NSAIDsの使用は短期間でも急性心筋梗塞の発症と関連しますか?
久々の更新になってしまいました、WS編もまだ途中ですが、空港での待ち時間を利用して、今回は気になった論文を読んでいきたいと思います。タブレットで書いているので、お見苦しい点もあるかもしれませんが、ご容赦ください。
「Risk of acute myocardial infarction with NSAIDs in real world use: bayesian meta-analysis of individual patient data」
BMJ 2017; 357 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j1909 (Published 09 May 2017)Cite this as: BMJ 2017;357:j1909
PECO
P : 4つのコホート研究に登録された患者446763例
E : NSAIDsの使用あり
C : 使用なし
O : 急性心筋梗塞
チェック項目
・研究デザイン : システマティックレビュー&メタ解析
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・一次アウトカムは明確か? : 明確
・評価者バイアス : 「Two researchers developed literature search strategies
and selected studies」と記載されている
・出版バイアス : 関連する記載は見当たらない
・元論文バイアス : 全て観察研究、その他関連する記載は見当たらない
・異質性バイアス : 検討されているか不明
結果
【セレコキシブ】
・開始後1~7日→調整オッズ比 1.24(95%信頼区間0.91~1.82)
・>200mg/日および>30日→調整オッズ比 1.25(95%信頼区間0.94~1.66)
【ジクロフェナク】
・開始後1~7日→調整オッズ比 1.50(95%信頼区間1.06~2.04)
・>100mg/日および>30日→調整オッズ比 1.48(95%信頼区間1.08~1.95)
【イブプロフェン】
・開始後1~7日→調整オッズ比 1.48(95%信頼区間1.00~2.26)
・>1200mg/日および>30日→調整オッズ比 1.47(95%信頼区間1.04~2.04)
【ナプロキセン】
・開始後1~7日→調整オッズ比1.53(95%信頼区間1.07~2.33)
・>750mg/日および>30日→調整オッズ比 1.21(95%信頼区間0.91~1.57)
【ロフェコキシブ】
・開始後1~7日→調整オッズ比 1.58(95%信頼区間1.07~2.17)
・>25mg/日および>30日→調整オッズ比 1.56(95%信頼区間1.09~2.18)
感想
これまで漫然投与には注意してきたものの、短期間でも薬剤によっては急性心筋梗塞と関連することが示唆されております。
Table1を見るとほとんどが高齢者のようですが、質の高いメタ解析とは言い難い印象ではあるものの、高齢者においては、特に解熱のためにしばしば使われることのあるジクロフェナクなどは使用を控え、他の薬剤の使用を検討すべきかと思います。
それにしても、論文読まないとあっという間に読めなくなるし、考えられなくなりますね。継続しなければ。
風邪に抗菌薬は必要ですか? ~WS編③
今回も仙台ワークショップのグループワークで挙がった臨床疑問について取り上げたいと思います。
今回のPECOはこちら
P : 風邪の患者さんに
E : 抗菌薬を投与すると
C : 抗菌薬を投与しない場合と比べて
O : 風邪が治る期間が短くなるか?入院せずにすむか?重症化せずにすむか?有害事象が増えるか?
こちらも非常に興味深い疑問ですね。よく話題になるテーマです。
今回のPECOに関連した記事を以前書いていたので、まずはそちらを紹介したいと思います。
急性呼吸器感染症の患者への抗菌薬投与で、有害事象については有意な増加見られず、肺炎による入院については有意な減少が見られているものの、NNTを見てみると12255人という衝撃的な数字となっており、臨床的に意義のある差であるとは言い難い印象です。
次はちょっと古い論文を。コクランレビューです。
①「Antibiotics for the common cold.」
PMID:12137610
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12137610
→急性上気道感染症の症状が7日以上続いている患者に対して、抗菌薬の使用とプラセボの使用について比較されているランダム化比較試験のシステマティックレビュー。
【結果】
・症状の持続→オッズ比 0.8(95%信頼区間 0.59~1.08)
・鼻水→オッズ比 0.42(95%信頼区間 0.22~0.78)
・咽頭痛→オッズ比 0.27(95%信頼区間 0.10~0.74)
・成人での有害事象→オッズ比 3.6(95%信頼区間 2.21~5.89)
・子供での有害事象→オッズ比 0.90(95%信頼区間 0.44~1.82)
【解説】
意外にも鼻水・咽頭痛の症状改善との関連はみられているものの、全体的な症状の持続期間短縮との関連は見られず、成人においては有害事象との関連が示唆されております。
やはり、風邪に対する抗菌薬使用が正当化されるようなものではない印象です。
最後に、ワークショップ終了後に発覚したのですが、参加者が見つけていた論文を紹介したいと思います。
③「Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial.」
PMID:26719947
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26719947
→急性非複雑性呼吸器感染症の患者(405例、平均年齢45歳、男性34.2%)を対象としたランダム化比較試験。
増悪時に抗菌薬の使用を指示する遅延戦略、①増悪時に再診し抗菌薬が使用される遅延戦略、②直ちに抗菌薬投与、③抗菌薬投与なしの4群について、④症状持続期間と重症度について検討されている。
【結果】
・症状の平均持続期間
①増悪時に抗菌薬使用:13.1日間 ②増悪時に再診:12.3日間 ③直ちに抗菌薬使用:11.7日間 ④抗菌薬なし:14.4日間
・あらゆる症状の最も高い重症度中央値(Likertスケール)
①5(4~5)、②5(3~5)、③5(3~5)、④5(4~6)
【解説】
症状の持続期間について差は見られているものの、直ちに抗菌薬投与群と増悪時に再診群では0.5日とそれほど大きな差ではなく、重症度についてはすべての群において差が見られていません。
急性非複雑性呼吸器感染症の患者において、抗菌薬が必要である人と必要がない人がいるというのは当然のことではありますが、症状発症早期から鑑別することは難しい場合が多いのではないかという点を考えると、増悪したら抗菌薬の使用を検討する遅延処方戦略が妥当なものではないかと思います。
今回は以上です。
他にも風邪に抗菌薬が検討されている論文はいくつかあるため、自分で探してみると新たな発見があるのではないかと思います。
それにしても、初めのPECOに合致するものではありませんが、遅延処方戦略について検討されているランダム化比較試験は非常に参考になるものではないかと思います。
ただ、WSは初心者を対象としていたため、見つけてはいるものの、参考になる論文であるかどうかが判断できないというケースがあったようです。
私がうまくフォローしていればと反省しております。次回に活かさなければ。