【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

終末期患者ではスタチンを中止しても良いですか?

 

「Safety and benefit of discontinuing statin therapy in the setting of advanced, life-limiting illness: a randomized clinical trial.」

PMID: 25798575 
 

PECO

P : 心血管疾患の一次予防又は二次予防のためにスタチンを服用しており、一年後には亡くなる可能性が高いが余命が一ヶ月以上ある18歳以上の患者(381人)
E : スタチンの中止(189人)
C : スタチンの継続(192人)
O : 60日以内の死亡
 
※除外基準→活動性の心血管疾患を有しスタチンの継続が必要な患者・筋炎症状・肝機能テスト又はクレアチニンキナーゼが正常値ではない・スタチンが禁忌
 

チェック項目

・研究デザイン : ランダム化比較試験(非劣性試験)
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確(症例数が少ないため一次アウトカムが変更されている)
・ランダム化が行われているか? : ブロックランダム化が行われている
・盲検化が行われてるか? : 非盲検である
・ITT解析が行われているか? : 行われている
・追跡率 : 97.4%
・サンプルサイズ : 360例
・患者背景 : ほぼ同等、平均年齢74.1歳・男性51%・心血管疾患の既往あり58.0%
・追跡期間中央値 : 18週
 

結果

・60日以内の死亡(非劣性マージンは90%信頼区間の上限5%) : E群(23.8%) vs C群(20.3%)→群間差の90%信頼区間−3.5%~10.5%、P=0.36、NNH=29人
 
※二次アウトカム
・死亡までの期間 : E群(229日) vs C群(190日) P=0.6
・QOL(McGill QOLスコア) : E群(7.11) vs C群(6.85) P=0.04
・身体症状(筋肉痛や頭痛等) : E群(25.2%) vs C群(27.4%) P=0.13
・薬剤数 : E群(10.1) vs C群(10.8) P=0.03
・満足度 : E群(4.63) vs C群(4.55) P=0.22
 

感想

終末期患者におけるスタチンの中止は60日以内の死亡において有意な差は見られず、二次アウトカムではありますがQOLを改善させる事が示唆され、死亡までの期間も長い傾向にあります。
 
ただし非劣性試験でありながら差が出づらいITT解析が行われており、更に、差が出づらい90%信頼区間において非劣性が示されていない点には注意が必要なように思います。
また、NNHを見ると影響はそれほど小さくはなく、この結果のみでスタチン中止を提案するのはやや難しいような印象です。
 
 
とは言え少なくとも高齢者の一次予防における総死亡については明確な差は不明であり(PMID: 26245770 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26245770 )、そもそものスタチンによる一次予防及び二次予防における延命効果はかなり小さい可能性も示唆されているため(PMID: 26408281 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26408281 )、やはり余命が限られた高齢の患者ではそのベネフィットは大きくはないように思います。
 
一次予防なのか二次予防なのか、心血管疾患のリスクは一体どれくらいなのかを考えるのは当たり前ですが、患者の主観も含めて何処で線を引くのかなかなか難しく現状では明確な答えは出ないのが正直なところですが、だからこそエビデンスを追っていくという事が重要だなと痛感しました。もっと論文読まなきゃ。