていたのは84%(メトホルミン61%・SU薬42%・インスリン13%)、降圧薬が処方されていたのは86%(RAS阻害薬70%)、脂質降下薬が処方されていたのは77%、抗血小板薬が処方されていたのは55%、抗凝固薬が処方されていたのは12%

 

結果

【HbA1c】

※8.0~8.4%(総死亡:111.5/1000人年)との比較

・<6.0%(134.9/1000人年)→調整ハザード比1.04(95%信頼区間0.88~1.23)P=0.67

・6.0~6.4%(102.1/1000人年)→調整ハザード比0.91(95%信頼区間0.79~1.05)P=0.19

・6.5~6.9%(85.9/1000人年)→調整ハザード比0.84(95%信頼区間0.74~0.96)P=0.009

・7.0~7.4%(80.9/1000人年)→調整ハザード比0.80(95%信頼区間0.70~0.91)P=0.001

・7.5~7.9%(98.6/1000人年)→調整ハザード比0.90(95%信頼区間0.79~1.04)P=0.15

・≧8.5%(133.1/1000人年)→調整ハザード比1.04(95%信頼区間0.91~1.04)P=0.15

 

【血圧】

※≧145/85mmHg~<150/90mmHg(総死亡:80.5/1000人年)との比較

・<130/70mmHg(151.7/1000人年)→調整ハザード比1.52(95%信頼区間1.34~1.72)P<0.001

・≧130/70mmHg~<135/75mmHg(112.3/1000人年)→調整ハザード比1.30(95%信頼区間1.14~1.48)P<0.001

・≧135/75mmHg~<140/80mmHg(90.3/1000人年)→調整ハザード比1.11(95%信頼区間0.97~1.27)P=0.13

・≧140/80mmHg~<145/85mmHg(85.6/1000人年)→調整ハザード比1.09(95%信頼区間0.95~1.24)P=0.23

・≧150/90mmHg~<155/95mmHg(80.3/1000人年)→調整ハザード比0.97(95%信頼区間0.82~1.14)P=0.70

・≧155/95mmHg(94.0/1000人年)→調整ハザード比1.05(95%信頼区間0.91~1.22)P=0.49

 

【総コレステロール】

※4.5~4.9mmol/L(174.0~189.4mg/dl)(総死亡:87.7/1000人年)との比較

・<3.0mmol/L(116.0mg/dl)(138.7/1000人年)→調整ハザード比1.42(95%信頼区間1.24~1.64)P<0.001

・3.0~3.4mmol/L(116.0~131.4mg/dl)(97.6/1000人年)→調整ハザード比1.15(95%信頼区間1.02~1.29)P=0.02

・3.5~3.9mmol/L(135.3~150.8mg/dl)(89.2/1000人年)→調整ハザード比1.08(95%信頼区間0.96~1.21)P=0.20

・4.0~4.4mmol/dL(154.7~170.1mg/dl)(92.9/1000人年)→調整ハザード比1.16(95%信頼区間1.03~1.30)P=0.01

・5.0~5.4mmol/dL(193.4~208.8mg/dL)(90.6/1000人年)→調整ハザード比1.00(95%信頼区間0.85~1.16)P=0.96

・≧5.5mmol/dL(212.7mg/dL)(91.4/1000人年)→調整ハザード比0.99(95%信頼区間0.86~1.13)P=0.85

 

感想

2型糖尿病の超高齢者では血圧・総コレステロール低値では死亡リスクが高くなり、HbA1cは7.0~7.4%で最も死亡リスクが低いことが示唆されている貴重な報告です。

当然、観察研究であるため例えば全身状態が悪く死亡リスクが高い患者ほどこれらの検査値が低いなどといった因果の逆転や心血管リスクが高い患者はこれらの検査値を低く管理されていたなどの交絡の可能性もあり、交絡因子の調整についても十分ではないため(身体活動等)、この結果をそのまま適応するのは厳しい印象ではありますが、そもそも80歳を超えるような超高齢者では予防的薬剤による延命効果は相対的に低く、過度の治療により死亡リスクが高くなる可能性がある事は十分に考慮すべきであると考えます。

 

以前取り上げたSPRINT試験のサブ解析とは矛盾する結果である点はまた改めて考察する必要があるかもしれませんが、リアルワールドのデータという点では薬剤の中止または追加を考える上で大変参考になる研究です。

 

 

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