【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

肺炎患者にステロイド投与は有効ですか?〜case2

ありがたい事にまた臨床疑問を頂いたので、今回はその疑問に関連した論文をいくつか読んで考えていきたいと思います。
頂いた疑問は「肺炎患者に全身性ステロイドの投与を行うと早く良くなったり死亡が減らせたりしますか?」というものだったのでまずは疑問の定式化を、

P : 肺炎患者に
E : 全身性ステロイドを投与すると
C : 投与しない場合と比べて
O : 早く良くなるか?死亡リスクが減らせるか?

といった感じで、関連するような論文をPubmedのClinical Queriesで検索して読んでみたいと思います。

①「Dexamethasone and length of hospital stay in patients with community-acquired pneumonia: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.」

PMID: 21636122

P : 2つの教育病院で市中肺炎と診断され抗生物質が投与されている18歳以上の患者304人(オランダ)
E : デキサメタゾン5mg/日を4日間投与
C : プラセボを4日間投与
O : 入院から退院又は死亡するまでの期間

※除外基準→先天性又は急性の免疫不全・経口ステロイドを服用している・6週間以内に免疫抑制剤による治療を受けている・血液性腫瘍疾患を有している・ICU入院

  • チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化が行われているか? : 行われている
・盲検化が行われているか? : 二重盲検がおこなわれている
・解析方法 : 特に記載はないが、Figure 1を見るとITT解析が行われていると思われる
・追跡率 : 100%
・治療期間 : 4日間
・サンプルサイズ : 各群150人(パワー80%)
・患者背景 : デキサメタゾン群の方が肺炎の重症度が高い割合が多めの印象。年齢の平均はデキサメタゾン投与群64.5歳、プラセボ群62.8歳。

  • 結果
入院期間の中央値はデキサメタゾン群6.5日(IQR5.0–9.0)・プラセボ群7.5日(IQR5.3–11.5) 、95%信頼区間0-2日、P=0.048
退院の調整ハザード比は1.46(95%信頼区間1.13–1.89)でデキサメタゾン投与群の方が早期の退院が有意に高かった。

入院中の死亡に関しては有意な差はみられなかった。

死亡リスクに差はないものの退院までの期間は1日短く出来るかもしれないという結果。ただし、有害事象としてはデキサメタゾン群の23%で高血糖がみられた。


②「Adjunct prednisone therapy for patients with community-acquired pneumonia: a multicentre, double-blind, randomised, placebo-controlled trial」

PMID: 25608756

P : 市中肺炎の発症から24時間以内に入院した18歳以上の患者785人(スイス)
E : プレドニゾン(プレドニゾロンじゃない!)50mg/日を7日間投与(392人)
C : プラセボを7日間投与(393人)
O : バイタルサインが24時間以上安定し、臨床的な安定が得られるまでに要する時間

※バイタルサインの安定→熱が37.8℃以下・心拍数100回/分以下・呼吸数24回/分以下・収縮期血圧90mmHg以上・精神状態が市中肺炎発症以前に戻る・経口摂取可能・室内の空気で酸素が十分

※除外基準→積極的な静脈注射薬使用・急性の熱傷・過去3ヶ月における消化管出血・副腎機能不全・プレドニゾン1日0.5mg/kg以上を必要とする状態・妊娠・授乳・重度の免疫不全

  • チェック項目
・研究デザイン : ランダム化比較試験
・真のアウトカムか? : 真のアウトカムだと考えられる
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・ランダム化が行われているか? : 行われている
・盲検化が行われているか? : 三重盲検が行われている
・解析方法 : ITT解析
・追跡率 : 100%
・治療期間 : 7日間
・サンプルサイズ : 800人(パワー85%)
・患者背景 : 年齢の中央値74歳、男性62%、気になるような偏りは見られない

  • 結果
・臨床的に安定するまでの時間
プレドニゾン群3.0日(四分位範囲2.5–3.4) vs プラセボ群4.4日 (四分位範囲4.0–5.0)→ハザード比1.33(95%信頼区間1.15-1.50)、P<0.0001

こちらでは臨床的な安定が得られるまでの時間を1.4日短く出来るかもしれないという結果になっています。


主要評価項目ではありませんが、退院までの時間はプレドニゾン群6.0(6.0-7.0)・プラセボ群7.0(7.0-8.0)と退院までの時間が1日短くなることが示唆されています(ハザード比1·19、95%信頼区間1.04-1.38、P=0.012)。

ただやはりプレドニゾン群では高血糖が有意に多く発生しているようです(オッズ比1.96、95%信頼区間1.31-2.93、 P=0.0010)。

死亡に関しては有意な差が見られませんでした。


③「Effect of corticosteroids on treatment failure among hospitalized patients with severe community-acquired pneumonia and high inflammatory response: a randomized clinical trial.」

PMID: 25688779

P : 高い炎症反応を示す重度の市中肺炎患者
E : メチルプレドニゾロン0.5mg/kgを12時間で静注。5日間。61人。
C : プラセボを5日間投与。59人。
O : 治療の失敗(早期→ショックへの進展・侵襲的な人工呼吸器による管理・72時間以内の死亡、後期→画像所見の悪化・呼吸不全の持続・ショックへ進展・侵襲的な人工呼吸器による管理・72~120時間の治療)

こちらは抄録しか読めませんが、二重盲検が行われているランダム化比較試験のようです。

  • 結果
・治療の失敗
メチルプレドニゾロン群(13%) vs プラセボ群(31%)→差18%(95%信頼区間3%-32%)・オッズ比0.34(95%信頼区間0.14-0.87)、P =0.02

重度の市中肺炎で治療の失敗を有意に減少させているが、複合アウトカムなので各要素も見てみたいところですね。

主要評価項目ではありませんが、院内の死亡と高血糖では有意差はみられませんでした。


感想

ここで力が尽きてしまったので、今回はとりあえずここまでとしておきます。

3つの論文を読んだ限りでは、市中肺炎に対する全身性ステロイドの投与は死亡の減少は見られませんでしたが、、退院までの時間やバイタルの安定等早く良くなるという点に関しては、予後に良い影響を与えるかもしれないと感じました。ただやはり高血糖のリスクは見逃せず、特に糖尿病患者の場合等はリスクの方が大きい場合もあるかもしれません

また、全て海外での試験なので日本とは感染症の土壌が異なるためそのまま日本にも当てはまるかは少し疑問が残ります。


疑問の「P」では肺炎という情報だけでしたが、実際の仕事では目の前の患者さんと論文の「P」との違いを考えて行くことも重要だと思います。
というわけでこの結果を踏まえた上でどう考えていくか、記事中のわからなかった部分への質問、他の論文の紹介等々なんでも構いませんのでコメントしていただけたら嬉しいです。一緒に考えて行きましょう。宜しくお願い致します。