【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

2型糖尿病患者は血圧が低い方が良いですか?

「Blood pressure and complications in individuals with type 2 diabetes and no previous cardiovascular disease: national population based cohort study」

BMJ 2016; 354 doi: http://dx.doi.org/10.1136/bmj.i4070 (Published 04 August 2016)Cite this as: BMJ 2016;354:i4070

 

PECO

: 糖尿病罹患期間が1年以上・収縮期血圧≧110mmHg・75歳以下・BMI≧18であり、心血管疾患またはその他の重大な疾患の既往のない2型糖尿病患者(スウェーデン、187106人)

: 収縮期血圧①110~119mmHg ②120~129mmHg ③140~149mmHg ④150~159mmHg ⑤≧160mmHg

: 収縮期血圧130~139mmHg

: 非致死的または全ての急性心筋梗塞・非致死的または全ての脳卒中・非致死的または全ての心血管疾患(急性心筋梗塞・脳卒中)・非致死的または全ての冠動脈疾患・非致死的心不全・総死亡

 

チェック項目

・研究デザイン : 人口ベースのコホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・集団の代表性は? : プライマリケアのデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢・性別・糖尿病罹患期間・糖尿病の治療方法・HbA1c・喫煙歴・LDL-C・HDL-C・TG・微量アルブミン尿・マクロアルブミン尿・BMI・eGFR・チアジド系利尿薬・Ca拮抗薬・スピロノラクトン・β遮断薬・ループ系利尿薬・心疾患治療薬

・平均追跡期間 : 5年間

 

結果

[非致死的な急性心筋梗塞]

①E群(1.7%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比0.76(95%信頼区間0.64~0.91)P=0.003、NNT=91

②E群(2.3%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比0.90(95%信頼区間0.80~1.00)P=0.05、NNT=200

③E群(3.3%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.02(95%信頼区間0.93~1.12)P=0.69

④E群(3.9%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.12(95%信頼区間1.00~1.26)P=0.05、NNH=91

⑤E群(4.7%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.22(95%信頼区間1.10~1.37)P<0.001、NNH=53

 

[全ての心筋梗塞]

①E群(2.3%) vs C群(3.5%)→調整ハザード比0.85(95%信頼区間0.72~0.99)P=0.04、NNT=84

②E群(2.9%) vs C群(3.5%)→調整ハザード比0.93(95%信頼区間0.84~1.03)P=0.16

③E群(4.2%) vs C群(3.5%)→調整ハザード比1.06(95%信頼区間0.97~1.16)P=0.22

④E群(5.0%) vs C群(3.5%)→調整ハザード比1.17(95%信頼区間1.05~1.30)P=0.004、NNH=67

⑤E群(6.1%) vs C群(3.5%)→調整ハザード比1.25(95%信頼区間1.13~1.39)P<0.001、NNH=39

 

[非致死的な脳卒中]

①E群(1.6%) vs C群(2.5%)→調整ハザード比0.84(95%信頼区間0.70~1.02)P=0.07

②E群(1.9%) vs C群(2.5%)→調整ハザード比0.92(95%信頼区間0.82~1.04)P=0.18

③E群(3.1%) vs C群(2.5%)→調整ハザード比1.12(95%信頼区間1.01~1.24)P=0.03、NNH=167

④E群(3.8%) vs C群(2.5%)→調整ハザード比1.31(95%信頼区間1.05~1.30)P<0.001、NNH=77

⑤E群(5.1%) vs C群(2.5%)→調整ハザード比1.54(95%信頼区間1.37~1.72)P<0.001、NNH=39

 

[全ての脳卒中]

①E群(1.7%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比0.85(95%信頼区間0.71~1.03)P=0.09

②E群(2.2%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比0.93(95%信頼区間0.82~1.04)P=0.19

③E群(3.5%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.12(95%信頼区間1.01~1.24)P=0.03、NNH=143

④E群(4.3%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.31(95%信頼区間1.16~1.47)P<0.001、NNH=67

⑤E群(5.9%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.57(95%信頼区間1.41~1.76)P<0.001、NNH=33

 

[非致死的な心血管疾患]

①E群(3.3%) vs C群(5.1%)→調整ハザード比0.82(95%信頼区間0.72~0.93)P=0.002、NNT=56

②E群(4.1%) vs C群(5.1%)→調整ハザード比0.92(95%信頼区間0.84~0.99)P=0.04、NNT=100

③E群(6.1%) vs C群(5.1%)→調整ハザード比1.08(95%信頼区間1.00~1.16)P=0.05、NNH=100

④E群(7.3%) vs C群(5.1%)→調整ハザード比1.22(95%信頼区間1.12~1.33)P<0.001、NNH=46

⑤E群(9.2%) vs C群(5.1%)→調整ハザード比1.37(95%信頼区間1.27~1.49)P<0.001、NNH=25

 

[全ての心血管疾患]

①E群(4.4%) vs C群(6.4%)→調整ハザード比0.88(95%信頼区間0.79~0.99)P=0.04、NNT=50

②E群(5.2%) vs C群(6.4%)→調整ハザード比0.95(95%信頼区間0.88~1.02)P=0.18

③E群(7.8%) vs C群(6.4%)→調整ハザード比1.11(95%信頼区間1.04~1.19)P=0.002、NNH=72

④E群(9.5%) vs C群(6.4%)→調整ハザード比1.25(95%信頼区間1.16~1.36)P<0.001、NNH=33

⑤E群(12.2%) vs C群(6.4%)→調整ハザード比1.41(95%信頼区間1.30~1.52)P<0.001、NNH=18

 

[非致死的な冠動脈疾患]

①E群(4.3%) vs C群(6.2%)→調整ハザード比0.88(95%信頼区間0.78~0.99)P=0.03、NNT=53

②E群(5.4%) vs C群(6.2%)→調整ハザード比0.98(95%信頼0.91~1.05)P=0.56

③E群(7.2%) vs C群(6.2%)→調整ハザード比1.06(95%信頼区間0.99~1.13)P=0.09

④E群(8.0%) vs C群(6.2%)→調整ハザード比1.13(95%信頼区間1.04~1.22)P=0.004、NNH=56

⑤E群(9.2%) vs C群(6.2%)→調整ハザード比1.19(95%信頼区間1.10~1.29)P<0.001、NNH=34

 

[全ての冠動脈疾患]

①E群(5.3%) vs C群(7.2%)→調整ハザード比0.92(95%信頼区間0.83~1.03)P=0.16

②E群(6.3%) vs C群(7.2%)→調整ハザード比1.00(95%信頼区間0.93~1.08)P=0.93

③E群(8.6%) vs C群(7.2%)→調整ハザード比1.09(95%信頼区間1.03~1.17)P=0.006、NNH=72

④E群(9.8%) vs C群(7.2%)→調整ハザード比1.17(95%信頼区間1.09~1.27)P<0.001、NNH=39

⑤E群(11.5%) vs C群(7.2%)→調整ハザード比1.23(95%信頼区間1.14~1.32)P<0.001、NNH=24

 

[心不全]

①E群(2.3%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.20(95%信頼区間1.01~1.42)P=0.04、NNH=?

②E群(2.4%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.02(95%信頼区間0.91~1.15)P=0.17

③E群(3.6%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.09(95%信頼区間0.98~1.20)P=0.11

④E群(4.6%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.27(95%信頼区間1.13~1.43)P<0.001、NNH=56

⑤E群(5.8%) vs C群(2.8%)→調整ハザード比1.40(95%信頼区間1.25~1.56)P<0.001、NNH=34

 

[総死亡]

①E群(5.3%) vs C群(5.6%)→調整ハザード比1.28(95%信頼区間1.15~1.42)P<0.001、NNH=?

②E群(5.0%) vs C群(5.6%)→調整ハザード比1.05(95%信頼区間0.97~1.13)P=0.22

③E群(6.7%) vs C群(5.6%)→調整ハザード比1.05(95%信頼区間0.98~1.12)P=0.15

④E群(7.8%) vs C群(5.6%)→調整ハザード比1.16(95%信頼区間1.06~1.26)P<0.001、NNH=46

⑤E群(9.9%) vs C群(5.6%)→調整ハザード比1.29(95%信頼区間1.19~1.39)P<0.001、NNH=24

 

 感想

収縮期血圧110~119mmHgの群では130mmHg~139mmHgの群と比較して心血管疾患・冠動脈疾患のリスク低下との関連が見られるものの、総死亡についてはリスクが増加することが示唆されておりちょっと衝撃的な結果でした。

110~119mmHg群では感染症で死亡した割合が多かったと本文には書かれておりますが、降圧治療との因果関係についてはこの結果のみではわかりません。

ただやはり、血圧の下げすぎには注意が必要かもしれません

 

私個人としては以前読んだメタ分析(関連記事)を踏まえて考えると、2型糖尿病患者では概ね収縮期血圧140mmHg未満を目標とするのが妥当なところかなと思いますがこのコホート研究では心血管疾患・冠動脈疾患のリスクがそれほど高くないと思われる患者が対象となっているためリスクの高い患者にそのまま適用は出来ない点に注意すべきかと思います。

 

関連記事