【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

ベンゾジアゼピン系薬の使用は転倒・骨折リスクを増加させますか?~WS編①

今回は、先日仙台で開催したAHEADMAPワークショップ「みんなで考える臨床疑問と、EBM実践はじめの一歩」のグループワークで挙がった臨床疑問と関連する論文をいくつか読んでみたいと思います。

 

今回紹介させていただくPECOはこちら、

P : 高齢者(75歳以上、施設入居者など)に

E : ベンゾジアゼピン系薬(BZD)を投与すると

C : 使っていない人に比べて

O : 転倒リスク(または、死亡リスク・骨折リスク・寝たきり・認知症など)が上がってしまうのか?

 

良いPECOですね。

アウトカムも興味深いものばかりですが、今回は転倒予防の目的であり、寝たきりに至る可能性のある骨折リスクに焦点を当てて調べてみたいと思います。

 

 

①「Benzodiazepine and risk of hip fractures in older people: a nested case-control study in Taiwan.」

PMID:18669947

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18669947

→台湾の65歳以上の高齢者を対象としたコホート内症例対照研究。

BZD使用ありの群と使用なしの群で、大腿骨骨折の初発について検討されている。

 

【結果】

・BZDの使用あり→調整オッズ比 1.7(95%信頼区間 1.2~2.5)

・BZD開始後の一カ月間→調整オッズ比 5.6(95%信頼区間 2.7~11.8)

ジアゼパム 3mg/日以上の使用→調整オッズ比 1.8(95%信頼区間 1.1~3.1)

・短時間作用型BZDの使用→調整オッズ比 1.8(95%信頼区間 1.3~2.7)

 

【解説】

高齢者においてBZDの使用は大腿骨骨折と関連することが示唆されており、開始後一カ月以内・高用量・短時間作用型でリスクが高いことが示唆されている。

 

 

②「Association between use of benzodiazepines and risk of fractures: a meta-analysis.」

PMID:24013517

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24013517

→観察研究のメタ解析。BZDの使用と骨折リスクについて検討されている。

 

【結果】

・BZDの使用→相対リスク 1.25(95%信頼区間 1.17~1.34)P<0.001

・65歳以上のBZDの使用→相対リスク 1.26(95%信頼区間 1.15~1.38)P<0.001

※サブグループ解析

・長時間作用型BZDの使用→相対リスク 1.21(95%信頼区間 0.95~1.54)P=0.12

 

【解説】

やはりBZDの使用は骨折リスクを増加させることが示唆されている。

長時間作用型BZDの使用では有意な差はみられていないが、あくまでもサブグループ解析であり、検出力が不足していた可能性なども考えられ、リスクがないとは結論できない点には注意が必要。

 

 

③「Risk of hip fracture among older people using anxiolytic and hypnotic drugs: a nationwide prospective cohort study.」

PMID:24810612

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24810612

ノルウェイ高齢者(平均年齢 72.8歳)を対象としたコホート研究。

各薬剤の使用ありと使用なしで、大腿骨骨折について検討されている。

 

【結果】

抗不安薬→標準化罹患比 1.4(95%信頼区間 1.4~1.5)

・催眠薬→標準化罹患比 1.2(95%信頼区間 1.1~1.2)

・短時間作用型BZD→標準化罹患比 1.5(95%信頼区間 1.4~1.6)

・Z-Drug→夜:標準化罹患比 1.3(95%信頼区間 1.2~1.4)、昼:標準化罹患比 1.1(95%信頼区間 1.1~1.2)

 

【解説】

こちらの研究でも大腿骨骨折について短時間作用型BZDで特にリスクが高いことが示唆されている。

また、Z-Drugでも大腿骨骨折リスクが増加することが示唆されている。

 

 

④「Antipsychotic and Benzodiazepine Drug Changes Affect Acute Falls Risk Differently in the Nursing Home.」

PMID:26248560

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26248560

→米国の2つの高齢者施設に入居している高齢者(平均年齢 87.5歳、女性 75.1%)を対象としたケースクロスオーバー研究。

抗精神病薬・BZDと転倒について検討されている。

 

【結果】

・BZD開始後24時間以内→オッズ比 3.79(95%信頼区間 1.10~13.00)

抗精神病薬開始後24時間以内→オッズ比 2.42(95%信頼区間 0.58~10.06)

・BZDの中止→オッズ比 0.26(95%信頼区間 0.08~0.91)

 

【解説】

BZDの中止が転倒リスク低下と関連することが示唆されている貴重な報告。

抗精神病薬開始と転倒については関連がみられていないが、βエラーである可能性が高い。

 

 

 

ひとまず、この辺で今回の論文を調べるのは終わりにしたいと思います。

各研究でBZDの使用が骨折リスクを増加させることが示唆されておりますが、全て観察研究であるため、そもそも睡眠障害が骨折リスクを増加させるなどの交絡の可能性も考えられるかもしれません。

しかし、BZDの中止が転倒リスク低下と関連することが示唆されている点を考慮すると、やはりBZDの使用は転倒・骨折のリスクを増加させると考えて問題ないように思います。

 

BZDと転倒・骨折について検討されている論文は他にもあるので、自分で探してみるとまた新たな発見があるかもしれません。

是非、検索して論文を読んでみてください。

 

関連記事として、BZDと認知症について検討されている論文の記事とその他の転倒リスクを増加させる薬剤についての記事も貼りますので、お時間がある時に読んでいただければ幸いです。

 

 

関連記事

 

 

 

 

 

 

 

 

血清クレアチニン値が30%以上増加したらACE阻害薬/ARBは中止した方が良いですか?

私的背景】

以前から気になっていたもののスルーしていた論文だが、Twitterで話題になっていたので読んでみることにした。

 

 

「Serum creatinine elevation after renin-angiotensin system blockade and long term cardiorenal risks: cohort study.」

PMID:28279964

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28279964

 

PECO

: ACE阻害薬またはARBによる治療が開始された18歳以上の患者(英国、122363例)

: 血清クレアチニン値の30%以上増加あり

: なし

: 末期腎疾患、心筋梗塞心不全、総死亡

 

チェック項目

・研究デザイン : コホート研究

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・対象集団の代表性は? : 英国における一般診療のデータベースが使用されており、大きな問題はないと思われる

・交絡因子の調整は? : 年齢、性別、併存疾患(糖尿病、心筋梗塞心不全、高血圧、不整脈、末梢動脈疾患、慢性腎疾患)、併用薬(β遮断薬、Ca拮抗薬、チアジド、ループ系利尿薬、K保持性利尿薬、NSAIDs)、生活習慣(喫煙、飲酒、BMI)、経済的地位、暦年、初回処方からの期間

 

結果

【末期腎疾患】

E群(5.2/1000人年) vs C群(1.3/1000人年)→調整ハザード比 3.43(95%信頼区間 2.40~4.91)

心筋梗塞

E群(11.0/1000人年) vs C群(5.9/1000人年)→調整ハザード比 1.46(95%信頼区間 1.16~1.84)

心不全

E群(28.9/1000人年) vs C群(12.4/1000人年)→調整ハザード比 1.37(95%信頼区間 1.14~1.65)

【総死亡】

E群(72.7/1000人年) vs C群(22.4/1000人年)→調整ハザード比 1.84(95%信頼区間 1.65~2.05)

 

感想

なかなか難しい論文ですね。

ACE阻害薬/ARBを使用していて血清クレアチニン値の30%以上増加がみられた場合は、末期腎疾患・心筋梗塞心不全・総死亡のリスクが増加することが示唆されており、サブグループ解析では10%以上の増加で各アウトカムのリスク増加が示唆されている点からも、腎機能をモニターしていくことが重要であるとは言えますが、実際に中止した場合にどうなるかまではわからない結果であるとは思います。

 

ただ、個人的にはこの論文における示唆は無視できるものではなく、市中の保険薬局でよく見られる高血圧症に対する、特にARBによる治療などはそのベネフィットを考慮すると中止または変更も考慮され得るものではないかとも思います。

 

ガイドラインで推奨される治療中止基準も案外妥当なものかもしれないという印象でした。