【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

軽度認知障害にコリンエステラーゼ阻害薬は効果がありますか?

「Treatment for mild cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis.」
PMID: 26770964

PECO

P : 軽度認知障害と診断された65歳以上の地域在住高齢者に対して
E : 薬物療法及び非薬物療法は
C : 治療なしと比較して
O : MMSE又はADAS-cogによる評価に差があるか?

チェック項目

・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 代用のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・評価者バイアス : 「Full-text screening was completed independently by 2 team members」の記載あり
・出版バイアス : 「there were insufficient studies reporting outcomes of interest to assess publication bias」と記載されている
・元論文バイアス : Table 2を見る限りではあまり質の高いみにではない印象
・異質性バイアス : ブロボグラムは視覚的に一致している

結果

[ChE阻害薬]
・ADAS-cog→平均差−0.33(95%信頼区間−0.73~0.06)I2=14%
・MMSE→平均差0.17(95%信頼区間−0.13~0.47)I2=0%
・有害事象→リスク比0.98(95%信頼区間0.86~1.10)

[非薬物療法]
・ADAS-cog→平均差-0.6000(95%信頼区間-1.4421~0.2421)
・MMSE→平均差1.0072(95%症状0.2475~1.7668)I2=76%

[サプリメント/ビタミン]
・ADAS-cog→平均差0.8500(95%信頼区間-0.3161~2.0161)
・MMSE→平均差0.1959(95%信頼区間-0.0403~0.4321)I2=0%

感想

コリンエステラーゼ阻害薬による軽度認知障害患者への認知機能改善の効果は見られず、唯一非薬物療法でのMMSEの差のみ有意差が見られるもののその差は非常に小さく、意義のあるものとは感じない印象です。

ちなみに同じ時期に発表されている他のメタ解析でも軽度認知障害に対する薬物療法は効果が見られず、運動療法でわずかに認知機能の改善が見られるという報告もありました。(Am J Geriatr Psychiatry. 2015 Dec;23(12):1234-49. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26601726 )



よく「軽度認知障害の段階で認知症への進行を早期に予防する事が重要」というような事も言われますが、現時点では有効な予防方法については明確ではないというのが現状ではないかと思います。

認知症への進行に対する予防が明確ではなく、そもそも認知症へ進行する割合もそれほど多くはないかもしれない(Acta Psychiatr Scand. 2009 Apr;119(4):252-65. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19236314 )ものに対して早期発見・早期治療することがどれほど意義のあるものなのか個人的にはかなり疑問に思うところです。