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【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

「どうにか薬を減らせませんか?」

実践編 脂質異常症・脂質降下薬 高尿酸血症・痛風

今回は要望があったためいつもとは趣向を変えて、試験的に論文情報をどのように活用したのかについて実際の事例を基に書いてみたいと思います。

尚、個人情報に配慮して情報を一部改変させていただきますのでご了承下さい。
 
 
[プロローグ]
つい先日、いつも来局される患者さんのご家族の方が処方箋なしで薬局へ来られたため何事かと思い話を聞いてみたところ、「本人が薬を何種類も飲んでいることに強い不安を抱えています。それから、薬代も高く感じるので前に受診した時に薬を減らしてほしいと医師に伝えたけど、医師からは減らせるものはないと言われました。何とかならないものなんでしょうか?」というような悩みを話された。
薬歴を確認してみたところいくつか中止できそうな薬があったため、ご家族の方にはその旨を医師に提案する事を約束してお帰りいただいた。
 
[処方内容]
ミカルディス錠20mg 1錠
アムロジピンOD錠5mg 1錠
アロプリノール錠100mg 1錠
クレストール錠2.5mg 1錠
ジャヌビア錠50mg 1錠
   1日1回 朝食後
 
ネキシウムカプセル10mg 1カプセル
テトラトミド錠10mg 1錠
   1日1回 夕食後
 
ルネスタ錠1mg 1錠
   1日1回 就寝前
 
[患者情報]
男性・87歳・他科受診なし・併用薬なし・逆流性食道炎の症状なし・肥満なし・外出する事はほぼない
 
[既往歴]
前立腺癌(70歳代)
 
[検査データ]
血圧:140/90mmHg前後で推移、尿酸値:6.3mg/dl、LDLコレステロール:98mg/dl、HbA1c:6.8%
 
 
ここまでで、スタチンが一次予防で使用されている点と痛風発作や尿酸結石が今まで起きたことがない無症候性の高尿酸血症である点について焦点を当てて調べていくことにした。
 
 
[論文]
〇スタチン
「Statins for Primary Prevention of Cardiovascular Disease in Elderly Patients: Systematic Review and Meta-Analysis.」
PMID: 26245770
→システマティックレビュー&メタ解析。65歳以上の患者では一次予防においてスタチンの使用により心血管イベント又は非致死性心筋梗塞のリスクを減少させるが、死亡については差が見られていない。
 
「Benefits of statins in elderly subjects without established cardiovascular disease: a meta-analysis.」
PMID: 23954343
→メタ解析。平均年齢73歳の対象患者へのスタチンの一次予防において心筋梗塞・脳卒中のリスクを減少させるが、総死亡・心血管死亡については差が見られていない。また心筋梗塞・脳卒中に対するNNTは3.5年間でそれぞれ84人・143人程度であり、対象患者よりも高齢である当患者ではリスク減少の効果は相対的に低くなると思われる。
 
「[Benefits and risks for primary prevention with statins in the elderly].」
PMID: 26585744
→メタ解析。75歳以上の高齢者では心血管死亡の減少が見られるものの、総死亡の減少は見られず高齢者におけるスタチンの一次予防効果は確立されていない。
 
「Primary prevention with lipid lowering drugs and long term risk of vascular events in older people: population based cohort study.」
PMID: 25989805
→コホート研究。平均年齢73.9歳の患者では平均追跡期間9.1年間における一次予防に対するスタチンの使用は冠動脈疾患・脳卒中に対する明確な差は見られていない。
 
 
〇アロプリノール
「Asymptomatic hyperuricemia. Risks and consequences in the Normative Aging Study.」
PMID: 3826098
→コホート研究。痛風の発症は尿酸値7.0mg/dl以下で0.1%、7.0~8.9mg/dlで0.5%、9.0mg/dlで4.9%。高尿酸血症でも痛風を発症するのは少数。
 
「Allopurinol for chronic gout.」
PMID: 25314636
→コクランレビュー。無症候性の高尿酸血症患者が対象ではないが参考までに。慢性の痛風患者において痛風発作に対するアロプリノールの効果はプラセボと差が見られていない
 
「Allopurinol therapy in gout patients does not associate with beneficial cardiovascular outcomes:a population-based matched-cohort study.」
PMID: 24897240
→コホート研究。40歳以上の痛風患者においてアロプリノールの使用により心血管疾患リスクが上昇する事が示唆されている。ただし、尿酸値が高くより心血管疾患を発症しやすい患者の方がアロプリノールが処方されやすい等の交絡の可能性も考えられるため結果の解釈には注意が必要だが、少なくとも痛風や高尿酸血症による心血管疾患リスクの上昇に対してアロプリノールが効果があるかどうかは不明。
 
「Effect of allopurinol on all-cause mortality in adults with incident gout: propensity score-matched landmark analysis.」
PMID: 26170376
→コホート研究。痛風を発症したことのある患者において、アロプリノール使用者・非使用者では死亡に差が見られていない。
 
「Allopurinol initiation and all-cause mortality in the general population.」
PMID: 24665118
→平均年齢67.5歳の高尿酸血症患者では平均追跡期間2.9年間におけるアロプリノール使用による総死亡の減少が示唆されている。NNTは87人。ベースライン時の血清尿酸値がだいたい8.7mg/dlであるため当患者にはそのまま適用できない可能性がある。
 
[結論]
高齢者に対する一次予防でのスタチンの使用は死亡についてその効果は不明であり心筋梗塞や脳卒中を減らす可能性はあるものの、当患者ではあまり効果が期待できないかもしれない。
アロプリノールについては、痛風発作の予防という点ではそもそも無症候性の高尿酸血症患者に対してアロプリノールを使用する事自体が推奨されるものではなく、わずかな死亡の先送り効果が示唆されている研究もあるものの、当患者において長期投与によるベネフィットがリスクを上回るかどうかは疑問。
以上を踏まえるとこの2剤の中止を考慮する余地は十分にある。
 
[行動]
あまり接点のないクリニックだったが電話でアポイントメントが取れたため、患者さんの訴えと論文の概要及び考察をまとめて文書を作成し、論文を印刷したものも添付して医師の元へ持っていき口頭で概要を説明した後、2剤の中止を検討していただくよう話し文書を手渡した。
 
[結果]
医師から2剤を中止する方向で検討してみるとの返事をいただいたが実際に中止されるかどうか判明するのはまた後日、患者さんが来局された時。
 
[感想]
・まずはもっと早く患者さんの気持ちを汲み取ってあげられなかったか反省。
・今回2剤の中止について提案したが、情報量が多くなってしまうためやはり優先順位を決めて分けて提案した方が良かったかもしれない。
・今後も継続して、例えばジャヌビア・ネキシウム等についても中止又は薬価が低いものへの変更を考慮していく必要がある。
・実際に薬が中止された場合、今まで処方されていた事は妥当であり、今回中止された事もまた妥当であるという事を患者さんに上手く伝えなければならない。
・こうして記事にまとめてみると薬を中止する事を前提に、論文を自分の都合の良いように解釈してしまっている可能性があるため今後十分に注意しなければならない。
 
 
といったところで皆様思うところはあると思いますが、今回はこの辺で以上にしたいと思います。実は「ソクラテス先生の記事みたいなの書いて」と言われたんですが、ちょっと私には無理っぽいです!