【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

多剤併用は抗凝固薬に影響を与えますか?

「Polypharmacy and effects of apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation: post hoc analysis of the ARISTOTLE trial.」

PMID: 27306620
 
P : 心房細動または粗動を有し、脳卒中の危険因子のうち一つ以上に該当し、アピキサバンまたはワルファリンが投与されている患者(18201人)
E : 併用薬が6~8剤(6502人)または9剤以上(4756人)
C : 併用薬が0~5剤(6943人)
O : 有効性→脳卒中または全身性塞栓症の複合エンドポイント、安全性→大出血
 
※脳卒中の危険因子→75歳以上・脳卒中又は一過性脳虚血発作・全身性塞栓症の既往・3ヵ月以内の症候性心不全・EF40%未満・糖尿病・薬物治療を要する高血圧
 
 
タイトルにある通りARISTOTLE試験のpost hoc解析です。
 

 ARISTOTLE試験


 
この解析では国・年齢・性別について調整が行われているようです。
では早速結果を見てみましょう。
 
〇有効性
[脳卒中・全身性塞栓症]
・6~8剤
E群(1.48/100人・年) vs C群(1.29/100人・年)→調整ハザード比1.270(95%信頼区間1.022~1.577)、NNH=527人/年
・9剤以上
E群(1.57/100人・年) vs C群(1.29/100人・年)→調整ハザード比1.539(95%信頼区間1.190~1.991)、NNH=358人/年
 
※二次アウトカム
[総死亡]
・6~8剤
E群(3.80/100人・年) vs C群(3.01/100人・年)→調整ハザード比1.409(95%信頼区間1.229~1.616)、NNH=127人/年
・9剤以上
E群(4.70/100人・年) vs C群(3.01/100人・年)→調整ハザード比2.031(95%信頼区間1.735~2.377)、NNH=60人/年
 
〇安全性
[大出血]
・6~8剤
E群(2.49/100人・年) vs C群(1.91/100人・年)→調整ハザード比1.243(95%信頼区間1.036~1.491)、NNH=173人/年
・9剤以上
E群(3.88/100人・年) vs C群(1.91/100人・年)→調整ハザード比1.721(95%信頼区間1.414~2.095)、NNH=51人/年
 
※最終的なベネフィット
[脳卒中・全身性塞栓症・総死亡・大出血]
・6~8剤
E群(6.59/100人・年) vs C群(5.24/100人・年)→調整ハザード比1.320(95%信頼区間1.187~1.468)、NNH=74人/年
・9剤以上
E群(8.92/100人・年) vs C群(5.24/100人・年)→調整ハザード比1.838(95%信頼区間1.631~2.071)、NNH=33人/年
 
 
あくまでもpost hoc解析であり、やはり亡くなるリスクの高い患者の方がより多くの薬剤を処方されているというような可能性はありますが、抗凝固薬が投与されている患者では併用薬が多いほど脳卒中・全身性塞栓症・総死亡・大出血のリスクが増加することが示唆されています。
 
薬物相互作用により注意が必要なワルファリンで考えれば当たり前と言えば当たり前と思えるような結果ですが、アピキサバンとワルファリンの比較についても記載されていたので以下に。
 
※E群→アピキサバン、C群→ワルファリン
[脳卒中・全身性塞栓症]
・0~5剤
E群(1.19%)  vs C群(1.39%)→ハザード比0.86(95%信頼区間0.63~1.17)
・6~8剤
E群(1.29%) vs C群(1.69%)→ハザード比0.76(95%信頼区間0.57~1.03)
・9剤以上
E群(1.35%) vs C群(1.79%)→ハザード比0.76(95%信頼区間0.54~1.07)
 
[総死亡]
・0~5剤
E群(2.78%) vs C群(3.24%)→ハザード比0.86(95%信頼区間0.70~1.05)
・6~8剤
E群(3.57%) vs C群(4.04%)→ハザード比0.89(95%信頼区間0.74~1.06)
・9剤以上
E群(4.55%) vs C群(4.85%)→ハザード比0.94(95%信頼区間0.77~1.14)
 
[大出血]
・0~5%
E群(1.27%) vs C群(2.55%)→ハザード比0.50(95%信頼区間0.38~0.66)、ワルファリンのNNH=79人
・6~8剤
E群(2.06%) vs C群(2.88%)→ハザード比0.72(95%信頼区間0.56~0.91)、ワルファリンのNNH=122人
・9剤以上
E群(3.55%) vs C群(4.21%)→ハザード比0.84(95%信頼区間0.67~1.06)
 
 
これのみでは明確な事は言えませんが、アピキサバンとワルファリンではあまり大きな差はなく、NOACでも多剤併用の患者では注意すべきであるという事が示唆されているのではないかと考えます。
この研究の妥当性については疑問が残りますが、アピキサバンはワルファリンと比較して著明に良いという印象ではない点は興味深いところです。