【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

腎機能が低下した患者へのスタチンの使用【メモ】

【私的背景】

以前、高度に腎機能が低下するほど、スタチンの効果は減弱することが示唆されているメタ解析の論文を読んだが、今回は他の論文をいくつか読んでメモしておきたい。

 

 

 

①「Benefits and harms of statin therapy for persons with chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis.」

PMID: 22910937

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22910937

→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析、追跡期間中央値は6ヶ月

 

【PECO】

: CKDの成人

: スタチン

: プラセボまたは治療なし

: 総死亡および心血管死亡、心血管イベント、心筋梗塞脳卒中、有害事象

 

【結果】

〇総死亡および心血管死亡

①総死亡

・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.81(95%信頼区間 0.74~0.88)

・透析患者→相対リスク 0.96(95%信頼区間 0.88~1.04)

・腎移植患者→相対リスク 1.05(95%信頼区間 0.84~1.31)

②心血管死亡

・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.78(95%信頼区間 0.68~0.89)

・透析患者→相対リスク 0.94(95%信頼区間 0.82~1.07)

・腎移植患者→相対リスク 0.68(95%信頼区間 0.45~1.02) 

 

〇心血管イベント

・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.76(95%信頼区間 0.73~0.80)

・透析患者→相対リスク 0.95(95%信頼区間 0.87~1.03)

・腎移植患者→相対リスク 0.84(95%信頼区間 0.66~1.06)

 

心筋梗塞および脳卒中

心筋梗塞

・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.55(95%信頼区間 0.42~0.72)

・透析患者→相対リスク 0.87(95%信頼区間 0.71~1.07)

・腎移植患者→相対リスク 0.70(95%信頼区間 0.48~1.01)

脳卒中

・透析導入のないCKD患者→相対リスク 0.61(95%信頼区間 0.38~0.98)

・透析患者→相対リスク 1.30(95%信頼区間 0.79~2.11)

・腎移植患者→相対リスク 0.86(95%信頼区間 0.62~1.20)

 

〇有害事象

・癌の発症→相対リスク 0.96(95%信頼区間 0.89~1.04)

・筋肉痛→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.94~1.04)

クレアチニンキナーゼ上昇→相対リスク 1.11(95%信頼区間 0.80~1.56)

・肝機能異常→相対リスク 0.99(95%信頼区間 0.70~1.40)

・治療の中断→相対リスク 1.07(95%信頼区間 0.91~1.26)

 

【コメント】

腎機能低下が高度になるほどスタチンのベネフィットは相対的に小さくなる印象がある。

しかし、中央値で見ると追跡期間は非常に短く、透析患者・腎移植患者では有意な差は見られていなくても、効果がないとは言えない点には注意が必要。

出版バイアスや異質性については不明であり、仮説生成的なメタ解析である点も注意が必要である。

有害事象に大きな差がみられていない点は興味深い。

 

 

②「Statins and Cardiovascular Primary Prevention in CKD: A Meta-Analysis.」

PMID: 25833405

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25833405

→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析、追跡期間中央値46.4ヶ月

 

【PECO】

P : 一次予防で脂質降下治療が行われているCKD患者

E : スタチン

C : プラセボ

O : 心血管疾患

 

【結果】

〇心血管疾患

・CKD stage1~3→リスク比 0.59(95%信頼区間 0.48~0.72)P<0.0001、I²=0%、NNT=32人/年

・CKD stage3のみ→リスク比 0.56(95%信頼区間 0.45~0.69)P<0.0001、I²=0%、NNT=30人/年

 

※二次アウトカム

〇総死亡

・stage1~3→リスク比 0.66(95%信頼区間 0.49~0.88)P=0.005、I²=22%、NNT=65人/年

・stage3のみ→リスク比 0.62(95%信頼区間 0.47~0.82)P<0.0001、I²=10%、NNT=58人/年

〇冠動脈疾患

・stage1~3→リスク比 0.55(95%信頼区間 0.42~0.72)P<0.0001、I²=0%、NNT=50人/年

・stage3のみ→リスク比 0.55(95%信頼区間 0.42~0.73)P<0.0001、I²=0%、NNT=49人/年

脳卒中

・stage1~3→リスク比 0.56(95%信頼区間 0.28~1.13)P=0.11、I²=57%、NNT=110人/年

・stage3のみ→リスク比 0.43(95%信頼区間 0.25~0.75)P=0.003、I²=0.27、NNT=73人/年

 

【コメント】

NNTを見てみると(Table 3)、CKDのない患者よりも大きな効果があることが示唆されている点が興味深い。

このメタ解析の結果からは、GFR <30ml/分/1.73㎡の場合については不明であり、MEGA studyなどの各ランダム化比較試験のNNTとは大きな差があるため、このまま受け止めて良いものかどうか疑問が残るが、一次予防においてもベネフィットはありそうである。

出版バイアスについては不明。

 

 

③「Effect of Statins on Kidney Disease Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis.」

PMID: 26905361

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26905361

→ランダム化比較試験のシステマティックレビュー&メタ解析

 

【PECO】

: 透析導入のないCKD患者

: スタチン

: プラセボ、通常ケア

: 腎不全イベント(eGFRが20%以上または50%低下、血清クレアチニン値倍化、末期腎障害)

 

【結果】

・腎不全イベント→オッズ比 0.98(95%信頼区間 0.87~1.10)P=0.07、I²=50%

・末期腎障害→オッズ比 0.98(95%信頼区間 0.90~1.07)P=0.07、I²=0%

 

※二次アウトカム

・eGFRの変化率→平均差 0.41(95%信頼区間 0.11~0.70)

・タンパク尿またはアルブミン尿の変化→標準偏差 -0.65(95%信頼区間 -0.94~-0.37)

・心血管イベント(致死的または非致死的心筋梗塞、致死的または非致死的脳卒中、冠血行再建、心血管死亡、心不全)→オッズ比 0.69(95%信頼区間 0.61~0.79)P<0.001、I²=33%

 

【コメント】

CKD患者に対するスタチンの使用による腎不全イベントとの関連はみられず、わずかながら腎機能を保持する効果があることが示唆されている。

しかし、統合されているメタ解析の多くは追跡期間が半年程度と短期間のものであるため、長期的な影響については不明であると考えた方が良いように思う。

出版バイアスへの配慮は見られるものの、検討はされてはいない。

 

 

まとめ

・腎機能が低下した患者において、一次予防であっても冠動脈疾患予防や死亡の延長効果はみられ、NNTを見るとその効果は決して小さくはないものである印象だが、そのまま適用すべきものではないように思う。

・高度な腎機能低下が見られる患者や透析患者においては、その効果は不明。

・副作用の増加は示唆されていない。

・長期的な使用による腎機能への影響は不明。

 

中等度の腎機能低下がみられる、患者についてスタチンの中止を考慮するといった例を経験しましたが、現時点では特に問題が起こっているわけでなければ、継続という選択で良いのかなと考えます。

心房細動患者と血圧/CKD患者への厳格な血圧管理

【私的背景】

今回は気になったけど、抄録しか読めない論文を取り上げてみたいと思う。

 

①「Relationship of Hypertension and Systolic Blood Pressure With the Risk of Stroke or Bleeding in Patients With Atrial Fibrillation: The Fushimi AF Registry.」

PMID: 28575205

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28575205

 

【PECO】

: 心房細動患者(3713例)

: 高血圧あり

: 高血圧なし

: 脳卒中/全身性塞栓症、大出血

 

【チェック項目】

・研究デザイン : コホート研究(伏見レジストリー)

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 京都府伏見区の心房細動患者を可能な限り全例登録されており、大きな問題はないように思われる

・追跡期間中央値 : 1035日

 

【結果】

〇ベースライン時SBP ≧150mmHg群 vs 高血圧なし群

脳卒中/全身性塞栓症→ハザード比 1.74(95%信頼区間 1.08~2.72)

・大出血→ハザード比 2.01(95%信頼区間 1.21~3.23)

〇ベースライン時SBP <150mmHg群 vs 高血圧なし群

脳卒中/全身性塞栓症および大出血について有意な差は見られなかった

 

【感想】

血圧が高いと脳卒中/全身性塞栓症および大出血のリスクが高くなることが示唆されているが、あくまでもベースライン時の血圧であるため、どの程度の血圧で管理すべきかについては不明確。

まあ、年齢にもよるが心房細動あるなしに関わらず、SBP ≧150mmHgであれば警戒が必要か。

 

関連記事

 

 

②「Effects of Intensive BP Control in CKD.」

PMID: 28642330

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28642330

 

【PECO】

: CKD患者

: SBP <120mmHgを目標に降圧治療を行う

: SBP<140mmHgを目標に降圧治療を行う

: 心筋梗塞・急性冠症候群・脳卒中心不全・心血管死亡の複合アウトカム

 

【チェック項目】

・研究デザイン : ランダム化比較試験(SPRINT試験)の事前設定解析

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・追跡期間中央値 : 3.3年間

 

【結果】

・心血管複合アウトカム→ハザード比 0.81(95%信頼区間 0.63~1.05)

※一次アウトカム以外

・総死亡→ハザード比 0.72(95%信頼区間 0.53~0.99)

・eGFRが50%以上低下または末期腎障害→ハザード比 0.90(95%信頼区間 0.44~1.83)

・eGFRの変化 : E群(-0.47ml/min/1.73㎡) vs (-0.32ml/min/1.73㎡)

 

【感想】

厳格な降圧治療について、心血管複合アウトカムは有意な差は見られていないものの減少傾向が見られており、一次アウトカムではないものの死亡リスクを低下させることが示唆されている。

SPRINT試験では血圧の測定を3回行って、その平均を取っており、実臨床とは乖離している点には注意が必要である。

以前読んだメタ解析とは結果がやや異なり、厳格な降圧治療を行うべきだと結論することは出来るものではない。

しかし、患者背景などを詳しく見ていきたいところではあるが、SPRINT試験に準じるとすれば、肥満があり、利尿薬をベースに使用するという条件であれば、厳格な降圧治療を行うベネフィットはあるのかもしれない。

 

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