【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

トランス脂肪酸は危険ですか?

「Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies」

BMJ 2015;351:h3978
 
・研究デザイン : コホート研究・ケースコントロール研究のメタ解析
 

PECO

P : 米国・英国・日本・スウェーデン・イスラエル・フィンランド・デンマーク・カナダ・中国・ギリシャ・オーストラリアの339090人
E : 飽和脂肪酸の摂取が多い
C : 飽和脂肪酸の摂取が少ない
O : 総死亡・冠動脈疾患及び心血管疾患による死亡・冠動脈疾患の発症・虚血性脳卒中・2型糖尿病の発症
 
P : 米国・フィンランド・中国・オランダの230135人
E : トランス脂肪酸の摂取量が多い
C : トランス脂肪酸の摂取量が少ない
O : 総死亡・冠動脈疾患及び心血管疾患による死亡・冠動脈疾患の発症・虚血性脳卒中・2型糖尿病の発症
 

チェック項目

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
 
・一次アウトカムは明確か? : 複数設定されている
 
・評価者バイアス : 「Two reviewers independently extracted data and assessed study risks of bias.」の記載あり。
 
・出版バイアス :  「If ≥10 studies were available,we explored the possibility of publication bias by inspecting funnel plots and conducting Egger’s and Begg’s tests (each significant at P<0.10)」の記載あり。また、「There were no language restrictions.」と記載されている。
 
・元論文バイアス : 観察研究のメタ解析、Newcastle-Ottawa scaleを用いて検討されている。(概ね点数は高めの印象)
 
・異質性バイアス : 異質性検定が行われている
 

結果

①飽和脂肪酸
・総死亡→相対リスク0.99(95%信頼区間0.91~1.09)P=0.91 異質性:P=0.17、I2=33%
 
・冠動脈疾患死亡→相対リスク1.15(95%信頼区間0.97~1.36)P=0.10  異質性:P<0.001、I2=70%
 
・心血管疾患死亡→相対リスク0.97(95%信頼区間0.84~1.12)P=0.69  異質性:P=0.29、I2=19%
 
・冠動脈疾患→相対リスク1.06(95%信頼区間0.95~1.17)P=0.29  異質性:P=0.02、I2=47%
 
・虚血性脳卒中→相対リスク1.02(95%信頼区間0.90~1.15)P=0.79  異質性:P=0.002、I2=59%
 
・2型糖尿病→相対リスク0.95(95%信頼区間0.88~1.03)P=0.20  異質性:P=0.61、I2=0%
 
②トランス脂肪酸
・総死亡→相対リスク1.34(95%信頼区間1.16~1.56)P<0.001  異質性I2=70%、P=0.07 
 
・冠動脈疾患死亡→相対リスク1.28(95%信頼区間1.09~1.50)P=0.003  異質性:I2=0%、P=0.66
 
・冠動脈疾患→相対リスク1.21(95%信頼区間1.10~1.33)P<0.001  異質性:I2=0%、P=0.43
 
・虚血性脳卒中→相対リスク1.07(95%信頼区間0.88~1.28)P=0.50  異質性:I2=67%、P=0.03
 
・2型糖尿病→相対リスク1.10(95%信頼区間0.95~1.27)P=0.21  異質性:I2=66%、P=0.01
 

感想

観察研究のメタ解析であるため交絡の可能性があり、またアウトカムが複数設定されており、異質性が高いものもあるため注意が必要ですが、トランス脂肪酸の摂取量が多いと死亡リスク・冠動脈疾患リスクが高くなることが示唆されています。
 
ただ、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は2012年に公表された食品安全委員会の推計では平均0.7g/日(エネルギー比0.3%)と欧米諸国等と比べれば非常に少なく(例えば米国では5.6g/日とか)、解析に含まれている観察研究の比較群よりも少ないか同じくらいの摂取量のようなので、多量に摂取している心当たりがなければ慌てて止める・止めさせるというような必要はないのかなと思います。