【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

心房細動患者は血圧が低ければ低いほど良いですか?

高血圧は心房細動のリスク因子と言われていますが、では心房細動患者では血圧をどのくらいで管理するべきなのか調べてみたいと思います。

 
 
 
①「Effect of hypertension on anticoagulated patients with atrial fibrillation.
PMID: 17289744
 
[PECO]
P : 18歳以上で持続性又は発作性の心房細動があり、脳卒中のリスク因子である高血圧・75歳以上・脳卒中の既往・一過性脳虚血発作の既往・全身性塞栓性イベントの既往・左室機能障害(左駆出率<40%又はうっ血性心不全)・65歳以上であり冠動脈疾患の既往あり・65歳以上であり糖尿病のうち1つ以上に該当する患者
E・C : 収縮期血圧の平均をQ1(84.0~122.6mmHg)・Q2(122.7~131.3mmHg)・Q3(131.4~140.7mmHg)・Q4(140.8-191.7mmHg)で比較
O : 脳卒中/全身塞栓症・死亡・大出血
 
この論文はSPORTIF Ⅲ試験及びSPORTIF Ⅴ試験の高血圧に関する統合解析で、追跡期間中央値は18.6ヶ月であり結果は以下に。
 
[結果]
①Q2 vs Q1
・脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比0.98(95%信頼区間0.61~1.55)P=0.92
・死亡→ハザード比0.46(95%信頼区間0.34~0.61)P=0.0001
・大出血→ハザード比0.83(95%信頼区間0.57~1.20)P=0.32
 
②Q3 vs Q1
・脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比1.25(95%信頼区間0.80~1.93)P=0.32
・死亡→ハザード比0.59(95%信頼区間0.45~0.76)P=0.0001
・大出血→ハザード比0.84(95%信頼区間0.58~1.22)P=0.37
 
③Q4 vs Q1
・脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比1.83(95%信頼区間1.22~2.74)P=0.003
・死亡→ハザード比0.64(95%信頼区間0.49~0.83)P=0.0007
・大出血→ハザード比0.91(95%信頼区間0.63~1.32)P=0.63
 
④Q3 vs Q2
・脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比1.28(95%信頼区間0.83~1.97)P=0.27
・死亡→ハザード比1.29(95%信頼区間0.94~1.77)P=0.11
・大出血→ハザード比1.01(95%信頼区間0.69~1.49)P=0.95
 
⑤Q4 vs Q2
・脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比1.85(95%信頼区間1.23~2.78)P=0.0030
・死亡→ハザード比1.41(95%信頼区間1.03~1.92)P=0.032
・大出血→ハザード比1.10(95%心筋梗塞0.75~1.61)P=0.63
 
⑥Q4 vs Q3
・脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比1.45(95%信頼区間1.00~2.12)P=0.051
・死亡→ハザード比1.10(95%信頼区間0.82~1.47)P=0.54
・大出血→ハザード比1.07(95%信頼区間0.73~1.56)P=0.74
 
[コメント]
収縮期血圧が概ね140mmHg以上で脳卒中/全身性塞栓症及び死亡リスクの増加が見られている。
Q1では全ての群と比較して死亡リスクの増加が見られているため血圧の下げ過ぎにも注意が必要かもしれない。
 
 
 
②「Systolic blood pressure and mortality in patients with atrial fibrillation and heart failure: insights from the AFFIRM and AF-CHF studies.」
PMID: 25296634
 
[PECO]
P : 心房細動がありその他に脳卒中・死亡のリスク因子を有する65歳以上の患者又は心房細動及び心不全を有する患者
E : 収縮期血圧が<120mmHg又は>140mmHg
C : 120~140mmHg
O : 総死亡
 
こちらはAFFIRM試験(平均追跡期間42ヶ月)とAF-CHF(平均追跡期間37ヶ月)を統合したpost-hoc解析です。
 
[結果]
・LVEF≦40%
①<120mmHg vs 120~140mmHg→ハザード比1.75(95%信頼区間1.41~2.17)
②>140mmHg vs 120~140mmHg→ハザード比1.40(95%信頼区間1.04~1.90)
 
※LVEF>40%では有意な差は見られていない
 
[コメント]
心不全を有する心房細動患者では収縮期血圧が<120mmHg及び>140mmHgで死亡リスクの増加が示唆されているが、心不全のない患者については不明。
 
 
 
③「Blood Pressure Control and Risk of Stroke or Systemic Embolism in Patients With Atrial Fibrillation: Results From the Apixaban for Reduction in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation (ARISTOTLE) Trial.」
PMID: 26627878
 
[PECO]
P : 心房細動又は粗動があり、脳卒中のリスク因子である75歳以上・脳卒中の既往・一過性脳虚血発作の既往・全身性塞栓症の既往・左室駆出率<40%・糖尿病のうち1つ以上に該当する患者
E : 治療が必要な高血圧(収縮期血圧≧140mmHgかつ/又は拡張期血圧≧90mmHg)あり
C : 治療が必要な高血圧なし
O : 脳卒中又は全身性塞栓症・大出血
 
こちらはARISTOTLE試験のサブ解析です。
 
[結果]
・脳卒中又は全身性塞栓症→ハザード比1.53(95%信頼区間1.25~1.86)
・大出血→ハザード比1.12(95%信頼区間0.95~1.33)
 
※二次アウトカム
・総死亡→ハザード比0.99(95%信頼区間0.86~1.14)
・心血管死亡→ハザード比1.06(95%信頼区間0.88~1.28)
・心筋梗塞→ハザード比1.38(95%信頼区間0.99~1.92)
・大出血又は臨床的に関連する非大出血→ハザード比1.14(95%信頼区間1.01~1.28)
・全ての出血→ハザード比1.11(95%信頼区間1.04~1.18)
 
[コメント]
収縮期血圧≧140mmHg・拡張期血圧≧90mmHgで脳卒中又は全身性塞栓症のリスク増加が示唆されていますが、二次アウトカムである死亡については有意な差は見られていません。
 
 

感想

今回は3つの論文を読んでみましたが、どれもランダム化比較試験のサブ解析又はpost-hoc解析であったため心房細動患者の血圧管理と死亡や脳卒中等のアウトカムとの関連はあまり明確ではないのかなという印象です。
また、心房細動以外にも脳卒中・死亡リスクが高い患者が対象である点には注意が必要です。
 
ひとまずは、高血圧を有する患者では140/90mmHgを目標に降圧治療を行うのが妥当であると思いますが、因果関係は不明なものの死亡リスクの増加が示唆されているため収縮期血圧を120mmHg以下にするような治療は行うべきではないのではないかと思います。