【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

血糖値の厳格な管理で予後にどう影響を与えるのか?

前回は2型糖尿病患者の血圧を厳格に管理し、厳格な管理を中止した後の予後を検討した研究でしたが、今回は血糖を厳格に管理すると予後がどうなるのかという研究を読んでみたいと思います。

 
「10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes.」
PMID: 18784090
 
 
ランダム化比較試験で血糖に対する強化療法群と従来療法群の比較をした後、試験終了後も長期的に強化療法群の効果が持続するのかを検討した観察研究のようです。
 
なのでまずは始めに行われたランダム化比較試験を読んでみます。
 
「Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33). UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group.」
PMID: 9742976
 
 
アブストラクトしか読めませんが、
P : 3ヶ月の食事療法を行った後、空腹時血糖が108mg/mL~270mg/mLで新たに2型糖尿病と診断された患者。年齢中央値54歳。3867人。(白人81%、アフリカ系カリブ人9%、アジア人10%)
E : 空腹時血糖≦108mg/dLを目標にSU剤(クロルプロパミド・グリベンクラミド・グリミザイド)やインスリン、肥満患者にはメトホルミンを投与する強化療法
C : 空腹時血糖<270mg/mLを目標に食事療法を行った従来治療法
O : 糖尿関連エンドポイント・糖尿病関連死・全死亡
 
※糖尿病関連エンドポイント→突然死・高血糖又は低血糖によ死亡・致死性又は非致死性の心筋梗塞・狭心症・心不全・脳卒中・腎不全・指の切断手術・硝子体出血・網膜光凝固・片目の失明・白内障手術
※糖尿病関連死→心筋梗塞・脳卒中・末梢血管疾患・腎疾患・高血糖・低血糖による死亡、突然死
 
 
ITT解析が行われており、追跡期間は10年間で、当たり前ですけど盲検化は行われていないようです。
結果は強化療法群のHb1Acの平均が7.0%、従来治療法群では7.9%であり、糖尿病関連エンドポイントの強化療法群のリスク低下は12%(95%信頼区間1-21、p=0.029)、糖尿病関連死のリスク低下は10%(95%信頼区間-11-27、p=0.34) 、全死亡のリスク低下は6%(95%信頼区間-10-20,、p=0.44)。
また、大血管症ではリスクの低下を認めず細小血管疾患ではリスク低下が25%(95%信頼区間7-40、 p=0.0099)という結果だったようです。
この時点で有意にリスクを下げているのは糖尿病関連エンドポイントの細小血管疾患だけなんですね。
 
 
では改めて「10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes.」を読んでいきたいと思います。
 
 
上記のランダム化比較試験終了後、通常の糖尿病治療を行った患者の10年間の糖尿病関連エンドポイント・糖尿病関連死・全死亡・心筋梗塞・脳卒中・末梢血管疾患・小血管症について検討されています。
エンドポイントが複数設定されているのが気になるところですね。
ちなみに試験薬を中止した1年後には強化療法群と従来療法群のHbA1cの値に差がなくなっていたようです。
追跡率は96.5%で、観察研究期間もITT解析が行われているようです。患者背景には特に気になるような偏りは見られません。
 
結果は以下
①SU剤-インスリン群
・糖尿病関連エンドポイント : 強化治療群(48.1%) vs 従来治療群(52.2%)→リスク比0.91(95%信頼区間0.83-0.99、p=0.04)
 
・糖尿病関連死 : 強化治療群(14.5%) vs 従来療治療群(17.0%)→リスク比0.83(95%信頼区間0.73–0.96、p=0.01)
 
・全死亡 : 強化治療群(26.8%) vs 従来治療群(30.3%)→リスク比0.87(95%信頼区間0.79–0.96、p=0.007)
 
・心筋梗塞 : 強化治療群(16.8%) vs 従来治療群(19.6%)→リスク比0.85(99%信頼区間0.74–0.97、p=0.01)
 
・脳卒中 : 強化治療群(6.3%) vs 従来治療群(6.9%)→リスク比0.91(95%信頼区間0.73–1.13、p=0.39)
 
・末梢血管疾患 : 強化治療群(2.0%) vs 従来治療群(2.4%)→リスク比0.82(95%信頼区間0.56–1.19、p=0.29)
 
・細小血管疾患: 強化治療群(11.0%) vs 従来治療群(14.2%)→リスク比0.76(95%信頼区間0.64–0.89、p=0.001)
 
②メトホルミン群
・糖尿病エンドポイント : 強化治療群(45.7%) vs 従来治療群(53.9%)→リスク比0.79(95%信頼区間0.66-0.95、p=0.01)
 
・糖尿病関連死 : 強化治療群(14.0%) vs 従来療治療群(18.7%)→リスク比0.70(95%信頼区間0.53–0.92、p=0.01)
 
・全死亡 : 強化治療群(25.9%) vs 従来治療群(33.1%)→リスク比0.73(95%信頼区間0.59–0.89、p=0.002)
 
・心筋梗塞 : 強化治療群(14.8%) vs 従来療法群(21.1%)→リスク比0.67(99%信頼区間0.51–0.89、p=0.005)
 
・脳卒中 : 強化治療群(6.0%) vs 従来治療群(6.8%)→リスク比0.80(95%信頼区間0.50–1.27、p=0.35)
 
・末梢血管疾患 : 強化治療群(2.3%) vs 従来治療群(3.4%)→リスク比0.63(95%信頼区間0.32–1.27、p=0.19)
 
・細小血管疾患 : 強化治療群(12.4%) vs 従来治療群(13.4%)→リスク比0.84(95%信頼区間0.60–1.17、p=0.31)
 
ランダム化比較試験の終了後10年後もSU剤-インスリン投与群では細小血管疾患のリスク低下は持続するが、メトホルミン投与では持続がみられない。また、ランダム化比較試験時点ではみられなかった糖尿病エンドポイントや死亡に対するリスクの低下が10年後にはみられた。メトホルミン投与群の方がリスクの低下度が大きいようにみえる。
観察試験なので、早期の厳格な血糖コントロールを行うことで長期的に血管合併症のリスクが低下することが示唆されるという結果。
 
ただし、強化療法群としてHbA1c<6.0%を目標としたACCORD試験では全死亡が増加したため試験が中止されているので、「厳格な」血糖コントロールと言ってもHbA1c<6.0%を目指すような治療は避けるべきだと思います。