アロプリノールは高尿酸血症患者の腎機能低下を抑えられますか?
【私的背景】
高尿酸血症は腎機能低下リスクを増加させることが知られているが、アロプリノールを使用することでリスクを減少させられるのかについて調べてみたい。
①「Allopurinol and progression of CKD and cardiovascular events: long-term follow-up of a randomized clinical trial.」
PMID:25595565
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25595565
※抄録のみ
→無症候性高尿酸血症の患者113例を対象とした、単盲検ランダム化比較試験のポストホック解析。アロプリノール100mg/日(E群)と標準治療(C群)で腎イベント・心血管イベントについて検討されている。追跡期間の中央値は84ヶ月間。
[腎イベント(透析の開始・血清クレアチニン倍増・eGFRが50%以上低下)]
E群(15.8%) vs C群(42.9%)→ハザード比 0.32(95%信頼区間 0.15~0.69)P=0.004、NNT=4人
※年齢、性別、ベースライン時の腎機能、尿酸値、RAS系阻害薬の使用について調整されている
[心血管イベント(心筋梗塞・冠動脈再建・狭心症・うっ血性心不全・脳血管疾患・末梢動脈疾患)]
E群(28.1%) vs C群(41.1%)→ハザード比 0.43(95%信頼区間 0.21~0.88)P=0.02、NNT=8人
※年齢、性別、ベースライン時の腎機能について調整されている
【コメント】
無症候性高尿酸血症の患者ではアロプリノールを使用することにより、腎イベント・心血管イベントのリスクが減少することが示唆されている。
ただし、あくまでもランダム化比較試験のポストホック解析であり、ランダム化比較試験自体は単盲検であるが複合アウトカムにソフトエンドイントが含まれている点には注意が必要であり、症例数も少ないため過大に評価されている可能性も大きく、割り引いて考える必要がある。
②「Effect of allopurinol in chronic kidney disease progression and cardiovascular risk.」
PMID:20538833
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20538833
→eGFR<60ml/分であり、心血管イベントの既往のない113例を対象とした単盲検ランダム化比較試験。アロプリノール100mg/日(E群)と標準治療(C群)で、入院・心血管イベント・透析が必要な末期腎疾患・死亡について検討されている。追跡期間は平均で23.4±7.8ヶ月。尿酸値はE群が7.9±2.1mg/dl、C群が7.3±1.6mg/dl。平均年齢はおよそ71.2歳。
[eGFRの変化]
・E群 : ベースライン時 40.8±11.2ml/分/1.73㎡→24ヶ月後 42.2±13.3ml/分/1.73㎡
・C群 : ベースライン時 39.5±12.4/分/1.73㎡→24ヶ月後 35.9±12.3ml/分/1.73㎡
eGFRの変化には有意な差が見られた(P=0.0001)
[死亡・透析]
各群ともに1例ずつであった
[心血管イベント(心筋梗塞・冠動脈再建・狭心症・うっ血性心不全)]
E群(12.3%) vs C群(26.8%)→P=0.039、NNT=7人
[入院]
E群(21.1%) vs C群(39.3%)→P=0.032、NNT=6人
【コメント】
①でポストホック解析が行われた元のランダム化比較試験であると思われる。
やはり単盲検でソフトエンドポイントが含まれている点に注意。
eGFRの変化について差は見られているものの、追跡期間が短いためか、それほど大きな差ではない印象。
③「The Effect of Allopurinol on Renal Function.」
PMID:28002149
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28002149
※抄録のみ
→高尿酸血症(尿酸値7mg/dl以上)のある男性退役軍人50例を対象とした後ろ向きコホート研究。アロプリノールの新規使用あり(E群)となし(C群)で比較されている。アロプリノールの用量は平均221mg/dl。追跡期間は平均3.4年間。
[GFR]
・E群はC群と比較して11.9mL/min高かった(95%信頼区間 4.8~11.9mg/日、P=0.01)
・初期eGFRが高いほど、治療効果は高かった
[クレアチニン値]
E群で0.10mg/dL低かった(95%信頼区間 0.003~0.20mg/dL、P=0.04)
【コメント】
GFRに有意な差が見られているものの、観察研究であるため、腎機能障害を伴う患者では副作用発現のリスクが高い可能性のあるアロプリノールは、より腎機能が低下していない患者で使われていたという事も考えられる。
抄録しか読めないが、患者背景や交絡因子の調整について見たいところ。
95%信頼区間の単位がよくわからない...。
感想
高尿酸血症のある患者ではアロプリノールを使用することで、腎機能低下を予防できる可能性はあるかもしれませんが、効果としてはそれほど大きなものではない印象であり、現時点では積極的な使用を支持するものではないように思います。
ただ、②のランダム化比較試験では尿酸値がそれほど高くはない患者が対象となっているため、もっと尿酸値が高い患者であれば腎機能低下に対する効果は大きくなる可能性はあるかもしれません。
積極的な使用は支持しないような印象ではあるものの、腎機能低下を予防する目的で無症候性高尿酸血症患者へアロプリノールが処方されるというのもまあ一理あるのかなと思いました。
ただ、腎疾患・心血管疾患を有する患者では過敏症リスクが増加することが示唆されている研究(PMID:26193384 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26193384 )もあり、特にそういった患者では警戒が必要です。
喘息患者は心血管疾患の治療のためにβ遮断薬を使用しても大丈夫ですか?
【私的背景】
心血管疾患の治療に用いられるβ遮断薬の喘息への影響について検討されている論文を読んでみる。
「Respiratory effect of beta-blockers in people with asthma and cardiovascular disease: population-based nested case control study」
Daniel R. MoralesEmail author, Brian J. Lipworth, Peter T. Donnan, Cathy Jackson and Bruce Guthrie
BMC Medicine201715:18
DOI: 10.1186/s12916-017-0781-0© The Author(s). 2017
Received: 2 August 2016Accepted: 5 January 2017Published: 27 January 2017
https://bmcmedicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12916-017-0781-0
PECO
P : 18歳以上で、喘息および心血管疾患の治療が行われている患者(英国、35502例、平均年齢60.1歳、女性59.7歳)
【症例】中等度(経口ステロイドによる治療)または重度(入院・死亡)の喘息増悪のあった患者
【対照】年齢・性別・暦年でマッチングされた患者
E : 心血管疾患の治療のためにβ遮断薬の使用あり
C : β遮断薬の使用なし
O : 中等度または重度の喘息増悪
チェック項目
・研究デザイン : コホート内症例対照研究
・真のアウトカムか? : 真のアウトカム
・対象集団の代表性は? : 一般診療のデータベースが使用されており、大きな問題はない
・交絡への配慮は? : 喘息の治療(SABA、ICS、LABA、LT拮抗薬、メチルキサンチン類)、呼吸器感染症、喘息による入院の既往、心血管疾患用薬の使用(α遮断薬、CCB、利尿薬、硝酸薬、RA系阻害薬)、年齢、喫煙歴、BMI、生活水準、併存疾患、プライマリケアの受診について調整されている
・暴露の定義は? : 発症日から61~365日前は処方されておらず60日前以内はβ遮断薬が処方されている例をcurrent acute exposure、61~365日前から1つ以上のβ遮断薬が処方されており60日前以内も処方されている例をcurrent chronic exposureと定義されている。
1日量がアセブトロール200mg、アテノロール50mg、ビソプロロール5mg、カルベジロール25mg、セリプロロール200mg、メトプロロール100mg、ナドロール80mg、オキシプレノロール80mg、ピンドロール10mg、ソタロール160mg、チモロール10mg以上使用されているものはHigh doseと定義されている。
結果
心血管選択的β遮断薬が処方されていたのは5017例(14.1%)、そのうち主に処方されていたものはアテノロール(7.9%)とビソプロロール(5.4%)
非選択的β遮断薬が処方されていたのは407例(1.2%)、そのうち主に処方されていたのはソタロール(0.6%)とカルベジロール(0.4%)
【心血管選択的β遮断薬】
・重度の増悪→調整発生率比 0.87(95%信頼区間 0.57~1.35)P=0.540
・中等度の増悪→調整発生率比 0.97(95%信頼区間 0.85~1.11)P=0.658
※低用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 0.85(95%信頼区間 0.53~1.36)P=0.501
・中等度の増悪→調整発生率比 0.96(95%信頼区間 0.83~1.10)P=0.544
※高用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 0.96(95%信頼区間 0.33~2.84)P=0.943
・中等度の増悪→調整発生率比 1.08(95%信頼区間 0.82~1.42)P=0.600
【非選択的β遮断薬】
・重度の増悪→調整発生率比 1.66(95%信頼区間 0.53~5.35)P=0.398
・中等度の増悪→調整発生率比 1.41(95%信頼区間 0.95~2.08)P=0.088
※低用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 1.19(95%信頼区間 0.31~4.53)P=0.799
・中等度の増悪→調整発生率比 1.24(95%信頼区間 0.80~1.91)P=0.336
※高用量の使用
・重度の増悪→調整発生率比 12.11(95%信頼区間 1.02~144.11)P=0.048
・中等度の増悪→調整発生率比 2.67(95%信頼区間 1.08~6.62)P=0.034
感想
β遮断薬全体では喘息増悪との関連は見られていないものの、非選択的β遮断薬の高用量群では重度の増悪について有意な増加がみられ、その他も有意な差はみられてはいないものの増加傾向にあり、そもそも症例数が少ないためβエラーの可能性もあるので注意すべきかもしれません。
喘息患者に非選択的β遮断薬が使用されることはあまりないかもしれませんが、やはり喘息があり心不全の治療等でβ遮断薬が必要な場合は心血管選択的β遮断薬の方がベターである印象です。
ただ、私の理解では症例対照研究ではIRRは計算できないように思うのですが...。
本文にはオッズ比からバイアスなくIRRが見積れると書いてありますが、その辺りも改めて調べてみなけばいけませんね。
また、高齢者では併存疾患としてCOPDがある場合も少なくないため、β遮断薬のCOPDへの影響についても今後調べてみたいと思います。