【薬局薬剤師の記録的巻物】

EBMの実践のため、論文を読み、記録していきます。

アジア人の高齢者でも厳格な血圧管理をしたほうが良いですか?

【私的背景】

前々回に取り上げたシステマティックレビュー&メタ解析(関連記事)で比較的大きなウェイトを占めていたランダム化比較試験を読んでみたいと思う。

 

 

「Effects of intensive antihypertensive treatment on Chinese hypertensive patients older than 70 years.」

PMID:23730991

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23730991

 

PECO

: 血圧≧150/90mmHgで高血圧症と診断された70歳以上の患者(中国、724例、平均年齢76.6歳)

: 血圧<140/90mmHgを目標に降圧治療を行う(363例)

:血圧<150/90mmHgを目標に降圧治療を行う(361例)

: 致死的/非致死的な脳卒中・急性心筋梗塞・心血管死亡(突然死・心不全死)の複合エンドポイント

 

チェック項目

・研究デザイン : ランダム化比較試験

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・ランダム化されているか? : されている

・盲検化されているか? : PROBE法が行われている

・ITT解析されているか? : されている

・追跡率 : 99.6%

・患者背景 : ほぼ同等

・追跡期間 : 平均4年間

 

結果

E群(25.3/1000人年) vs C群(46.8/1000人年)→E群で40.6%減少(P=0.004)、NNT=47人/年

 

※複合エンドポイントの各要素

・全脳卒中:E群(13.3/1000人年) vs C群(25.1/1000人年)→P=0.036

・出血性脳卒中:E群(2.5/1000人年) vs C群(5.6/1000人年)→P=0.240

・虚血性脳卒中:E群(10.8/1000人年) vs C群(19.5/1000人年)→P=0.087

・急性心筋梗塞:E群(5.7/1000人年) vs C群(6.2/1000人年)→P=0.991

・心不全死亡:E群(3.8/1000人年) vs C群(11.2/1000人年)→P=0.029

・心血管死亡:E群(15.8/1000人年) vs C群(34.9/1000人年)→P=0.002

 

感想

サンプル数が少ないためアウトカムの結果をやや過大評価している可能性はありますが、平均年齢76.6歳の対象集団に対して血圧140/90mmHg未満を目標とした降圧治療群は血圧150/90mmHg未満を目標とした降圧治療群と比較して一次アウトカムの有意な減少が見られ、NNTを見るとその効果は決して小さくはないものである印象です。

欧米人と比べて脳卒中を発症する割合の多いアジア人では、相対的にやや厳格な血圧管理によるベネフィットが大きい可能性はあるように思います。

 

降圧薬はACE阻害薬とCa拮抗薬がともに3割程度、β遮断薬と利尿薬がともに2割程度使用されており、ARBが使用されていないという点には注意が必要かもしれません。

 

個人的には高齢者の降圧治療に対する考え方が少し変わるような論文でしたが、いずれ、これまでに読んだ高齢者に対する降圧治療について検討されている論文をまとめて改めて考えてみたいと思います。

 

関連記事

妊娠中の女性は厳しく血圧管理をするべきですか?

【私的背景】

本日、配信のあったJJCLIP論文抄読会のお題論文を取り上げたいと思う。

 

仮想症例シナリオ→JJCLIP_#41 妊娠高血圧症はしっかり治療すべきなのでしょうか? - クスリのよろず屋「雅 (Miyabi)」の見立て

 

 

「Less-tight versus tight control of hypertension in pregnancy.」

PMID:25629739

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25629739

 

PECO

: 妊娠14週0日~33週6日である、タンパク尿を伴わない妊娠前からまたは妊娠後の高血圧症の患者。拡張期血圧が90~105mmHg、降圧薬による治療を受けている場合は85~105mmHg。(16ヶ国、987例)

: 拡張期血圧100mmHg以下を目標とした厳格ではない血圧コントロール(497例)

: 拡張期血圧85mmHg以下を目標とした厳格な血圧コントロール(489例)

: 妊娠喪失(流産、子宮外妊娠、妊娠中絶、死産、新生児死亡)または出生後28日以内に48時間以上のハイレベルな新生児ケアの複合アウトカム

 

チェック項目

・研究デザイン : ランダム化比較試験

・真のアウトカムか? : 真のアウトカム

・一次アウトカムは明確か? : 明確

・ランダム化されているか? : 層別ランダム化が行われている

・ランダム割付が隠蔽化されているか? : 中央割付が行われている

・盲検化されているか? : PROBE法が行われている

・ITT解析されているか? : されている

・追跡率 : 99.7%

・サンプルサイズ : 各群514例(検出力80%)

・患者背景 : 気になるような偏りは見られない

 

結果

〇一次アウトカム

E群(31.4%) vs C群(30.7%)→調整オッズ比 1.02(95%信頼区間 0.77~1.35)

 

〇二次アウトカム

・重篤な母体の合併症

E群(3.7%) vs C群(2.0%)→調整オッズ比 1.74(95%信頼区間 0.79~3.84)

 

感想

厳格ではない血圧管理は厳格な血圧管理と比較して、妊娠喪失・新生児ケアの複合アウトカムに差が見られないという結果になっております。

PROBE法が行われておりますが、新生児ケアというソフトエンドポイントが一次アウトカムに含まれている点、とサンプルサイズよりも人数が少ない点が気になりましたが、配信中の解説を聞いて納得しました。

ちなみにライブ履歴はこちら→Live History - 89089314 - TwitCasting

 

さて、症例シナリオに戻って考えてみると、血圧が実際にどれくらいなのかはわからないですが、医師からあまり心配はいらないと言われている点から、恐らくは慌てて治療する必要はないような状態だと思われ、まずはやはり今の状態ではそんなに心配する必要はないけど、今後それ以上血圧が上がらないようにアドバイスをするという選択をするかなと思いました。

 

いやはやしかし、子供のいない独身男性という身なので妊娠されている女性の不安などあまりわからなかったりするのですが、母親という立場からお話しして下さる方の意見は非常に参考になりました。

インターネット抄読会って素晴らしい!